第18話
すれ違いを抱えたまま訪れた夜会。
今日はウェブリア侯爵家が主催するパーティで、お義母様がウェブリア夫人と仲がいいらしく、出席しなければならないのだ。
ユリウスはギリギリまで私の参加を渋っていたが、彼のピアスをつけることを条件に許してもらえた。
ユリウスのエスコートで会場に入ると、好奇と羨望、嫉妬の入り混じった視線が飛んでくる。つい、ユリウスの腕に添えた手に力を入れてしまうが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
受け取ったドリンクも、悪いが口をつけた振りをしてやり過ごし、にこやかに微笑む。
賑やかな音楽と話し声に囲まれながら淡々と時間が過ぎていった。
見知った顔に挨拶をして回り、周囲を見回した私は、煌びやかなホールで少しだけ警戒を緩めた。
「ユリウス様。お久しぶりですわ。」
ふいに後ろから掛けられた声にユリウスと共に振り返る。
その顔はいつも話しかけてくれるレイリーン。
彼女は伯爵家のご令嬢で、どうやらユリウスに気があるらしかった。
チラリと隣を見上げると、ほんの一瞬だけうんざりとした顔をして、次の瞬間穏やかに笑っていた。
昔から取引のある家らしく、強く拒否することは出来ないそうだ。
「……お久しぶりですね。」
ユリウスしか見ていないレイリーンにユリウスは冷たく返す。
婚約者だった時も今のように私の存在はスルーされていて、この扱いももう慣れている。
私より二つ下の彼女はまだ十七歳と若く、ユリウスを好きなことを思うと、私と仲良くなんて出来ないと理解できる。
愉快ではないが、子供のような意地悪にわざわざ反応する必要も無いと、私は特に気にしていない。
ただ、ユリウスは不快なのか、これ以上彼女と話す気は無くなったようだった。
ほんの少し沈黙が落ちて、レイリーンは戸惑ったように口を開いた。
「少しお話がありますの。」
その言葉にピクリと眉を顰めたユリウスはにっこり笑って「結構です」と断りを入れた。
すると、レイリーンは返事を分かっていたかのように微笑んだ。
「いえ、私ではなく、父が。」
その言葉にユリウスは少しだけ悩む素振りを見せた。
おそらく、何かしら仕事の話で思い当たる節があるのかもしれない。
私をチラ、と見下ろした彼は頷く私にため息をついて「分かりました」と渋々答えた。
「……エリシア。大人しくしていてね。すぐに戻ってくるよ。」
ものすごく嫌そうな顔をして私の頭を撫でると、諭すようにそう言って背を向けた。
相変わらず心配性だ。
もう既にある程度挨拶は終えているので、私が一人でなにかをすることは無い。
「ユリウス様は素敵ですわよね。」
レイリーンに話しかけられると思わず、つい固まってしまった。
「……ええ。」
ユリウスの背中を見つめる彼女に視線を向けると、フンと鼻で笑われ口元を扇で隠す。
「どうして貴方なのかしら……。自分で相応しいと思っているの?」
こちらに目を向けたレイリーンは、心底不快だという顔をした。
「……自分でも不思議に思うことはありますわ。」
正直な気持ちを口にすると、彼女は「じゃあ……っ!」と口を挟む。それを遮るように私は淡々と続けた。
「けれど、相応しくないとは口にしませんわ。私を望んでくれたユリウスにも失礼だわ。」
真っ直ぐにレイリーンを見て笑みを消す。
「それに、私は相応しくあれるよう努力をしています。……貴方に負けることはありません。」
私の言葉に苛立ったように唇を噛んだレイリーンは、そのまま会場の出口へ向かった。
帰るのかとその背を目で追っていると、敷地内の茂みから怪しい人影が出てきて彼女の腕を掴んだ。
黒い衣装を纏った数人は明らかに招待された客人ではない。
私は咄嗟に駆け寄りレイリーンを庇うように魔法を放った。
「……貴方たち、何してるの?」
私が問いかけると、後ろから頭を殴られ視界がぐらりと揺れた。
歪んでいく空間に抗うことが出来ず、音が遠くなっていく。
倒れる瞬間にチラリと見えたレイリーンが、杖を手に嘲笑うように立っていた。




