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俺の四畳半が最近安らげない件  作者: 柘植 芳年
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魔石の小屋

ゲーム仲間の町岡に、妙な噂を聞いた。

「『鳴響』の廃魔力炉マップの、東部魔力集積局の陰に、隠し小屋があるんだぜ」

町岡の興奮気味な報告に貴重な15分休みを潰されたのはイラッとしたが、いい情報を聞いた。貴重な素材とか高額で売れるアイテムが手に入るかもしれない。俺は町岡と今夜9時のログインを約束した。


「これが⋯その、小屋か?」

LINEのトークを繋いで東部魔力集積局の前で合流した俺たちは、早速集積局の裏側に回った。このマップの魔力集積局は、魔力を帯びた生物を捕獲、個室に閉じ込めて魔力を吸い上げ、集積して『魔力炉』に送り込んで精製するという設定上、無数の配管が張り巡らされた工業地帯のような構造をしていて『小屋』の場所を特定するのに散々苦労した。ガセだったんじゃないのかと思い始めた頃、この小屋に辿り着いたのだ。

「ここ、入り込めたんだな」

「配管の隙間にひとつ残らず潜り続けたぜ。無駄にならなくて良かった」

⋯町岡の中間試験は散々なものだったと聞くんだが本当に無駄じゃなかったか?と思ったが飲み込んだ。

「で、この小屋は何の役に立つんだ」

一件、何の変哲もない丸太で出来た小屋だ。マップのあちこちに点在している村に建っているやつと変わらない。

「役に立つ⋯かどうかは正直、分からんのだよな」

町岡のアバターが掌を上に向けて首を振るジェスチャーをした。『やれやれ』のエモートだ。イラッとする。

「無いのか?レアなアイテムとか魔石とか」

「⋯⋯あるといえばある、ないといえばない。とにかく入ってみてくれ」



小屋のドアを開けた瞬間、俺は息を呑んだ。魔石だ、魔石!ガチャ500回は引けるんじゃないかって程の大量の魔石が四畳半程の床一面にギッシリ散りばめられている。小物系のUFOキャッチャーに敷き詰められているプラスチックの石くらいに、軽く層を作る勢いだ。

「ちょっ、これ何!?すげぇじゃん!!先に言えよ勿体ぶりやがって!」

「⋯⋯それ拾って、外に出てみ」

「限界まで拾っていい!?」

「時間の無駄だから1個にしときな」

渋々、一つだけ拾ってドアを開ける。

「荷物、確認してみ」

「あり?」

⋯⋯魔石の手持ちが増えていない。

「え?どういうこと?」

町岡のアバター(以下町岡)はグキグキと首を傾げた。

「持ち出せねぇんだよな、この小屋の中の物は」

「えぇ⋯」

「小屋の中で確認すると魔石が増えてるけど、小屋を出ると消えてる」

「なら小屋の中でガチャ引いたらいいんでは?」

「うむ、ガチャは引ける。なんなら確率がいじられているのかな、レアキャラ引ける確率がクソ高い」

「よっしゃ!!」

「でも小屋を出ると消える」

「ぬか喜びの権化みたいな場所だな⋯」

それでももう一度、小屋に入った。ログインボーナスとかイベントの報酬とかでちょろっと貰える魔石が床一面に敷き詰められている光景はスクショに値する。

「あとな、この小屋で手に入るものは魔石だけじゃないんだ」

「手に入らないって話を今したばかりだろう」

とりあえずスクショを撮る。ふと、画面の右奥辺りで意味ありげに光るコンテナ的な箱を見つけた。

「⋯宝箱?」

「うーーん⋯まぁ、開けてみ」

「またそれか」

宝箱を選択すると、スマホ画面いっぱいにレアアイテム登場時のエフェクトが表示された。

『神聖エクスカリバー・アルティメットMAX、GET!!』

すん⋯となった。そりゃそうなるだろう。激レアアイテムだろうがなんだろうが、どうせ持ち出せないのだ。とりあえず記念に装備してみる。少しケバいがかっこいい。あと名前が長い。勿論、スクショは撮る。

