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星渡りのアンムル  作者: 一死二生
ズィーニーⅣ 序章 "知らない景色"

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第二話 "目覚め"

「いやっ! やめてっ!」


「お、お許しください! お支払いしますので娘だけは! 娘だけはっ!」


 暗い街中を歩いていると、果物を置いている店の中から騒がしい声が聞こえてきた。


 少年がチラリと見てみると、拳銃を持ったガラの悪い男達が青髪の女性を無理やり連れて行こうとしていた。痩せた男性がガラの悪い男へと縋りつき、必死に懇願している。

 周囲で見ている人々の顔には嫌悪感を滲ませているが、何もせずに事の成り行きを見守っていた。


「うるせぇな! そもそも怪物共から守ってやってる俺らに嘘を付いたテメェが悪ィんだろうが!」


「そ、そのことは申し訳ありませんっ! きちんとお金はお支払いしますので娘だけは! 娘だけはお許しください……っ!」


 ガラの悪い男達は嫌がる女性を無理やり連れていき、痩せた店主も男達に縋りつきながら共に去っていく。


「いつも一番最初に逃げるくせに……っ!」


 男達の姿が小さくなったころ。重い沈黙の中で一人が吐き捨てるように呟いた。その言葉へ続くように、周囲の人々は不満を零し始める。


 少年は人々の罵詈雑言を耳に入れながら、店の前を通り過ぎて並んでいた赤い果物を1つだけ手に取った。

 人々は不満を漏らすのに夢中なようで誰も店の前を見ていない。これ幸いにともう1つの果物を手に取り、足早にその場を離れていく。


 少年は近くにあった路地裏へと入り込むと、壁に背を預けながら座り込む。そして両手で持った赤い果物を大事に持ちながら、シャクリ、と齧り始めた。

 

 少しの甘味と酸味を感じながら食べ進め、2つの果実を食べ終えたがまだお腹が空いている。

 もう1つ取ってこよう。そう思って先ほどの店へと戻ってみると、商品棚は既に空になっていた。

 周りを見ると、果物を手に持っている人がちらほら見える。


 少年は物惜しげに人々の持つ果物を見つめてから、別のご飯を探すためにその場から離れるのだった。



 少年が徐々に人通りの多くなってきた道を歩いていると、何かの焼ける音と香ばしい匂いが漂ってきた。

 とても食欲をそそり、お腹がぐぅ、と鳴る。

 取れないだろうか。そう考えて匂いのした方を見てみると、道の真ん中を歩いている肌が紫色の男と目が合った。


「……おお?」


「……っ!」


 男は嫌な笑みを浮かべ、まるで値踏みするような眼差して少年を見つめる。

 少年はすぐに視線を外し、警戒しながらその場を離れていく。


 しばらく歩いた後。安全かどうかを確かめるために振り向くと、少し遠くに三人の男が見えた。

 先頭にいる男は先ほどの紫色の男で、顔には下卑た笑みが浮かんでいる。

 間違いなく目を付けられている。そう直感した少年は、何事もないかのように前を向いた後、突然走り始めた。


「待てガキ!」

 

 激しい靴音と高圧的な怒声が街の中へと響き渡る。

 周囲の人々は巻き込まれないようにだろう。少年と男達から距離を置き、嫌悪感の滲む目で騒ぎを眺めていた。


 何とか逃げなければ。そう考えた少年は高圧的な静止の声を耳に入れながら、狭い路地裏へと逃げ込んだ。

 入り込んだ路地裏は人一人で限界なほど狭く、地面には何なのか分からないゴミが散らばっている。

 

 喉が渇き、胸が痛む中。少年は頬に汗を伝わせながら必死に走り続けるが、背後から聞こえる足音は徐々に近づいてくる。


「待てって言ってるだろうが!」

 

 男の怒声を耳に入れながら角を何回も曲がるが、それでも近づいてくる靴音。ついに靴音はすぐ背後で聞こえるようになり、急に喉が絞められて口から苦悶の声が漏れ出た。

 

