強念士兄妹との戦闘②
「あー、みなさん。ご協力ありがとうございます。すぐにわかりました。大きな声でお騒がせしました。どうぞ、家の中でいつもどおりの生活をしていてください」
剛性、靭性、反応を付与。
俺と同じ琥珀色の光を放ち、大股で接近する、美麗な外見に反して好戦的な女性へ声をかける。
「お姉さんが暴れてる人ですね?」
女性は丸みを帯びた大きな胸を張り、声を張り上げる。
「ああ!? だったらなんだってんだよ、このクソチビが、オウ?」
褐色の肌、均整の取れた顔立ち、薄赤い髪と瞳。180センチはありそうな高身長、光沢のある黒いエプロンと、こちらも上質な印象を受ける白いチュニックに、花をあしらったモンク靴。
いわゆる美人だけど、その外見に反し、甲高い声でもの凄い悪態をつく女性だ。
「突然すみません。お姉さんを管理隊の本部に連れて行こうと思うのですが、おとなしくついてきてくれませんか? 強念士相手に力づくはめんどくさいので、そうしてくれませんか?」
「ああん、管理隊い? バカかテメエ! 行くわけねえだろ。あんな辛気くさいとこに行ったら、ジンクスがついてきちまうだろうが!」
「ジンクスがつく⋯⋯? よくわかりませんが、では、力づくで連れていきますね。お姉さんも強念士ですし、女性でも遠慮はしませんので。あ、名乗るのを忘れてました。俺はユルといいます」
背嚢を投げ捨てた俺の顔に、風を唸らす打ち下ろしの拳が迫る。
拳の内側を左の肘で弾き、女性の深い懐に潜り込もうとするが、突き上げられた膝で阻まれた。
この動き、向こうも反応を付与してるな、なら、付与は残り1つのはず。
俺は思考を巡らす。
「──おぅら!」
彼女の肩タックルを横へ回避。突進力を浴びせる相手を失い、大きくよろめいた女性の膝裏へ蹴りを入れ、膝を落とした女性のこめかみに足の甲を叩きつける。
「あん?」
だが、女性にダメージはなかった。蹴り足を掴もうとした女性の手をかわし、続いた鋭い上段蹴りを屈んで回避、少し距離をとる。
蹴りは、ノーダメージだった。付与は、反応と剛性だな。ちゃんと防御を付与しているみたいだし、手加減ありなら攻撃しても大丈夫だろう。
携行武器もなく、肉弾タイプと断定、斬撃や刺突に強くなる靱性と腕力を交換。
横にフルスイングされた腕を避けずに顔で受け、足払いも回避せず受ける。首を掴もうとする女性の手を払い、懐に潜り込み──本来よりも軽く踏み込み、腰の半回転を乗せた右拳を抉るように肋骨へ叩き込み、一弾指に左拳を鳩尾へめり込ませた。
「ぴっ」
短い悲鳴、女性が背筋を伸ばす。
瞳が瞼の裏側へ回り、口から胃液のようなものを垂らしたまま、膝をついて前方に倒れるが、俺が受け止める。
強念士どうしの戦いは、基本的には互いの付与の読み合いだ。
実力差が大きくない場合には、相手の防御系の強念をかわしての攻撃でないと、大きなダメージにはならない。
逆に言えば、よほどの力量差でない限りは、強念の隙間を塗っての攻撃であっさりと終わる可能性もある。
これを間撃と呼んでいるが、そんな、刹那の読み合いの戦いだ。
今の一撃は間撃ではない。どちらも付与ありき、剛性と腕力のぶつかり合いだが、女性は失神し、崩れ落ちる結果になった。
できる限りの手加減をしたとはいえ、失神させるつもりはなかった。
やり過ぎたかもしれない。
ふと、背後から迫る靴音に気づき、体を横に跳ばす。
が、背中に熱を感じた。
血を振り飛ばしながら体の向きを反転させた俺の喉元へ刀身が接近。
頭を後ろに反らして避けたが、突き出された切っ先が動きを追う。どうにか裏拳で剣の軌道を変えたところで、襲撃手の姿を確認できた。
俺と同じくらいの年齢に見える少年から、琥珀の閃光。彼は女性と同じく赤の髪と瞳、褐色の肌。
痩せこけた頬を余計に際だたせる大きな目の下に目立つ、極端に血色の悪い隈、小さな口。
やけに白さが輝く、上質そうな上下の肌着に光沢のあるリネンのオーバーオールを合わせ、足下には俺と同じ黒のモンク靴。
俺と同じくらいの低い背丈に不釣り合いな大剣を自分に向けている少年は、女性の弟か。
情報とは違い強念士じゃないか。斬られた背中の傷が浅いことを確認しつつ、俺は二重の感情で苦い顔になる。
完全に油断していた、と。
少年は窪んだ眼窩から覗く目で俺を鋭く睨みつけながら、大剣を小刻みに揺らし、切っ先を俺の顔の前で止め、動かさずに体を横に移動。労わるように女性の肩へ手を置いた。
「あんだ、どしてマルーイを狙う?」
俺は訛りのある少年を分析していた。細身で気の弱い普通の少年に見えなくもないが、隙のない視線の動き、悪くない構え。適切な間合い。
おそらく、女性よりは戦闘経験を積んだ強念士だろう。
「こだえろ。妹を傷つけだのはなんでだ!」
この少年をどうすべきかと、俺は計算し始める。依頼の対象は女性だけ。だけど、弟も強念士だとわかったのだから、弟も連れていけば報酬を倍にできるかも。
よし、そうしよう。彼の妹と一緒に。
「⋯⋯妹って言いました?」
「そうだ。妹だ! あんだ、旅のひどだろ。どして妹を狙うべさ!」
妹、その言葉の意味をもういちど考えてみたが、相手と自分が共通の言語を使っている以上、あくまで妹は妹でしかない。
そう理解したうえで、もういちど聞かずにはいられなかった。
「あのすみません。姉ではなく、妹、ですか?」
悪気を込めた問いではなかったが、無表情だった少年の顔に憤怒がはしる。
おそらく、兄である自分の小柄さを侮蔑されたと思ったのだろう。
素早く踏み込んで殺傷範囲に俺を収め、瞬く合間に大剣を水平へ薙いだが、間合いを見切って上半身を反らした俺には届かず、宙に浮いた蛍石と接触。
宙で大剣を、それも恐らく腕力か鋭利を付与している斬撃を弾きつつ、無傷の蛍石に呆れてしまう。
本当に意味不明の物質だ。
同時に、少年が繰り出す斬撃の鋭さに感心もしていた。へえ、やるもんだなーと。




