第17話
あの夜会から数日後。
「ドレスに合わせるネックレスはあれがいいわ。ストールはこの間購入したのがあるわよね?」
お義母様のご友人の主催する夜会に参加するために、ドレスをクローゼットから運び出し、ああでもないこうでもないと話しながら選ぶ。
メイドたちと当日の宝飾品やヘアメイク等と合わせながら相談していると、ノックの音が聞こえユリウスが顔を出す。
「エリシア、準備中に悪いんだけど、今度の夜会は僕だけで行くよ。」
「え?どうして?」
ユリウスからの突然の報告に振り返ったままポカンと口を開けた。
どうしてそんなことを言うのだろう。私が頼りないからだろうか?
そんな私を見てユリウスは少し悩んでメイドを下げる。
手の中のストールを取り上げ、私の手を引いてソファに座らせると真剣な顔をした。難し気なその表情に少し身構えてしまう。
「どうも最近、僕の周りが怪しい動きをしている。エリシアが危険かもしれないんだ。」
私の手をぎゅっと握ったままユリウスは真っ直ぐ私を見る。
「でも、私も公爵夫人として職務を果たしたいの。」
正直な思いを告げれば眉を下げて私を伺っている表情をしている。
「それは分かっているよ。けれど、僕は君が危険な目に合うなんて許せないんだ。」
懇願するようなユリウスは苦し気で、私の気持ちを推し量ってくれているのがよく分かった。けれども、私ももう覚悟はしているのだ。
「心配なのは分かるわ。でも、私も守られるだけじゃないの。ちゃんと自分で戦える。」
ユリウスの手を握り返して見上げる。
そんな私を眉間にしわを寄せた彼は心配そうに顔を覗き込んだ。
「そうだとしても、君は今妊娠してるし万が一もある。もし体調が悪くなったりしたらどうするんだ?」
私の能力を疑っているわけではないらしい。
確かに今体調が万全かと言われたら自信をもって「大丈夫」と言い切れない。けれど、万が一というユリウスの心配も分かるが、自分の身可愛さに仕事を放棄するなんて、そんな無責任なことをしたくなかった。
「私には魔法があるわ。そう簡単に負けたりしない。」
そう言い切った私に、ユリウスは首を振る。
「そもそも前提が違う。僕は危険なことをして欲しくないと言っているんだ。」
危険とはなんだろうか。
危ないとユリウスは言うけれど、その理由を教えてはくれない。公爵家に関わることなら問いただすことはしないが、納得は出来ない。
私は勝手に動くつもりもないし、わざわざ自分から危険に首を突っ込むことはしない。人目があるところで狙われることはないと思うし、どうして彼がここまで心配しているのか私には分からなかった。
「言っていることは分かるわ。けど、それを理由に仕事を投げるなんて私にはできない。ただでさえ私は下級貴族の出で、少しのミスで付け込まれる立場なの。」
「そんなことは無い。僕が守ると言ってるんだ。」
私の言葉に、言い聞かせるようにユリウスは言う。
「それが嫌なの。夫婦は支え合うものだわ。私だけ守られているなんて納得できない。」
お荷物になりたくない。
守られるだけの存在になんて、自分はなりたくなかった。
「でも……。」
「……何がそんなに心配なの?」
俯いてしまった顔を覗き込めば、眉が下がり情けない顔をしている。私はそれ以上聞くことができなくなって、ため息をついた。
「大丈夫よ。私はユリウスから離れることはないもの。」
ユリウスは一瞬何かを言い淀んでから「分かったよ」と私の頬を撫で、席を立った。
ドアを出ていくときの寂しげな背中を見送って、少しもやっとした思考を払った。