 少年は痛みと苦しみを我慢しながら振り返り、服の襟を掴んでいた毛深い男の腕へと噛みつく。


「いっ!? いてェだろうがァ!!」


「ぐぅっ!」


 男は怒声と共に少年の頬を殴りつけ、少年は口の中に鉄の味を感じながら地面へ倒れ込む。

 男は腕をさすりながら倒れこんだ少年の腰部へと腰を掛けると、うつ伏せになっている少年の髪を鷲掴みにした。

 かなり苛立っているのか。力強く掴んだ髪を引っ張って少年の顔を浮かせると、男は勢いよく地面へと振り下ろす。


 ガンッ、という鈍い音と共に、少年の額に太い針を刺したような鈍い痛みが走り、視界が明滅する。


「おい、頭上げろ」


「ほらよ」


 少年の前に立つ紫色の肌の男が命令すると、毛むくじゃらの男が少年の髪を掴んで無理やり上へと向かせた。


「おぉ、やっぱ売れるぜこれ。見てみろよ」


「どれどれ。

 ……おお、こりゃあ確かに売れそうだな」

 

「ああ。薄汚ねェが顔はいいし、最悪この目ん玉だけでも買ってくれるだろうぜ」

 

 男達は痛みに顔を歪める少年の顔を値踏みするように観察し始め、お眼鏡にかなったのか機嫌よさげに笑い始める。


「まさか汚ねェガキの中にこんなお宝が眠ってるとはな」


「俺らの日頃の行いがいいから魔神様が褒美でもくれたんだろ」


「魔神様様だな」


 少年は目に赤い液体が伝ってくるのを感じながら、ここからどうすれば逃げ出せるのかを考える。

 だがいい案は思い浮かばず、ただ状況だけが進んでいく。


「おい、手錠よこせ」


「ほらよ」


 手錠が腕を縛るものだと言うことは知っている。なので掴まれている腕を外そうと藻掻くが、男の力が強すぎて全く外れない。

 そうして藻掻いている間に少年の手首へと冷たい手錠が当たり、カチャッ、という音が路地裏に響いた。

 両腕を掴んでいた男の手の感触が消えたので少年が腕を動かそうとすると、ガシャン、という音と共に阻まれてしまう。


「よし、これでいいだろ」


「おい、あんまりキツくし過ぎるなよ」


「心配すんなっての。何回やったと思ってんだ」


「ガキに手錠嵌めるのを何回もやってるとか、なんて極悪非道なやつなんだ」


「てめェも同じだろうが」


「ちげェねェ」


 男達の笑い声が響く中、少年が手首の圧迫感を感じながら手錠を外そうと藻掻いていると。

 

 ──カンッ。


 金属で石を叩いたような高音が、路地裏へと響いてきた。

 

「……今、音がしなかったか?」


「手錠の音だろ」


 紫色の肌の男は聞こえたみたいだが、他の男達は聞こえなかったようだ。呆れたように手錠の音だと断定する。

 だが音は何度も一定のリズムで路地裏に響き渡り、時間が経つにつれて音は徐々に大きくなっていく。


「……確かに聞こえたな」


「なんだこの音?」


「どうせ薬でイカレたやつがなんかしてんだろ。それよりとっとと行こうぜ」


 紫色の肌の男の言葉に「それもそうだな」と同意しながら、毛むくじゃらの男が立ち上がる。

 

 重しが無くなった。ならば逃げられるかもしれない。

 希望を見出した少年は、男達の嘲笑が聞こえる中で必死に這って進んでいく。


「そろそろ行こうぜ。イカレたやつを相手するのは面倒だ」


 それもそうだな、と同意した男達の中で、紫色の肌の男が地面を這う少年へと手を伸ばす。

 すると、少年の眼前へビチャリ、と音をたてながら、鉄臭い液体が落ちてきた。

 それと同時に聞こえたのは、痛みに呻く苦悶の声。

 

「ぐぅっ!!?」


「お、おい!? 大丈夫か!?」


「な、なんだコレ!?」


 一体何が起きているのか全く分からないが、男達が慌てている隙に逃げなければ。そう考えた少年は、痛む額を地面につけ無理やり立ち上がり、身体を引きずるように走り始めた。


