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―――意識が浮上する。
ぼんやりと目を開けると、木目がそのままな天井が見えた。
「知らない天井だ……。って人生でこんなセリフを言うとは思わなかったな……じゃない……ミケは!?」
ガバっと起き上がるがミケはいない。
ぐらっと視界が揺れる……がミケを探し見回すとログハウスのような家、そして素朴な木のベッドに寝かせられていた。
サイドテーブルには水差しと木のコップがおいてあり、看病してもらっていた形跡があった。
「あれ……? ていうか俺生きてるな……でかい獣に引っかかれて痛かったのに……今は痛いところないな。……どなたかいらっしゃいませんかー?」
起き上がりながら恐る恐る声をかけてみる。
「ミケー? ……すいませーん」
立ち上がると少しふらつくがまあ大丈夫そうだ。だがやはり引っかかれて血は流れたのだろうと思う。
―――ドアの先から誰かが歩いてくる音がした。
ドアがノックされてミケを抱いた人が入ってきた。
いや……人? 獣人? え?
「お目覚めになったようですね、お加減はいかがですか?」
その入ってきた人は、メスライオンのような顔付き、耳は三角ではなく丸みを帯びている。髪型はふわふわなポニーテールに横だけ縦ロール? ……お嬢様みたいな感じ、片方の肩が出て一枚の布をまとう感じの外国の民族衣装のような服、細身かつしなやかなスタイル、そして牙、―――ラノベでいう獣人のようだった。
人間の女性に猫耳がついたような獣人ではなく、獣形が二足歩行になった感じの女性だ。長毛なネコ科のようだ。どことなくミケに似ていて、うん、かわいい。
まじまじと見ていると、ミケがするっと女性の腕から降りて俺の肩口へと乗って俺の顔にすりすりとしてくれた。
あーー、ここはたぶんあの空間内の異世界のままなのだろうな。んで、この女性はこちらの住人の方なんだろうな。
一瞬混乱したが、そいや黒い空間に入ったっけなーと思い出し納得した。いやどう見ても獣人さんだしなぁ、リアルで見せられたらわからせられるわ。うむ。
―――ミケも懐いてるようだし、俺の治療もしてくれたし、悪い人ではなさそうだ。
「ミケ、怪我はないか? 大丈夫か? ……ミケを保護してくださってありがとうございました。俺の怪我も治療していただいたようで、なにからなにまでありがとうございます。……あぁ、申し遅れました、俺は、っと私は、田川虎太郎と申します」
すりすりしてゴロゴロ喉を鳴らしているミケに怪我がないか確かめつつ、撫でながら挨拶をする。
ミケが無事でよかった……。
「これはご丁寧に……、わたくしはアデリヤ・アミーラと申します。そしてこちらの方こそ謝るべきなのです。……うちの身内が……田川様がミケ様のご身内の方だと思っておらず、……なんと申しますか……、ミケ様が誘拐されると誤解して少々乱暴になってしまったと……本当に申し訳ないことです。
……田川様に怪我を負わせてしまってからのことをお話しますので、よろしければ食事にしませんか? 田川様は三日ほど眠っておられましたので、お食事を取ったほうがよろしいかと」
アミーラさんは伏し目がちに話しつつ、俺を食事に誘ってくれた。
―――三日!? というか身内? あの獣は身内なのか? ペットでかいな。
疑問ばかりが頭をしめるが、言われて意識してしまうとかなり喉が渇いてお腹がすいていることに気付いた。お言葉に甘えて食べさせてもらおうかな。
リビングに案内され座らせられると、
「食事を、田川様に」
「かしこまりました」
急に出てきたかのように気配もなく静かに、そして深い声で返事をして食事を持ってきてくれたのは―――短いズボンのオーバーオールに白いシャツを着てる、眼鏡をかけてるライオンの男性。ヨーロッパの方の民族衣装にこういうのあったなーなんとなく執事っぽい。
ってか眼鏡ライオン執事!? うおーーすげえ!
しかも筋肉質で細マッチョかな? 声もいい。たてがみ……髪のサイドを編み込みにしているのがなんか有能な感じでかっこいいな。
食事を出すと、すっとアミーラさんの後ろに控える感じとかがほんと執事だ。
「どうぞお召し上がりください」
「……あ、ありがとうございます、いただきます」
内心めちゃめちゃ執事とかライオン男性とか眼鏡とか興奮したが、お腹がすいていたので一も二もなく食べました。はい。
肉がメインの素材の味を生かした薄味の上品な食事でした。がっつかないように最初は気にしたけど、食べ終わるころには忘れていた。うん、美味しかった!!
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです!」
「……それはよかった。田川様は魔力が枯渇しているようにお見受けしましたので、こちらで魔力が回復できるような食事を厳選しました。見る感じ少しは回復がなされたようで安心しました。
―――ところで、あのような状態で外に出るとは、人族側に何かあったのでしょうか?
