兄貴
「そうそう!そん時ゲイテンがいつもの天然でさあ」
「いや、あれでデートに誘われてるなんて気づけるわけないだろ!」
フェイはプールサイドで昔話をセドリックに聞かせ、空いてしまった時間を取り戻すかのように3人は騒いだ。
暖かく、穏やかに流れる時間を感じながらも、フェイはセドリックの方に一瞬目を向ける。
セドリックは目を細め、笑い続けていた、いつまでも。
いや笑っているというよりも、ただ笑顔のまま表情を固定したかの様だ。
フェイは顔を少し上に向け、夕方にみた物よりも大きなドームをぼんやり見つめながら言う。
「セド、明るくなったか?」
昔のセドリックからは想像もつかない不自然な程に自然な笑顔。
今夜はこの顔以外のセドリックを見た覚えがない。
そしてゆっくりと、何かを恐れるように絞り出す。
「もしかして...気ぃ...遣ってくれてる?」
フェイは考えていた。
セドリックは自分の事も、あの兄の様に見ているのではないかと。
気を遣って、怒らせないように、慎重に。
恐怖の感情から笑顔を張り付けているのではないかと......。
フェイは視線をセドリックに移し、答えを待つ。
同時に鼓動が早くなるのを感じた、振動で握ったプラスチックのコップを潰してしまいそうなほど。
ゲイテンもフェイがそれを気にしていたこと、それが理由でバスケを辞めたことを知っていた。
故にただ静かに、フェイの傍らに座り二人に会話を委ねた。
「フェイは相変わらず面白いなー」
「......?」
「話の続きは後でまた聞かせてよ、ジュースおかわりいるでしょ?」
そう言うと、セドリックは三人のコップを集め家の中へ消えていく。
フェイは状況が飲み込めなかった。
ゲイテンも言葉を失っていた。
視線が一点に固まった二人がゆっくりと互いに顔を合わせる。
「......ドユコト?」
フェイは情報を必死に処理しながらも答えを求め、知る由もないゲイテンに訪ねていた。
「......ワカラン」
ゲイテンもセドリックの言葉の意図を探りながらもフェイの問いかけに答えた。
ゲイテンとフェイは互いに憶測を話し合いあたふたしていると、裏庭に通じるガラスドアが割れ、歓声が外まで響き渡ってきた。
思わず二人は音のする方へ顔を向ける。
嫌な予感がしたフェイはすぐさま駆け出し、それに続いてゲイテンも走り出す。
ゲイテンは腕力を活かし素早く群衆を掻き分け騒ぎの元凶のもとへと急ぐ。
それに続きフェイも突き進んだ。
最前列にたどり着くとフェイの表情が一気に歪んだ。
リビングのカーペットには粉々に割れたワインボトルが散乱しており、これでドアを割ったことが一目で分かるほど荒れていた。
そして、ちょうどそれと同じワインボトルを一気に飲み干したスティーブと、その脇に抱えられたセドリックがそこにいた。
「パーティーってのは、みんな楽しめないとなあ~」
そしてスティーブは空になったボトルをブラウン管テレビに勢いよく叩きつける。
『フォォォ!!!』
すると周りの野次馬や取り巻き達が指笛を鳴らし歓声を上げる。
「イラつく顔しやがって......」
そういうとセドリックの頬に砕けたワインボトルを押し当て耳打ちする。
「お前ん家...いい車乗ってんなあ~...」
酔っぱらっているのか、これが素面なのか誰にも分からない。
しかしスティーブ・キーリーという男の異常性が周りの空気を取り込み、異様な熱気に包まれていった。
『ジョック、スティーブ!!ジョック、スティーブ!!ジョック、スティーブ!!』
スティーブはボトルの破片をセドリックの頬から徐々に上に持っていき、目前まで迫った。
破片が目に迫れば迫るほどスティーブの口角も比例して上がっていった。
もう一押しで到達する。
『スティーブ!スティーブ!!スティーブ!!スティーブ!!!スティーブ!!!スティーブ!!!!』
部屋の熱気が最高潮に高まったその瞬間。
自分でも気づかぬまま、フェイはスティーブの顔面に拳を叩きつけていた。




