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―――俺たちはアミーラさんのお祖母さんのところに行くために、移動することになった。
そして俺はなんと、ミケと一緒にアヴィラさんの背に乗っている。
ふわふわの毛の中に専用の鞍を付けてもらい、かなりテンションが上がった。
……アヴィラさんは俺を乗せるときにちょっといやそうな感じになったが、ミケがニャと言ったら、なんかもうこっちがびっくりするぐらいテンション上がってオーラみたいなのが出てノリノリで乗せてくれた。ミケパワーがすごすぎる。
森をすごい速さで抜け、まだかなーけっこう遠いなーなどと考えているころにその場所についた。
―――そこは、草原のような開けた場所だった。ぽつぽつした木々や岩そのままのサバンナみたいな場所に、遊牧民の人達が住んでいるような丸い布のテントがたくさんある。
真ん中のひときわ大きな布のテントがアミーラさんのお祖母さんのテントのようだった。
―――四足歩行形態だと大きな家じゃないと暮らせないからこういう形になったのかな? 面白いなぁ。
「……こちらに」
眼鏡執事のデラドガルさんから案内され、テントに入る。
「―――よくぞいらっしゃった、異世界を繋ぐ者よ」
「お祖母様、こちらが田川様です。黒い空間を通ってこちらの世界に来たそうです」
「……初めまして、田川と申します。アミーラさん、あ、アデリヤさんにお世話になっております」
アミーラさんのお祖母さんは、ゆったりとしたベッドに座り大量のクッションに埋もれてこちらを見ていた。全体的に白っぽい。毛は綺麗にカットされている。
そばにはたぶんトラとヒョウかな? トラの男性はアミーラさんが着ているような民族衣装を着ていて、ヒョウの男性はデラドガルさんが来ているような執事っぽい服装だ。そのネコ科の二人の男性が厳しい顔で立っている。ちょっと怖い。
「さて……、一通りは聞いているが……本当に魔力が少ないのじゃな。……アデリヤ」
「はい、お祖母様、こちらの田川様は最初もっと枯渇状態でした。まるで魔臓が機能していないかのような状態で、そのためにほんの少しの攻撃でお怪我をされました。そして、こちらのミケ様もほぼ同様で、……特にミケ様は生殖能力さえ失っされておりました。
詳しくお話をお聞きしたところ、田川様が違う世界からいらしたと判明いたしました。―――兄様も黒い空間を確認していたとのことでした。お怪我をさせて焦ってしまったとのことで、空間の件は後での報告となりました、申し訳ございません」
「……ふむ、そうか……。われらの身内が粗相をいたしたようじゃな……、アヴィラはまだまだ若くての……全く、すまなかったな」
アミーラさんのお祖母さんがわざわざ体を起こして謝罪してくれた。慌ててヒョウ男性が背中を支えている。
お体が悪いのかな……、無理しなくてもいいのに。
「ふぅ……さて、世界統合のことは口伝では伝えられていたのじゃ……、―――世界の魔力が増加し世界が罅割れるとき、異世界からの繋ぐ者が現れる―――と伝えられておった。
……その罅がそなたが通ってきた黒い空間のことなのじゃろうな。
……本当に世界が混ざっているのじゃな。
―――われらの世界……と言わせてもらおうか―――目に見える最初の変化は魔物の増加じゃった。あぁ、そうじゃな、魔物とは、魔力から生じると言われており死ぬと魔石を残す。
……それから生物の減少じゃ。人族も獣人族も魔族も動物も、昨今、生まれてくる子が少なくなっておるのじゃ。特に女性……メスの性じゃな、……子を産むことのできる性が生まれず減少しておる。
人族などもここ何十年かで様変わりしたようじゃ。女性を確保するためか、人身売買が横行、人さらいも増え……治安が悪くなり大変になったと行商に来る商人が嘆いておった。
われらのように最初から女性上位な種族ではなかったようでな、急激な変化はいろいろなひずみを生じさせるようじゃな。
―――そして生物の減少ということはな、世界に普通に存在している魔力が消費されずにずっととどまると言うことじゃ。魔力が濃くなると魔物が増え、そして今まで小さな魔物だったものが大きな魔物に変化するのじゃ。
大きな魔物はなかなか倒すのが難儀での……また生き物が減っていくという悪循環になっておる。
今現在、われらの世界の魔力がそなたの世界に混ざっていっているのであろうな。
そのうち魔物もそちらにいってしまうかもしれぬ。われらでは大きな魔物はもう倒せぬ……もう野放しになっておるのじゃ。困ったものじゃな……。 ところで、何かそちらの世界には変化はないかえ?」
なるほど……魔力が濃くなりすぎて魔物が増え巨大化し始め、魔力濃度に合わない生物が減っていったということか……。んで魔物を退治しないといけないけど強すぎて死ぬからまた人間とかが減ると。
魔力が世界に満ちすぎて飽和して世界突き破ってこっちに出て来てると言うことかな……。うわぁやばそう。
「……うーん、そうですね……、こちらはここ数十年災害が多いですね。雨が増え洪水になったり地震が増え津波になったり台風が増えたり熱波や寒波……。
魔力というものはなく、あるのは科学です。そしてそれは発展しうちの国では人も動物も寿命が伸びる傾向にありますね。