……魔力が枯渇しているような人族だったなどとうちのアヴィラも思っておらず、少し触ったらお怪我されたと……ミケ様も普通よりかなり魔力が少ない状態でしたし、お体に支障もあるようでしたし」
「え……? 魔力……枯渇? いや、ミケの体に支障が、とは……?」
「えぇ、ミケ様は内臓がちょっとお怪我というか……、うーん……少々デリケートな問題なので、ミケ様に……「ニャー」―――ああ、そうでございますか。まあ……すでにこちらで治療して、今はもう回復しておりますので、大丈夫でございますよ」
ミケがアミーラさんに返事をした気がするぞこれ。
ミケが何言っているのかわかるの……? え、うらやましい。
「まあ、ミケが治ったならよかったです、治療いただきありがとうございました。―――ミケ? お前体調悪かったのか? 医者に連れていけなくてごめんよ。治ってよかった。でも念のため、帰ったらお医者さんに連れて行くからなー。
……あ、あと、あのような状態……? 人族側に何かあったとは……?」
「え? あぁ、人族は魔力が枯渇している状態だと普通は外に出ないではないですか?―――獣人族の私たちと違い、爪も牙もなく素の力も強くないのですぐ魔物にやられてしまいますからね。
なのに、田川様は外に出て、しかもわれらのテリトリーである森の深くにいてミケ様と一緒だった。人族に何かあったとしか思えなかったのですが……違うのでしょうか?」
―――あー。俺をこちら側の世界の人族だと思っているのか。そりゃそうだよな。うーんと……。
「ええと、なんというか、あー、わかるかな? んーと俺は、私はこちらの世界の人間ではありません。なんかよくわからない黒い空間が家にできて、ミケがそこに入っちゃって、追いかけて入ったらこっちにいたという認識なんですが、うーん、頭おかしいと思われないかな……」
「こちらの世界……? 黒い空間……? 魔力……枯渇……まさか本当に……? ―――デラドガル、お祖母様に伝令を。わたくしもすぐに参ります。田川様、ミケ様、共に来ていただけますか? もしかすると、この世界とそちらの世界が繋がってしまい、これから変化が出てくるのかも知れません。おばあさまであれば、何かわかるはずですので共に聞いていただきたいのです。
あっと、その前に、……兄さま、アヴィラ兄さま、謝罪を」
伝令をと言われ、アミーラさんの後ろに控えていたライオン執事さんがすっと部屋から出ていくのと入れ変わりに、
―――あの時のおおきな獣が、のそりとドアから入ってきた。
「グァゥ」
獣はミケの方を見ると尻尾がピンと立ちあがり、ふるふると震えている。
これ、うれしっぽか、虎かな? やっぱりネコ科だから大きくてもするのか。でかいけどちょっとかわいいな。
「フシャー!」
あ、ミケが俺の腕の中で怒ってるな。
……? え? いや待て、兄さま?? ええ?
「兄さま……って?」
「……まぁ! やはり本当にこの世界の方ではないのですね。ネコ科獣人族の生態はこの世界では常識なのです。……女性に対して礼儀を欠くと種族全体が敵となるので……。
そうですね……少し説明しますね。
―――ネコ科獣人族は、男女の出生比率に極端な偏りがあり、女性はほとんどおりません。そのため女性上位の種族であり指導者も女性になります。一妻多夫性を取っておりますので父違いの兄弟が多いのです。
二足歩行型―――わたくしはこちらです、と四足歩行型―――兄はこちらですね―――二種類あり、成人するときに基本となる形態を選びます。
四足歩行型になる者は狩りや魔物との戦闘をすることが多いです。あとは女性を背中に乗せての移動ですね。二足歩行型は女性のお世話や多種族との関係を深めるなどの外交、あとは薬を作ったり鍛冶をしたりなど手先を使う仕事に就くことが多いです。
……兄さまは、田川様がミケ様を誘拐したと誤解してしまったのは、まさかこちらの世界の人族ではないなどと思わず、女性を雑に扱っていると思ってしまったようで……本当に申し訳ありませんでした」
「グァウ……」
目の前に座りこちらに向かって頭を下げる感じで鳴くアヴィラさんと呼ばれる虎。……あー、虎ではなく四足歩行の獣人族なのか。
ちょいちょいと視線はミケに行っているのが丸わかりで、ちょっと面白いな。
「あぁー、アヴィラさん? 今はケガも治してもらってますし、ミケを守ろうとして頂いたみたいですし、大丈夫ですよ。謝罪を受け入れます。……ミケも、俺は大丈夫だし、ミケを守ろうとしてくれたみたいだからあんまり怒るなよー?」
アヴィラさんが俺の言葉を聞いてぱっと顔を輝かせ嬉しそうになった。けっこう表情分かるもんだなー、などと思ってほっこりしていたら、ミケが、あなたが許すなら仕方ないな……許してやるか、という顔で俺の腕から降りて少し鼻をよせて挨拶をしている。
―――なんかもうアヴィラさんがネコ科なのに犬にしか見えない。すごくうれしそうだ。
仲直りできたみたいでよかったね。
「お許しいただきありがとうございます……。実は、兄さまが落ち込んで落ち込んで大変だったのです……。ミケ様は兄さまを見るたびに威嚇をされ、女性にこんなに怒られたことがないのでどうしたらいいのかわからないみたいで、ミケ様の周りをうろうろしてそのたびに威嚇をされ、でも近くにいたいようで……、心配しておりました」
「……失礼いたします。お嬢様、準備ができました」
「ああ、デラドガル。ありがとう、わかりました。ではみなさま、わたくしの祖母のところに一緒に行っていただけますか?」
「はい、わかりました」
あの空間ができてこの世界に来れたことで、もう世界が繋がってることはわかっているしなー。
なんかもっとわかるなら聞きに行こうか。




