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【書籍化】『稀代の天才』、死に戻りしたので、怠惰に過ごします  作者: 海瑠トワ
第二章

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第18話

 すれ違いを抱えたまま訪れた夜会。

 今日はウェブリア侯爵家が主催するパーティで、お義母様がウェブリア夫人と仲がいいらしく、出席しなければならないのだ。


 ユリウスはギリギリまで私の参加を渋っていたが、彼のピアスをつけることを条件に許してもらえた。


 ユリウスのエスコートで会場に入ると、好奇と羨望、嫉妬の入り混じった視線が飛んでくる。つい、ユリウスの腕に添えた手に力を入れてしまうが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


 受け取ったドリンクも、悪いが口をつけた振りをしてやり過ごし、にこやかに微笑む。


 賑やかな音楽と話し声に囲まれながら淡々と時間が過ぎていった。


 見知った顔に挨拶をして回り、周囲を見回した私は、煌びやかなホールで少しだけ警戒を緩めた。


「ユリウス様。お久しぶりですわ。」


 ふいに後ろから掛けられた声にユリウスと共に振り返る。


 その顔はいつも話しかけてくれるレイリーン。

 彼女は伯爵家のご令嬢で、どうやらユリウスに気があるらしかった。


 チラリと隣を見上げると、ほんの一瞬だけうんざりとした顔をして、次の瞬間穏やかに笑っていた。


 昔から取引のある家らしく、強く拒否することは出来ないそうだ。


「……お久しぶりですね。」


 ユリウスしか見ていないレイリーンにユリウスは冷たく返す。

 婚約者だった時も今のように私の存在はスルーされていて、この扱いももう慣れている。


 私より二つ下の彼女はまだ十七歳と若く、ユリウスを好きなことを思うと、私と仲良くなんて出来ないと理解できる。

 愉快ではないが、子供のような意地悪にわざわざ反応する必要も無いと、私は特に気にしていない。


 ただ、ユリウスは不快なのか、これ以上彼女と話す気は無くなったようだった。


 ほんの少し沈黙が落ちて、レイリーンは戸惑ったように口を開いた。


「少しお話がありますの。」


 その言葉にピクリと眉を顰めたユリウスはにっこり笑って「結構です」と断りを入れた。


 すると、レイリーンは返事を分かっていたかのように微笑んだ。


「いえ、私ではなく、父が。」


 その言葉にユリウスは少しだけ悩む素振りを見せた。

 おそらく、何かしら仕事の話で思い当たる節があるのかもしれない。


 私をチラ、と見下ろした彼は頷く私にため息をついて「分かりました」と渋々答えた。


「……エリシア。大人しくしていてね。すぐに戻ってくるよ。」


 ものすごく嫌そうな顔をして私の頭を撫でると、諭すようにそう言って背を向けた。


 相変わらず心配性だ。

 もう既にある程度挨拶は終えているので、私が一人でなにかをすることは無い。


「ユリウス様は素敵ですわよね。」


 レイリーンに話しかけられると思わず、つい固まってしまった。


「……ええ。」


 ユリウスの背中を見つめる彼女に視線を向けると、フンと鼻で笑われ口元を扇で隠す。


「どうして貴方なのかしら……。自分で相応しいと思っているの?」


 こちらに目を向けたレイリーンは、心底不快だという顔をした。


「……自分でも不思議に思うことはありますわ。」


 正直な気持ちを口にすると、彼女は「じゃあ……っ!」と口を挟む。それを遮るように私は淡々と続けた。


「けれど、相応しくないとは口にしませんわ。私を望んでくれたユリウスにも失礼だわ。」


 真っ直ぐにレイリーンを見て笑みを消す。


「それに、私は相応しくあれるよう努力をしています。……貴方に負けることはありません。」


 私の言葉に苛立ったように唇を噛んだレイリーンは、そのまま会場の出口へ向かった。

 帰るのかとその背を目で追っていると、敷地内の茂みから怪しい人影が出てきて彼女の腕を掴んだ。


 黒い衣装を纏った数人は明らかに招待された客人ではない。


 私は咄嗟に駆け寄りレイリーンを庇うように魔法を放った。


「……貴方たち、何してるの?」


 私が問いかけると、後ろから頭を殴られ視界がぐらりと揺れた。


 歪んでいく空間に抗うことが出来ず、音が遠くなっていく。

 倒れる瞬間にチラリと見えたレイリーンが、杖を手に嘲笑うように立っていた。

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