第16話
大変お待たせしました( ꈍᴗꈍ)
本日から21時に1話ずつ投稿します
それに伴い、電子書籍が4/29(水)に発売予定です。
Web版とストーリー変更した部分や追加のエピソードもあります。ご興味ありましたら是非◝☆
はっと目を開けて周りを確認する。
いつもの部屋。隣には愛おしいユリウスの姿。
荒い呼吸を整えて、じんわりと額に滲んだ汗を拭った。
ここのところ、ずっとこうだ。
何か恐ろしい夢を見た気がするのに、目が覚めると何も覚えておらず、ただ不安な気持ちが渦巻いている。思い出そうとしても無駄で、どんな内容だったかすらも分からない。
ただの気のせいだと思いたいのに、目が覚めた時には必ず涙が零れていて、モヤモヤとした気持ちが晴れないのだ。
チラリと隣を見上げると、あどけない表情で眠っているユリウス。
なんだか無性にその大きな体で強く抱き締めて欲しくて、安心したくてそっと近づき抱きついた。
「……んっ、エリシア……?」
「……起こしてごめんなさい。」
泣いていることを悟られたくなくてぎゅっと腕に力を入れた。
ユリウスは察してくれたのか、私の背に腕を回すと力強く抱きしめる。その安心する温もりにようやく息をついた。
「……どうしたの?何かあった?」
優しく訊ねられ、ゆるゆると首を振る。
怖い夢を見た、なんて子供みたいだ。それに、夢の内容も覚えていない。
「そっか。」
ユリウスはそれ以上何も言わずに、私が落ち着くまでずっと抱き締めてくれた。
****
煌びやかなダンスホールに漂う華やかな空気に、未だに感心の方が勝ってしまう。
手触りのいい青い布で作られたドレスを纏い、見るからに高価な宝飾品を身に着けた私を、ユリウスは眩しそうに見ていた。
「エリシア。可愛いね。」
夫婦になったユリウスはとても甘い。
青い瞳を蕩けさせて、綺麗に微笑んでくる様子は周囲の女性たちも息を呑むほど。そんな彼の視線を一身に受ける私へ、嫉妬の感情がとんでくるが、それだけユリウスが魅力的だということだ。
「ユリウスは大げさね。ドレスを身に着けて少しお化粧を濃くしただけよ。」
「僕にとっては世界一可愛い奥さんだからね。僕の色に染まったエリシアは、特に綺麗だ。」
こんなに注目されているのにユリウスはいつもの調子だ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。僕も付いているから。」
囁くように顔を寄せて小さく告げられる。
ユリウスには私の緊張などお見通しらしい。
ユリウスと結婚式を挙げてから初めて参加する夜会。
公爵夫人としての初の仕事なのだ。緊張しないわけが無い。
ただでさえ下級貴族の出の私には、好奇の目が向いている。本当に公爵家に相応しいのか、それだけの価値があるのか。
そんな探るような人々の視線が飛んでくるのを肌で感じている。
「大丈夫だよ。僕の母上が認め、父上が歓迎した。本当にそれだけで十分なんだよ。」
困ったような迷ったような彼の言葉に、納得できる訳では無いが、確かに卑屈になっては付け込まれてしまう。
いつも通りにすれば大丈夫だ、と気合いを入れ直して、差し出されたユリウスの腕に手を添えた。
賑やかな音楽が奏でられるダンスホールでゆっくりとステップを踏む。
背筋を伸ばし、優雅に見えるように意識するがそんな必要もないほどユリウスが完璧にリードしてくれる。
それに対して少しむくれると、そんな私の表情すらも微笑ましいという余裕が感じられた。
「ずるいわ。」
「僕はエリシアのどんな姿も好きなだけだよ。」
音楽が鳴り止み小さく会話を交わしていると、ふと目の前に立った人物に私は息を呑んだ。
「ユリウス。そして奥方。結婚式以来であるな。」
シャンデリアの光を受けてきらりと輝く深紅の髪。金粉を散らしたようなギラギラと鋭い琥珀色の瞳。男らしい色香を放った人物は楽し気に口角を上げた。
「ああ、なんだ。グレンハルト様ですか。何の御用ですか?」
「おいおい、つれないな。用がなければ話しかけてはいけないのか?」
ニコニコと笑うのはこの国の王太子である、グレンハルト・イル・アルメリア。ユリウスとは幼い頃からの仲らしく、気やすい態度をとっても特に気にした様子はない。結婚式ではユリウスの隣で当たり障りのない会話を交わしただけで、ほぼほぼ初対面のようなものだ。
そんな彼はユリウスの隣で静かに立っていた私へ目を向けると、ふっ、と穏やかに笑む。
「そなたには感謝している。学生時代に開発してくれた様々なもののおかげで、この国の民たちが助かっている。この国の代表として礼を言わせてくれ。」
そう言ったグレンハルト様に慌てて首を振った。
「そんな……っ!私としても、殿下の治めるこの国が素敵だと思いましたの。そのお手伝いが出来て嬉しい限りです。」
嘘偽りない本心だ。
ユリウスの育ったこの国がもっと豊かになるように、私にできることがあればしたいと思っている。
目立ちたくないと思っているのは変わらないが、目の前で苦しみ困っている人を素通りできる性格ではなかった。
ユリウスの隣に立つための実績作りにもちょうど良かったのもあり、前世の経験を活かして医療機関へ、いくつか提案させてもらった。私が作ったものが喜ばれると嬉しいと思ってしまうのだから、懲りないなと我ながら少し呆れてしまうのだ。
「良い伴侶を手に入れたな、ユリウス。」
「殿下もそろそろ身を固めては?」
むくれたように言うユリウスに、グレンハルト様は機嫌よく笑う。
「はははっ!そうだな!考えておこう。では、パーティを楽しんでくれ。」
ユリウスの方にポンと手を置いて去っていく後ろ姿を眺め息をついた。
「……大丈夫?」
肩を優しく撫でられ、そっと問いかけられた声に小さく頷いた。
権力者と話すのはやはり慣れない。どうしても、肩が強ばってしまって情けなく思う。
「大丈夫よ。」
微笑んだ私に「あと少し頑張って」と擦り寄ったユリウスと、挨拶のためにゆっくり会場を歩き出した。