 身体が痛み、後ろ手に縛られているせいで走りづらいが、気力を振り絞って必死に走り続ける。

 なにせ背後からは「ギャアアアア!?」という苦悶の叫びと、火薬の弾ける爆音が鳴り響いている。

 ここで座って休んでしまえば、悲鳴を挙げるような悲惨な目に遭ってしまう。

 それだけは嫌だ。


「あっ」

 

 少年が走っていると、突然足を何かに掴まれて後ろへと引っ張られてしまった。

 前のめりに倒れ込み、ぶつけた膝と鼻がズキズキと痛む。


 何に掴まれたのか。素早く自身の足へ視線を移すと、片側に刃を付いた赤い管が見えた。何故か刃は外側へと向いており、少年の足を裂いてはいない。

 どこから管が、と思って辿っていくと、逃げてきた方向の暗闇から伸びてきている。

 

 逃げないと。そう思って立ち上がろうとするが、管が引っ張ってきているせいで上手く立ち上がれない。

 それでもなんとかしないと、と足掻いていると。


 ──カンッ。


 路地裏の暗闇から、独特な金属の高温が響いてきた。 

 まるで少年の恐怖を煽るかのように、一定の感覚で鳴り響く独特な金属の音。音が近づくにつれてゆっくりと暗闇から姿を現したのは、どこか見覚えのある怪物の姿だった。

 

 頭は4つに裂け、身体に開いた小さな穴からは赤い血液が流れ出ている。

 肩からは腕だったはずの管が空中に漂っており、管の片側には小さな刃が並んでいる。

 頭の表皮に付いている目はぐるぐると不規則に周り、かと思えば急に止まって少年を見つめ始める。

 とても不気味だ。


 逃げなければ殺される。少年は顔に恐れを滲ませながら振り返り、這うように怪物から離れようとする。だが前へ進むよりも引っ張られる方が早く、地面に爪痕だけが残っていく。


 なんとか足掻く少年だったが、背後からカンッ、と大きな音が聞こえてきた。

 まさかもうそばにいるのか。恐る恐る振り返ると、想像通り赤い液体を地面へ滴らせる怪物が目の前に立っていた。


 視界が滲み、身体が震える中。少年は必死に後ずさりしていく。

 すると怪物はゆっくりとその場へ膝をつき、視点の定まっていない瞳で少年を見つめ始めた。


 少年の心を恐怖が占める中。怪物はゆっくりと頭を下げると、透明な液体が滴り落ちる頭部を向けてきた。

 生暖かい吐息と鉄臭い異臭が漂ってくる。

 頭部の中身には、紫色の腕が生えそろった牙によって咀嚼されていた。

 それはきっと、未来の自分の姿だ。


(食べられる……っ!?)


 それだけは嫌だ、と巻き付かれていない方の足で管を蹴ってみるが、まるで金属を蹴っているかのように硬く、微塵たりとも動かない。

 それでも蹴り続けていると、蹴りつけていた足へと管が巻き付いてきた。

 外すために管へと手を伸ばすと、手が触れる前に伸びてきた新しい管に絡め取られてしまう。


 腕と足が全く動かせない。なのに目の前では透明な液体を頭部から垂らす怪物の姿。

 それでも必死に足掻くが、どれだけ暴れても外れる様子はない。

 ついに体力の限界を迎えた少年の目に諦めの感情が浮かび、身体から力を抜いて空を見上げ始めた。

 もう、どうしようもない。


(もっと、いきたかったなぁ……)


 空に見えたのは、今までで一番綺麗だと思える雲1つない青い空だった。

 遠くの方では大きな船が浮かび、傍を大きな鳥が飛んでいる。

 もしも自分が鳥だったら。きっとこの怪物からも飛んで逃げて、爽やかな風を感じながら景色を見に行けたのに。


 もしも次があるのなら、空を自由に飛ぶ鳥になりたい。そして夢のような景色を見て回るんだ。


 怪物の管が地面を擦る音が聞こえる中。少年が瞼を閉じようとすると、突然視界の中へと緑色の鳥が現れた。


(……え?)


