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【書籍化】『稀代の天才』、死に戻りしたので、怠惰に過ごします  作者: 海瑠トワ
第二章

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第21話

ユリウスside


「くそ……っ!」


 重厚な執務机から鈍い音がして、イライラとした気持ちを吐き出した。


 エリシアが攫われピアスの魔力も感知ができない。恐らく途中で外されたか、壊されたのだろう。


 僕はこうなることを恐れていた。


 コーネリア家には敵が多い。

 それも、古くから王家に仕える公爵家で権力があるから、という理由だけではない。


 影の支配者。

 そう呼ばれるほど、コーネリアは他家の弱みを握っている。


 王家の影を育てる役割も持つ僕らの家は、外交官として他国を回る傍らで情報収集も欠かさない。


 幼い頃からそう教えられ、影と共に様々な仕事をこなしてきた。

 隠密や尋問は当たり前で、話術や処世術まで学んだ。初対面で警戒心を解くための話し方や容姿を心がけていたし、少しの変化も見逃さないように常に周囲を観察していた。


 僕にとってはこれが普通で、義務だった。


 だから、エリシアには言えなかった。

 聡い彼女の事だ。

 僕が何をしてきたか、きっと分かってしまう。僕は平気で己の手を汚すことが出来る。


 それだけではない。

 彼女に対する態度が作り物だと、そう思われたくなかった。


 だが、きちんと話して、もっと警戒してもらうべきだった。何よりも大事なのは彼女自身だったのに。

 僕は優先順位を誤ったのだ。


「ユリウス様……っ!」


 その時、コンコンと執務室のドアをノックする音が聞こえ、顔を覗かせたメイドに無言で先を促す。


「これを……。」


 差し出された小さなぬいぐるみを受け取り確認する。薄汚れているが、特に変わったところもなく不思議な点などない。

 しかし、今僕の前に持ってくるということは何かしら意図があるのだろう。


「これが?」


「いつの間にか屋敷に……奥様がいつも作られていたものに、そっくりで……。」


 そう言ったエリシア付きのメイドに問いかける。


「いつも?」


「はい……産まれてくる赤子のためにと、お暇があれば作られていました。」


 メイドはそう言うと、もうひとつ別のぬいぐるみを取り出した。


 確かに、顔や体のバランス、手足の長さがとてもよく似ていた。布やボタンの素材は違うけれど、縫い目や作られ方は一緒だ。


「……エリシアだ。」


 ぬいぐるみを操作する魔法。

 あの魔法を知っているのは、僕と彼女だけ。


 学生時代に研究した魔法。結局あの魔法は不便であると同時に、危険があるかもしれないと公にしないように、二人だけの秘密にしたのだ。


 魔法の改良もできる彼女の事だ。

 きっと、それを応用して僕の元にこれを届けた。


 汚れたぬいぐるみに刃物を通す。

 ビリッと音がして、中から出てきた紙を取りだした。


「……エリシアの居場所が分かった。」


 彼女の書いたであろう文字をなぞって顔を上げる。


「エリオット!」


「……はい。」


 そっと出てきたエリオットに紙を渡して命令する。


「この二家を徹底的に調べろ。特にこっち。そして僕は国境付近へ向かう。お前も付いてこい。」


 メモを見て目を見開いたエリオットは、何かを察したのかすぐさま影を呼び指示をしていく。

 まだ若いが優秀な影の総士である。あとは任せても問題ないだろう。


 部屋を出てローブを着ると、屋敷を取り仕切る執事たちへ指示をする。


 自身の準備を終え、玄関に向かうと既にエリオットが馬を手配し終え、出発の用意が整っていた。


「ユリウス様。こちらは完了致しました。」


「ああ。ありがとう。」


 手網を受け取り頷く。

 エリシアも戦っているのだ。僕が冷静でいなければならない。


 深呼吸をして振り返ると、不安げな顔が目に入った。


「……必ず連れて帰る。」


 エリシアを心配する使用人たちに宣言し、馬に飛び乗る。


「お気を付けて。」


 投げかけられた言葉に強く頷くと、そのまま馬を蹴って走らせた。流れていく風に、どうか彼女が無事であることを祈り続けていた。

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