第20話
壁に凭れて格子のはめてある窓を見上げる。
広く自由な部屋なのに、ドアには鍵が掛かっており出ることは出来ない。まるで鳥かごに閉じ込められた鳥の気分だった。
ここ数日で分かったことは、しおらしく大人しくしていれば要望を聞いてもらえること。
私は暇だからと布と綿、糸と針をもらい、ちまちまとぬいぐるみを作っている。
それを二時間おきくらいにカイトは監視しに来ては、特に何をするわけでもなく話をして戻っていく。よほど私がいなくならないかが心配らしい。
手元にある作りかけのくまのぬいぐるみを見下ろしてため息をついた。
今頃ユリウスは慌てて私を探しているのだろう。
無茶をしていないか。それだけが心配だった。
私がここに来てから、おそらく四日ほどたっている。
二日前からほとんど寝ていないせいで、さすがの私も寝不足だった。
「もう少し……。」
机の上にぬいぐるみを置くと、立ち上がってドアに寄る。もうそろそろカイトが来るだろう。
コツコツとドアの向こうから聞こえ、作っていた小さなぬいぐるみを持ってドアの横にちょこんと置いた。
ガチャと鍵の音がして扉が開く。
「エリシア。どうだい?不便はない?」
「……ここから出られないこと以外なら。」
ドアから覗いた顔にそう言って目を逸らすと、彼は悪いと思っているのか苦く笑っている。
後ろ手で鍵をかけた彼は、ローテーブルにあるポットからカップにお茶を注いで雑談をし始めた。
「ごめんね。ここにある本はどう?君が好きそうなものを取り揃えたんだ。」
その言葉に積まれた本を見る。
確かに、前世好んで読んでいたジャンルの本。
しかし、今の私にはそこまで魅力的に見えなかった。
「そうね。今は歴史書や伝記などが好きだわ。残念だけど、その本は読みそうにないわね。」
「……そっか。君が好きだった植物や他国の本を集めたんだが。」
カイトは何も分かっていない。
私が前世でそういう本を読んでいたのは、国から出られない立場だったから。
今では、実際に現地に行くことも、見て感じることも出来る。
本で読むよりもたくさんの情報が転がっており、人々の笑顔や声、国特有の匂いや色を受け取れる。
「ごめんなさい。いらないわ。そんな気に、ならないもの。」
私の声を聞いて寂しそうな顔をした彼から視線を外した。
ここ数日繰り返された会話に、カイトとのすれ違いを感じてはため息をつく。もう彼は私自身を見てない。
ただ、過去に縋って、エリシアという虚像に取り憑かれている。
ただただ、憐れだと思った。
しかし、同情はするけど、理解はできない。
私は一刻も早くここから出なければならない。
先程部屋から出した小さな存在に、いつユリウスが気付いてくれるのか。
回復よりも消費される魔力の方が多く、こうして黙って座っているだけでも疲れが溜まっている。微量の魔力を使い続け、魔法を維持すること。それだけが、今私に出来る唯一だった。
ここに閉じ込められ時間があった私は、ユリウスと創った魔法を少し弄らせて貰った。
指定した魔力の元へ向かう。ただそれだけ。
その道中の行動まで指示はできないし、動かす間の魔力供給が必要だったが、やらないよりマシだ。
例え途中でぬいぐるみが壊れても、数を放てばいい。
魔力が人より多くて良かった。
人より睡眠時間が短くてもいい体で良かった。
早く会いたい人がいるのだ。
ベットの上で脚を抱えて黙り込む私に、カイトは静かに声をかける。
「じゃあ、また来るね。」
その言葉に返事はせず、ただ彼の足音を聞いていた。
「……絶対諦めない。」
閉まったドアの向こうに聞こえないように、自分に宣言をした。