……黒い空間、世界のひび割れ、ですか? もしかするとあれが、俺の家の他にも出ているのかもしれません。俺の家だけというのもおかしいので……災害も世界的に増えてますし、世界中に出来ていてもおかしくはないかと。
俺はミケが入ったからすぐ来ちゃったのですが、普通なら警察に届けますからね。
帰ったら調べたり通報したりしてみます。……あー、念のためですが、なにかの証明になるかもですし、ここらのお家やみなさまの写真や動画をとってもよろしいでしょうか?」
スマホの電波はないけれど、写真や動画は撮れるしメモもできる。
家に来て見てもらえば信じるとは思うけど、警察に行って見せたほうがすぐ来てくれそうだしなー。念のため病気だと思われないようにしておきたいところだ。
「ふむ、スマホというものがなにかわからぬが……、そうじゃな、口伝が広まっていないようであるし突飛なことを言い出したと思われないように、とのことじゃな。
……よかろう、許可する。アデリヤ」
「かしこまりました。……田川様、写真というものを見せて頂けますか?」
俺は頷きながら撮りまくっていたミケのへそ天写真を見せてあげた。かわいいでしょ。
「まあ!! これは……なんと……驚きました……。しかし田川様、これはわたくしでしたからよかったものの、兄さまや他の殿方に見せていいものではありませんからね? ……本当に世界を切り取ったかのように見えますね……このようなものが、そちらの世界にはあるのですね。科学というものでしたか」
アミーラさんに見せたミケへそ天写真にお小言を言われ反省した。俺にしか見せてくれないやつだしだめだったのか……。
それからアミーラさんやお祖母さん、アヴィラさんやトラやヒョウの男性、メガネ執事男性を撮っていいか聞いてみると、快く許可をいただいたのでせっかくなので動画で撮って行く。動いている方が証明になるだろうし。
お祖母さんはにっこりしながら先ほどの口伝をまた言ってくれて、大サービスとなった。ヒョウの男性はお祖母さんの背中をさすってにこやかにしてくれているが、トラ男性は近寄ろうとした瞬間の筋肉の膨張というかなんか圧がすごい。近寄るのはやめた。
デラドガルさん、ライオン眼鏡執事男性さんはアミーラさんの髪を直したりしているところを撮った。
アミーラさんは髪を直してから自己紹介してくれたところを、アヴィラさんはミケの周りをずっとうろうろしててへそ天したりすりすりしている。アヴィラさんはほんとずっとミケしかみていないな。
「ありがとうございました! いい動画が取れたと思います。帰ったらこれを証明にしようと思います」
「ふむ。そちらでも何かわかったら、また教えて欲しい。……そうじゃな、アヴィラがもうミケ殿に首ったけのようじゃし、アヴィラに伝令を任そう。……全く、甘やかしてしもうたな……、イゴラフ、お主の家の者じゃ、お主も伝令の補佐として動いてもらうからの」
イゴラフと呼ばれた護衛のトラ男性は深くうなずくとアヴィラさんを仕方ないな……という顔でみていた。一瞬優しい顔をしたから怒ってはないんだろうけど。
「え、……あの、アヴィラさんも一緒に来られるのですか? あー見た目トラが家にいたら大事になるんで、ちょっと、厳しいかなというか……。えーと、あ、ひび割れにはアヴィラさんは大きすぎて入れないかも!」
「田川様、大丈夫でございますよ。アヴィラ兄さま、お見せして差し上げたら安心されるのでは」
アミーラさんがミケの近くに座っているアヴィラさんにそう言うと、アヴィラさんはグァゥと答えするするするするとミケより一回り大きいネコになった。
小さくなった!! うおー!! 異世界すぎる!
テンション上がったのでスマホを構えてもう一度やってもらった。
「これなら大丈夫そうですね、じゃあ一緒に行ってミケの護衛とかしてもらおうかな。あー、そうだ……ただこちらの世界には、猫エイズとかそういう病気もあるのですが……、あ、猫じゃないから大丈夫か?
ううーん、わからないぞ……。そういう病気やケガをしてしまった場合もあるかもしれませんがどうされますか? 一応猫エイズは予防接種がありますがしておきますか?」
「ふむ……。なるほど。異なる世界の病気か……なるほど確かにな。……われでもわからぬ。……アヴィラよ、それでも行くか? その予防接種とやらをしてもらうか? ……ミケ殿に付いていきたいのならばその覚悟をしていかねばならぬ。「グァ」……そうか。いくのであればそうじゃな……では治療薬を持たせてやろう。あれがあれば怪我はなんとかなろう。カゼック、あれを」
「……よろしいのですか?」
「異なる世界に行くのじゃ、なにがあるかわからぬしの。……それにアヴィラは獣形を選んでくれた子じゃからな……」
アミーラさんのお祖母さんが頷くと、その背中を支えていたヒョウ男性がサイドテーブルから小さな陶器に入った薬を取り出した。
「これはわれらの種族の秘薬のようなものでな、本当は女性にしか使わない高貴な薬なのだ。軽傷なら指先にほんの少しを少量の水に溶かして掛ければすぐ治る。重傷の場合はそれより多めを溶かす、意識がない場合は口にそのまま塗るか濃く溶かしたものを飲ませるかしてくれ」
俺に渡されてしまったが、アヴィラさんは自分では塗れないからか。
頷きながら大切に預かることにした。




