閑話・百合枝様はかく語りき。
※百合枝様視点です。
ごきげんよう、皆様。
私は白鳥 百合枝。
この学校の生徒会長であり、『吉井響様をそっと愛でる会』の会長でもありますの。
私は文字通り、響様をそっと愛でております。
そもそもは冗談というか、嫌がらせ的に作ったこの『愛でる会』──敢えて組織的な形をとることで、響様のファン達の統制に役立っているのだからわからないものね。
──嫌がらせ?
ああ……この組織は『百合枝が響様で萌える会』に相違ないのです。
だって怒ったり焦ったりする響様は……本当に可愛いんですもの♥
だから柳田 律さんには感謝しておりますのよ?
是非とも『ツンツンツンデレツンツンツン』位のペースで、私に良質な萌え成分を提供して頂きたいですわね!(良い笑顔でサムズアップ)
そんな響様ですけれど……
あらあら、今回、やらかしてしまった御様子。
御自分でやらかしたのに逆ギレで走り去るとは……なかなか少女漫画のヒロイン的で素敵ですわね。
流石響様ですわ!
そして件の美少女・鎧塚さんは、なかなか良い仕事をしますこと……
これは……要チェックや!
──あら失礼……25年程昔の名作漫画を最近読んだばかりですの。その台詞が出てしまったみたいですわ。
響様の動向は気になりましたけれど、私が響様を追うのは学校内だけと決めておりますの。
だって、わかりすぎたら面白くないではありませんか。
例えば急に響様が柳田さんに優しくなったら……『ええ?! 私の知らない間に何が?!』となるでしょうね。
でもそれらを全て知ってしまうのは、興醒め……野暮というものですわ。
──では何故学校内では追いかけるか?
うふふ、それこそ野暮な質問ですわ。
乙女心は複雑ですのよ。
そんな訳で残された二人を見ておりましたの。
だって響様ったら去り際に、自分がいなくても十二分に面白……興味深い状況を作り出してくださってるんですもの。
鎧塚さんはなかなか良いご趣味をお持ちのようですわね。行動力も含め、これからの彼女に期待が高まります。
そんな折、柳田さんが拐われてしまいました。
ヒロイン的出来事にも関わらず、囚われの宇宙人の如きコミカルさになんだかほっこり。
それもまた柳田さんの魅力と言えますわね!
鎧塚さんが呼びに行った模様ですが、響様は結構遠くまで走ってしまわれたのでまず間に合わないでしょう。
致し方無い、私が出るしかありません。
まぁ最近の『FC』の方々の行為は、少し目に余るところがありましたしね。
ちょうど良いから粛清してしまいましょう。
そして案の定、響様は間に合いませんでした。
ヒロイン役はできても、ヒーロー役はまだまだなのは、やはり響様ですわね。
表舞台にも出てしまいましたし、折角だから柳田さんと仲良くなっておこうかしら……
そう思っていると、片岡の元に報告が上がった様子。
ええ、勿論響様の動向の、ですわ♪
学校内だけじゃなかったのか?
イヤだわ、柳田さんが学内にいるので戻ってくるのは必至……
ですから今回はセーフに決まってます。(※百合枝様がルールブックです)
「片岡、首尾は?」
「響様は順調にこちらに向かっております。 後5分程でいらっしゃるかと」
「そう……随分かかったこと。 他に何かある?」
「例の特美の女生徒と……その……二人乗り用自転車でこちらに向かっているようです」
片岡は件の自転車の名称にちょっとだけ言葉を詰まらせました。まぁ、無理もありません。
私も存じませんでしたもの。
ちなみに『タンデム自転車』が正式名称らしいですわよ。
聞いてもピンとこなかった私は片岡に尋ねました。
きっとタンデム自転車と響様があまりにも合わなくて、想像できなかったのでしょう。
「……二人乗り用……って?」
「観光地や避暑地で見ることのある、アレです」
「!」
想像が追い付いた瞬間の衝撃は、きっと忘れられない出来事となるでしょう。
驚き……そして私は思わず口を手で塞ぎました。
観光地でもなんでもない公道で、響様がタンデム自転車に乗るお姿──
込み上げてくる笑いを堪えるのが精一杯で、うつむいてプルプルと身体を震わせるしかありませんでした。
片岡は表情を崩さずに答えたというのに……流石はプロですわね。
「……それは一見の価値がありますわね」
響様と私、白鳥 百合枝は、実は許嫁ですの。
とは言っても家が勝手に決めたことで、響様にそれを遂行する意思などさらさらございません。
そもそも響様は私がお嫌いですもの。
幼い頃から響様をからかったりいじったりすることを何よりの楽しみとしていたから……まあ仕方ありません。
だって怒ったり焦ったりする響様は本当に可愛いんですもの♥(2回目)
私にとっても、響様は萌え成分以外の何者でもありません。
特に、柳田さんの存在を知ってからというもの、自ら『成分』を生成しなくても上質な『成分』が手に入る上、なんだかキュンキュンしますもの。
私の乙女心は裏方で十二分に満たされているのです。
ですが、私も今回の件で表舞台に出てしまったことですし……なにより
ヒロイン(柳田さん)のピンチに全く間に合ってなかった事など、露ほども知らず、何故かタンデム自転車で駆け付けるヒーロー(響様)……
こんな美味しい構図を放ってはおけません。
折角ですもの、響様にもヒーローらしい場面を作って差し上げないといけません。
ついでに先の挽回チャンスでも与えてあげようかしら。
わくわくしながら私は柳田さんを連れて響様がいらっしゃるのをお待ちすることにしました。
どうせですもの、タンデム自転車に乗ってらっしゃる響様を柳田さんと一緒に見たいですから。
──まさか後部座席の方に乗っているとは、思いもよりませんでしたけれど……
流石響様!
お見事ですわ!!
そんな格好いいところがひとつもない響様ですけれど……やってきました挽回チャンス!
果たして響様はなんとお答えになるのかしら?
次回をお楽しみに!
ジャンケンポン!
うふふふふふふ!!
(※1度やってみたかった御様子です)
なんだかんだ、一番書いてて楽しかった回。




