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異世界に若返り転移したおっさんの状態異常魔法は絶対にかかります。眠れ。麻痺。石化。  作者: 仁渓


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第66話 拒否だ

 俺とヘレンはソファに案内され、お茶など啜っている間に対面に座ったヴィセリオンはケイトリンからの手紙を読んでいた。一度読み、もう一度最初から読み返している。


 手紙は俺をBランクに昇格させたいから昇格試験の担当者としてうまいこと便宜を図ってくれ、という内容であるはずだ。多分。ケイトリンはそう言っていた。


 熟読した後、ヴィセリオンはヘレンに訊ねた。


「どういうことだ? ケイトリンは本当にギンをAランクにすべきだと言っているぞ」


「【支援魔法士】はそれだけで下に見られますからギンさんが誰かに絡まれて問題が起こらない様なるべく早くAランクへ昇格させるべきだとケイトリンは言っていました。今なら試験官があなたなので少なくともBには捻じ込めると」


「ああ。そう書いてある」


 ヴィセリオンは手紙をテーブルに置き目を閉じると両手の親指でこめかみの左右をぐりぐりと押して揉んだ。何か考え込んでいる様子だ。


 目を開き、


「ケイトリンが言うならばギンにはBランク以上の力があるのだろう。昨年までなら、うまいこと何とかしてやれたが王国や正統教会から審査基準が不明瞭だというクレームが絶えなくてな。面倒だから今年から王都の武闘大会に参加させ成績優秀者から順番に判断すると発表したところだ。どうしたい? 【支援魔法士】に武闘大会は酷だろう?」


「【攻撃魔法士】や【回復魔法士】の系統はどう審査しているんだ?」と俺。


「【攻撃魔法士】は武闘大会に参加させる。Bランクになろうという【攻撃魔法士】ならば前衛を倒されて前に立った経験も多々あるだろう。対策は身につけているはずだ。【回復魔法士】の場合は正統教会に審査を依頼する。教会で一定期間実際に患者を治療させて司祭が実力を測る。武闘大会以外で【支援魔法士】を審査するならば同じ枠組みになるだろう」


「なぜ正統教会? 患者を治療する教会は他にもあるだろう?」


「単純に王都で一番規模が大きいためだ」


「まさかと思うが探索者にタダ働きで治療をさせて正統教会には患者から治療費が入る仕組みじゃないんだろ?」


「審査協力への見返りと位置付けている」


「俺の場合だとひたすら『清浄(クリーン)』でもさせられるというわけか。単価を考えると何千人必要かな?」


 正統教会のために流れ仕事に従事させられる自分の姿が想像できた。ご遠慮したい。


「どうせあれだろ? 正統教会が審査するってことは信者以外が合格するためには改宗が必要だとか審査期間が倍かかるとかそういう嫌がらせがセットなんだろ?」


 ヴィセリオンは嫌そうな顔をした。


「公的にはそのような事実はないはずだがそういった不満の声もある。君は正統教会が嫌いなのか?」


「ちょっと不愉快な目に遭わされたばかりでね」


 俺は王都の門で受けた正統教会の対応について話をした。同行の【回復魔法士】アヌベティがザマー教徒であることを理由に王都への入場を拒絶されたというものだ。


 ヴィセリオンは俺の話を聞いて顔をしかめた。


「信仰を理由に探索者が王都への入場を断られる規則はないはずだ。事実ならば探索者ギルドとして王国と正統教会に抗議をする。その僧侶と僧侶に忖度をした一般兵の行き過ぎだ。それでその【回復魔法士】はどうした? 街の外に待たせているのか?」


「ルンヘイム家の友人として貴族用窓口を一緒に通った。今は下で呑んでるはずだ」


 ヴィセリオンの表情に緊張したような色が浮いた。言いづらそうに訊ねてきた。


「手紙には君とルンヘイムの領都騎士団、ルンヘイム伯爵の私兵との争い? やりとり(・・・・)? 接触? についても書かれていた。事実なのか?」


「事実だ」と俺。「お陰でルンヘイム家の知遇を得た」


 ヴィセリオンは確認のつもりかヘレンに顔を向けた。


 ヘレンは頷いて、ジトっとした目で俺を見た。


「そうなのでしょう。置いて行かれたので私は目にしてはいませんが」


 ヘレンは頬を膨らませた。


「すまん」


 俺はヘレンに頭を下げた。


 正直な話、俺個人としては自分の探索者ランクに興味はない。Fランクのまま目立たぬように小銭を稼いで毎日うまいものを食える程度に生きていければ十分だ。


 そう思っていたのに、もはやその道は完全に断たれた。


 逆にランクを上げないと中途半端な野心家権力者が俺を手駒にできるつもりで近づいて来る恐れがあると言われてしまうとそのとおりである気はする。ケイトリンの老婆心だけではないだろう。今さら弱い振りもできない。


 下げた頭を上げるついでにヘレンに確認した。


「ルンヘイムでも正統教会が幅を利かせていたのか? アヌベティに困っていた様子は見られなかったが」


「どこかの勢力が力を持ちすぎないよう領都騎士団が睨みを利かせていましたから。むしろ正統教会は少数派でした」


「そういうことか」


 いずれにしても正統教会に昇格の審査を委ねるのが嫌ならば俺の選択肢は一つしかない。


 ヴィセリオンに伝える。


「【攻撃魔法士】を真似て武闘大会に出場するよ。昇格するためには優勝しろってわけじゃないんだろ?」


「善戦してくれればいい」


「じゃあそれで」


「私も出場していいですか?」


 ヘレンが、らしくない積極性でヴィセリオンに確認した。


「一度引退したとはいえ、お前は『巨人(アヴァラガ)』だ。そんな真似をしなくても復帰後もBランクを名乗ってもらって構わないぞ」


「いえ。ただの『巨人(アヴァラガ)』ではなく『骨折り』の『巨人(アヴァラガ)』だというPRです。王都ならば少しは私を覚えていてくれる人もいますから『骨折り』の宣伝になります」


「解散じゃないんだ?」と俺。


「はい?」


 ヘレンの圧が強い。


「いや、何でも」


 俺はカップに残っていたお茶を飲み干した。


 その時、視界の中の『地図』の表示に動きがあった。


 探索者ギルドに向かって多数の赤い丸が近づいて来ていた。


 丸の一つ一つに意識を向けて『鑑定』する。正統教会の【神官戦士】たちだった。


 光点の中には門でマーキングをつけた正統教会の僧侶を示す点もある。もちろん赤だ。


 俺かアヌベティに用があるのだろう。正統教会として断固引けないという意思表示だ。


 俺は口調を深刻なものに変えヴィセリオンに確認した。


「ところで正統教会がザマー教徒の追い出しを求めてきた場合のギルドの対応は?」


「拒否だ」


 ヴィセリオンは断言した。


「そう言ってくれて安心したよ。正統教会のお客さんたちが近づいて来ている。穏便にお引き取り願ってくれ」

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