「⋯装備したまま出たら?」

「⋯ダメに決まってんだろ」

「分かってたよ。聞いてみただけだよ」

この宝箱は時間経過に関係なく、小屋を出たらリセットされるらしい。開ける度にレアアイテムが出てくる。攻略しなきゃいけないイベントの難易度がエグすぎて諦めたレア素材が出てきた時は指が震えた。でも小屋を出ると消える。

「俺、ここん家の子になる」

「なれんて」

一応、アイテム画面から「武器錬成」を選択して現時点での最強装備『破戒の魔剣』を錬成してみる。禍々しい紫オーラのエフェクトが画面全体を覆い、やがて紫の霧が晴れて黒い抜き身の片刃刀が顔を出した。

「やっべぇカッコイイ⋯錬成して小屋出ればいんじゃね!?」

勢いで小屋の外に飛び出し、アイテム欄を確認したが⋯やはり、魔剣は消えていた。錬成で使った他の素材は消えてなかった。

「そういうのは一通り試したんだよ。この小屋からはどうやったってアイテムを持ち出せない」

「⋯⋯⋯分かってたよ」

分かってはいたが諦め切れない。⋯まてよ、この『アイテムが消える』という現象が起きるのはどのタイミングだ?この、ドアをくぐる瞬間じゃないのか?ならば『小屋で入手したアイテムを消す』というプログラムのキーになっているのは小屋を出る、すなわち『ドアを開ける』という行為そのものでは?

「おい、ドアをお前が開けてみてくれ!」

「なるほど、それは一人じゃ出来ないな」

宝箱から出てきた神聖エクスカリバーアルティメットMAXの上位互換、神聖エクスカリバーアルティメットMAXファイナルスーパーイリュージョンを掴んで町岡が開けたドアをくぐる。⋯が、やはり神聖エクスカリバーアルティメットMAXファイナルスーパーイリュージョンは消えていた。

「⋯⋯畜生!!」

「ドアから出る行為自体がアイテム消失のキーになっているのか、このエリアから離れることがキーなのか⋯」

「よし、マップから移動!!」

フィールドマップを開いて適当な沿岸の街をタップして移動する。アイテム画面を開くが⋯⋯

「⋯ダメだ」

アイテムは消えている。やはりドア云々は関係ないのだ。しかも何の考えもなく飛び出してしまったが、この小屋自体はバグの産物なのでマップ移動が出来ない。仕方ないので東部魔力集積局に移動して再び配管の隙間を探しまくってほうほうの体で小屋に戻る。

「くっそう⋯何の時間だったんだコレは」

「無駄な時間だったな」

「いうな」

俺が肩を落とすエモートを使うと『やれやれ』のエモートが返ってきた。

「まぁ⋯考えられる方法は全部試したんだよ。それで俺、不思議になってきてさ」

町岡が魔石の上に腰を下ろした。⋯絶対ゴツゴツして痛いだろう。

「この部屋は一体、何を目的に作られたんだろうか、と」

「なんか⋯開発中とかメンテ中にガチャのテストとかで使ってる隠しエリアでは⋯」

「だったらここまで執拗にアイテム消してくるかな?」

確かに⋯レアアイテムや魔石はともかく、魔石のガチャで引いたレアキャラも錬成して出来た武器も、この部屋由来のアイテムは全部容赦なく消される。錬成で使った手持ちの素材は丸々残っているが⋯ゲームのプログラムのことはよく分からないが、普通ここまでやるだろうか。⋯俺は段々、腹が立ってきた。

「なぁ、この小屋って⋯このゲームに関わったプログラマーがこっそり嫌がらせで作ったんじゃね?」

「⋯⋯やっぱりそうか?」

「そうだよ絶対!」

一度腹が立つとなんかヒートアップしてきた。俺はさらに叫ぶ。

「俺たちがアイテムを持ち出そうと七転八倒してんのを見て何処かでほくそ笑んでるんだぜきっと!」

「そう思うと許せないな。運営に苦情入れてやろうぜ」

「いや!⋯ちょっと待て」

この小屋がある事で俺たちが損をしたわけじゃなく、執拗にぬか喜びさせられただけなのだ。なら通報したところでプログラマーがちょっと叱られて小屋が消されるだけで終わりだろう。俺は腸が煮えくり返っているんだ。どんな手を使っても運営に大損させてやる。

