残念ヒーロー。
※三人称です。
響は『犬』と言ってしまってから、心の底でずっと考えていた。
『犬』に代わる単語で、最も相応しい単語を──
そして既に思い付いていたのだ。
「コイツ……柳田律は……」
すうっと息を吸い込んで響はその一言を発する。
「俺のツレだ!!」
「「「!!!」」」
──俺 の ツ レ 。
「「「……」」」
律、百合枝様、りりあの3人は……互いに見合った。
無言での会話……皆、気持ちは一緒。
『ツレ』って………何??
そんな3人とは対照的に、響は少し照れた感じで頬を染めつつも、「どうだ!言ってやったぜ!!」とばかりのドヤ顔をしている。
この状況を見かねて、思わず片岡は口を出した。
「お嬢様方…… 僭越ながら 『ツレ』というのは……
少年誌の不良漫画などでよく使われる、 恋人や特別仲の良い友人などを指す代名詞です」
恋人や特別仲の良い友人など。
……とてもざっくりしている。
「吉井さん……うまく逃げましたね……」
ボソリとりりあが呟いた。非常に冷たい瞳で。
りりあの言葉など聞こえてないかの如く完全にスルーし、響は律の肩に手をかけた。
「そういうことだから、今後一切コイツにちょっかいを……」
「あ」
律はようやく首の自由がきくようになり、響の顔を微妙な表情で見上げた。
……全く以て今更言い辛い。
しかも響が『言ってやったぜ!』的な顔をしているのが、また。
「その……百合枝様は絡まれてるのを助けてくれただけで……」
「……は?」
『何言ってんの?この人……』的なニュアンスで返事をされ、おもわず律は顔を背ける。
「そういえば……律さんを連れ去ったのはこの方ではなかったです……!」
「は?!」
今度の『は?!』にはりりあに対する非難が含まれていた。
(じゃあ俺は何のためにこんな事を……)
ハッとして響は百合枝様を見る。
いつか見たことのある、この表情──
それに気付くと同時に、響の脳内に、自分がやったことが走馬灯の如くスクロールした。
そしてようやく気づき──驚愕。
そう、彼は気づいてしまったのだ。
足を挫き、乗りたくもないタンデム自転車に乗ってまで駆け付けたが、律のピンチには間に合っていなかった事に……
なのにドヤ顔でヒーローっぽい(『アイツは俺が守る』的な)発言を堂々としてしまった事に……
しかも、嫌いな人間の口上にまんまと乗せられ、それに全く気付いてなかった事に……!
百合枝様はニッコリと満足そうな笑みを浮かべている。
そう、彼女は響のこの顔が見たかったのだ。
澄んだソプラノで彼女は言う。
「ところで響様、足の方は大丈夫ですの?よろしかったらお送りして差し上げましてよ」
「だ れ が 乗 る かぁぁぁぁぁ !!!!!!」
響の怒号が返る──
百合枝様以外の3人はあまりのいたたまれなさに、ふたりのやり取りを聞きながらも……決して響の方を見ることはしなかった。
「じゃあ柳田さん、帰りましょうか」
しれっと百合枝様は律に声をかけた。
こういうところが響に言わせると『本っ当にいけすかない』らしい。
響は、律の肩に置いた手を少しだけ自分の方へ引き寄せ、威嚇するように百合枝様に言う。
「だから一切コイツにちょっかいを……」
「──百合枝様」
律はそれを遮って、百合枝様に声をかけるとお辞儀をした。
「今日はどうもありがとうございました。 ……折角ですが、私も歩いて帰ろうかと思います」
へへへと、照れ笑いをし頭をかく。
──なんだかもどかしい。
よくわからないモヤモヤに、胸が詰まる。
「そう……お気を付けて」
にこやかな笑みを崩さずそう言う百合枝様に、律は再び頭を下げ……その後りりあに声をかけた。
「りりあちゃんは……」
「いいえ! 私は大丈夫です!」
りりあは律が言い終える前に断って、倒れたままの二人乗り自転車を起こしにかかった。
「あ………よかったら使われますか?」
「いや……大丈夫……」
それには流石に乗りたくない。
「つーか……要らないだけじゃねぇのか?」
「そんなことありませんよ! こんなのなかなか手に入りませんよ?!」
響が普通に喋る相手は珍しい。
二人はお友達になれたのかもしれない……そう律は思ったが、何故かあんまり嬉しくはなかった。