 鳥は建物の上に止まってこちらを見下ろしており、その視線は怪物と少年の方へと向けられている。

 さっきまで何もいなかったのにどうして。困惑しながら緑色の鳥を見つめていると、鳥の美しい瞳が目に入った。


(きれい……)


 その瞳は夢で見た景色のように美しい緑の色。瞳の中には一面の大地に波打つ緑の髪の景色が見えた気がした。


 ……死ねば二度と、綺麗な景色を見ることができなくなる。それだけは嫌だ。

 それに諦めて死ぬよりも、諦めずに足掻いて死ぬ。そっちの方がきっと良い。


 少年は怪物への抵抗を再開し、力の限り手足を動かして拘束から逃れようと足掻き始める。

 だが既に体力は限界で、手足はどれだけ頑張ってもほとんど動かせない。

 ならば噛み付いてでも怪物から逃げ出そう。


 決意した少年は目の前に見える怪物の頭部へと噛み付いた。とても硬いのに、不思議とぶよぶよとしていて気持ち悪い。

 さらに内側へ生えている牙が突き刺さり、口の中へと鉄の味が充満する。

 

 管が首に巻き付いてきて引き剥がされそうになるが、意地でも噛みつき続ける。

 歯が何本か折れるが、それでも構わない。

 絶対に怪物から生き延びて、色んな景色を見に行くんだ。そう少年が決意を固めた瞬間──世界が切り替わった。


(え?)


 まるで空気の悪い所から突然、空気の良い所へと瞬間移動したかのような劇的な変化。夢のような安心感が身を包み、身体の内側から温かい何かが溢れ出る。

 

 少年が不思議な感覚に戸惑っていると、視界に映る灰色の髪が安らかに揺れた。


(かぜ……?)


 風が吹いている。だがそれは、生暖かい悪臭漂う風ではない。夢の景色のような、とても気持ちのいい爽やかな風。


 あり得ない現象に困惑していると、ビシリ、という音が耳に入った。

 辺りを見回すと、ゴウゴウという重低音が響くほどの暴風が吹き荒れている。

 暴風によって建物は揺れ、石の地面は剥がれて宙へ舞う。

 そんな中でも、少年の身体には髪が安らかに揺れる程度の変化しかない。


 だが怪物は違った。

 怪物の身体はゆっくりと浮き始めて、管を巻かれている少年の身体も浮き始める。

 このままでは自分も巻き込まれてしまう。そう考えていると、怪物は何故か巻き付けていた管を離した。


 一体なぜ。疑問に思う少年の前で、怪物は暴風に巻き込まれ、石の残骸によって全身を切り刻まれていく。

 暴風が赤く染まって怪物の姿が見えなくなったころ。身体の内側から溢れてくる温かな何かを止めようとすると、簡単に止めることができた。

 吹き荒んでいた暴風が一瞬にして止む。


 今の現象は一体なんだろう。間違いなく自分が起こしたはず。

 でも、何故突然? 今までにこんなことはできなかった。

 ……もしかして、さっき見た緑色の鳥が原因なのか。

 

 少年が緑色の鳥がいた場所を見上げると、緑色の鳥の姿はどこにも見当たらなかった。

 先ほどまでは確かに建物の上から見下ろしてきていたはず。

 まさか風に巻き込まれたのか。もしそうなのであれば申し訳ない事をしてしまった、と少年は肩を落とす。


 あの緑色の鳥がいなければ諦めたまま、怪物によって食べられていたことだろう。

 風を吹かせられたのが緑色の鳥のおかげなのであれば、まさしく命の恩鳥だ。


(それにしても、これはなんだろう?)


 もう一度風を吹かそうとしてみると、身体の中から温かな何かが外へ流れる感覚と共に、髪が揺れる程度の風が吹いてきた。

 まるで息を吸うかのように風を吹かせれる不思議な現象。

 

 少年が風の吹く中、この力が何なのかを考えていると、逃げてきた方向から靴音が聞こえてきた。

 もしかしたら男達の仲間かもしれない。

 また捕まるのは嫌なので、逃げるために立ち上がる。


 だが血を流しすぎたのか、はたまた走りすぎたのか。瞼が急激に重くなり、身体の力が抜けていく。

 このままでは捕まってしまう。そう考えても身体は言う事を聞かず、次第に意識が途絶えていった。

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