「考えるぞ、この小屋を使って何かいい事が出来ないか」

「⋯最強装備でスクショ撮れる?」

「それじゃ運営が損しないだろ」

「損させるのか?」

「当たり前だ。このまま泣き寝入りしてたまるか。⋯整理していくぞ。まずこの部屋からは何があろうとアイテムは持ち出せない」

「錬成した武器も、ガチャの景品もな」

「そうなんだよなぁ⋯確変のせいで有り得んくらいいいアイテム出るのにな」

確変か⋯まてよ、もしかしたら。

「おい、ガチャ引くぞ」

「え、でも景品も持ち出せないと⋯」

「ここの魔石で引いたからだろ。ログインボーナスでちまちま貯めた魔石を放出するぞ!」

「ああ⋯確変だけを利用するのか!?」

「この部屋を作った奴は『損をさせない』ことに拘りがあるっぽいだろ。アイテム錬成しても、俺が元々持ってた素材は必ず返ってくるからな。ならば、手持ちの魔石で引いた景品は⋯」

ガチャを引くと、派手な演出と共にずっと欲しかったSSレアの『イフリート改・アルティメット』が出現した。

「やった⋯!」

「なんかこのゲーム、アルティメット好きだよな⋯」

そのまま小屋を出て、恐る恐るメニュー画面を開く⋯



「―――残ってる⋯残ってるぞ!!」



イフリート改アルティメットは俺の召喚獣ボックスの中に、確かに残っていた。⋯顔が綻ぶのが分かった。

「成功か!!お、俺ちょっと魔石買ってくるわ」

「俺も買う!!」

この日俺たちは、小遣いで買えるだけの魔石を買った。




「どうだ?『例の小屋』の反応は」

「うーん⋯ぼちぼちですかねぇ」

『鳴響』開発室の柴田がExcelを立ち上げ、グラフを表示した。

「意外と気づかれないというか⋯気づいても拡散されないんですかね。さっきようやく3桁ってとこですか」

「ふぅん⋯課金してくれるユーザーはどのくらい?」

『鷺宮』と印字された社員証を首から下げた小太りの男が、汗を拭きながら柴田の隣に腰掛ける。

「小屋の存在に気がついても『変なバグ』と見なして立ち去るユーザーが大半ですが、確変だけ利用出来ることに気がついて課金するユーザーもちらほら出始めています」

「へぇ!」

「そういうユーザーはSNSでは拡散しませんねぇ⋯ただ、急に高額の課金をしますね。恐らく⋯」

柴田は個人の時系列ごとの課金グラフを表示した。今までイベント期間に数百円の課金をするだけだったユーザーが、急に五千円の魔石を購入している。課金の規模から考えて、恐らく中高生だろう。

「この小屋がバグの産物だと確信している。で、これを拡散することで運営に通報されてしまったら、小屋が消されてしまうと懸念しているんでしょう。⋯じつは一瞬だけSNSに『鳴響 魔力集積局に謎の小屋』って書き込みがあったんですが、少ししたら削除されたんですよ。既に箝口令を敷いて回っているユーザーがいるようです」

「そういうもんなんだねぇ⋯拡散してくれてもいいのに」

「⋯何度も言いますけどね、これは決算前の最終手段ですからね?確変のことをSNSで拡散され始めたら、この小屋は削除します」

「もったいないなぁ⋯そういうイベントとして残せない?『確変小屋を探せ!』みたいな」

「そんなことしたら小屋以外のガチャ引いて貰えなくなります。イベントでも金を落とさない慎重派ユーザーを引っ掛ける為の『奥の手』なんですから。これは運営の失敗!今課金すれば裏技的にレア景品GETのチャンス!いつ運営が気づくか分からないから今だけ限定!⋯だからじゃぶじゃぶ課金してくれるってわけで。これがわざとだと知れたら『またあのイベントあるかも知れないし⋯』と様子を見られて普段の課金がぐっと減りますよ」

「あーあ⋯ざーんねん」

「こんなとこに来てる場合ですか。もうすぐ決算でしょう」

「あーやだやだやだ」

鷺宮は大きく後ろに反って伸びをすると、営業部に戻って行った。

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