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【書籍化】『稀代の天才』、死に戻りしたので、怠惰に過ごします  作者: 海瑠トワ
第二章

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第19話

※暴力表現注意です



 ふっと意識が浮上して目を開ける。


 目に入るピンクと黄色のファンシーな部屋。

 天蓋付きのベッドは大きく、レースのカーテンやフリルが落ち着かない。


 部屋の中央にあるローテーブルにはポットが置かれており、保温機能のついた魔道具だ。

 部屋に設置されているランプや私の手首に填めてある魔力封じの枷も魔道具であることから、私を攫った犯人は貴族であるだろうと断定できる。


 厄介だ。

 何より、魔力を封じられているせいで私に出来ることがない。


 不安に、起こした体を縮こまらせるとドアの方からガチャガチャと音がした。その鍵を開けるかのような音に、じっと扉を見つめ息を呑む。


 ゆっくりと開いた隙間から、見えた紺色の髪に驚き声が出なかった。


「ああ、エリシア。会いたかったよ。」


 抑揚のない声で言いながら私へ近づくカイト。

 どうして彼が。隙をうかがいながら、ジリジリと歩み寄ってくる彼を観察する。


 虚ろな目に目元の隈、少し痩けた頬。

 どう見ても正気じゃない。


「……何が目的?」


 様子のおかしい彼を、出来るだけ刺激しないように問いかけると、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。


「俺は君を愛しているんだよ。だから一緒にここで暮らそうと思って。」


 意味がわからない。

 答えになっていない答えを呟いたカイトは、縛られている私の腕を乱暴につかみ立たせると、ピンクの華美なベッドへ放る。


「……本当はね、このお腹の子は殺そうと思ったんだ。」


 そう言いながら私の腹へ手を這わせる彼に、ぞわりと肌が粟立つ。

 気持ちが悪くて仕方ない。

 不快な気持ちに顔を歪めると、途端に冷たい表情をした彼が私の頬を叩いた。


「……なんだ、その顔は。それを殺してもいいんだぞ?」


 私の腹を指さし脅す。

 目の前のこれは誰なんだ。

 両手を縛られ、大した魔法を使えない私は、じんじんと痛む頬を押さえることもできない。


 ムカムカと這い上がってくる吐き気を堪えて、しおらしく首を振ると、ホッとした彼が「ごめんね」と頬を撫でる。

 その手つきさえ気持ち悪いが、我慢しなければ腹の子がどうなるか分からない。


 悔しい気持ちを押し込めてカイトを見上げると、ニッコリ笑って続けた。


「エリシアの血を殺すなんて出来るだけしたくないからね。……大丈夫、俺とエリシアの子としてちゃんと可愛がってあげるから。」


 恍惚とした表情で語るカイトに恐怖を感じた。

 何が彼をここまで変えたのだ。


「3人で一緒にピクニックもしたいね。庭に花畑を作ろうか。仕事は俺がするから大丈夫だ。君はずっとここにいて、俺の帰りを待っててくれたらいい。……そうだな、暇だろうから図書館でも作ってあげるよ。好きだろ?色んな本をよく読んでいたもんな。」


 ただただ黙って見ている私に理想を語るカイト。

 その光景は酷く歪で狂気を感じるものだった。


 手の震えを押えて必死に取り繕う。

 今の彼を刺激しては、私はここから生きて出ることが出来ない。直感としてそう感じた。


 口を引き結んで観察する。


「大丈夫。そんなに警戒しないでよ。」


 そんなことを言われて安心できるわけが無い。

 じっと様子を伺いながら続きを待った。


「エリシアがここから出ようとしなければ、何も怖いことはしないよ。」


 続けられた彼の言葉から、私をここから出す気はないのだと理解した。


「……そうなのね。」


 震える声で相槌を返すと、眉を下げて申し訳無さそうな顔をする。


「不自由にさせてごめんね。その代わりここの中なら自由にしていいから。必要なものもあれば言ってね。揃えるよ。」


 そんなものより、私はただここから出たい。

 しかし、そんなお願いしたところで却下される事は明白。


 少し考えた後「考えとくわ」とだけ返して、今はひとりにさせて欲しいとお願いした。


 慣れないベッドに横たわると、カイトは私を気遣うようにそっと背を向けた気配がしてドアが開いた。


「ゆっくり休んでね。」


 残された声が消え、鍵の閉まる音がしてため息を着く。


 悔しい気持ちを押し込めて立ち上がると、部屋を隅から隅まで確認して回った。


 広い部屋にはベッドとローテーブル、ソファのみ。

 続き部屋には風呂とトイレがあり、食事も運ばれてくることを考えれば、この部屋から出なくていいように設計されていることが分かった。


 壁の素材は木ではなく、素手ではどうしようもない。窓にも格子がはめてあり、空気の入れ替えは出来るが、部屋から出られそうにはなかった。


 ジャラ、と音がして手首に視線を落とす。


「これさえなければ……。」


 魔力封じの手枷に恨みを吐いて、ぎゅっと拳を握った。


 噛んだ唇から鉄の味がして窓の外を見つめる。

 澄んだ青い空と反対に私の気持ちはどんよりと曇っていった。

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