第65話 これから世話になる
王都の探索者ギルドは王国内のすべての探索者ギルドを統括している。ルンヘイム領都の探索者ギルドと比べると倍以上も広かった。
俺たちはヘレンを先頭に探索者ギルドの扉を潜りロビーに入った。
そろそろ帰ってくる探索者が顔を出し始める時間帯だ。受付窓口はどこも数人ずつ並んでいた。領都ルンヘイムギルドの誰かさんの様に開店休業状態の窓口はない。
規模はともかく探索者ギルド内のつくりは領都の探索者ギルドと概ね同じだ。
受付があるロビーの隣には壁を隔てて探索者たちの打合せスペースでもある酒場がある。
長身のヘレンが建物に、ぬっと入るやロビーの案内に立っていた男性ギルド職員がヘレンの顔を見上げて「『巨人』じゃないか!」と感極まったような声を上げた。『巨人』は王都で探索者をしていた当時のヘレンの二つ名だ。
列に並んでいた探索者たちの内、年季の入った者たちが一斉に振り向き、カウンター内のギルド職員たちが、ざわりとした。
若い探索者たちは振り返らないので、『巨人』という二つ名に聞き覚えがないのだろう。二年近くも王都のギルドから離れていれば探索者たちの顔ぶれもだいぶ変わっているだろう。ヘレンの存在を知らない者も多いはずだ。
年嵩の探索者たちが懐かしのヘレンに声をかけるために列を離れて寄って来た。雰囲気から察するにCランクばかりではなくBランクもいるだろう。さすが王都だ。人材の層が厚い。
「復帰したのか?」
「怪我は?」
「今まで何やってたんだ?」
探索者たちが口々にヘレンに声をかける。
ヘレンも自分を取り囲む顔ぶれが懐かしいのだろう。嬉しそうに答えを返していた。
ヘレンらしからぬ堂々とした振る舞いだ。事務に不慣れなギルド職員としてではなく、かつてBランク探索者であった【馬鹿力士】の『巨人』として振舞っている。
「ギルマスは?」
ヘレンはギルド職員に問いかけた。
「いるよ。案内しよう」
そう答えてからギルド職員はお付きの俺たちを見やり、何者かとヘレンに目線で問うていた。誰でも構わずギルマスに会わせられるわけではないのだろう。
「ここまで護衛依頼で行動を共にしてきた『赤光』だ。ヘレンにはサポートをしてもらった」
カイルが答えた。
ギルド職員は頷いた。
「そうか。悪いが君たちは」
「俺たちのことならばお構いなく。達成報告をしたらすぐ酒場で打ち上げに入るから」
職員の言葉を遮るようにしてカイルが告げた。気を利かせたのだろう。
「じゃあなヘレン。おっさんも」
「お疲れさまでした」とヘレン。
「おう」と俺。フレアたちに釘を刺す。
「呑み過ぎるなよ。お淑やかにだぞ。ここにきた目的を忘れるな」
「わかってるわよ」
フレアは、つんとした顔でペチリと俺を叩いた。もうそれが駄目だ。
カイルはカウンターへ達成報告に行きフレアたちは酒場へ向かった。
残ったのは俺とヘレンだ。
再び探索者ギルド職員からの俺を何者かと問う視線。
「私の所属するパーティー『骨折り』のリーダーです」
ヘレンが答えた。
はて、目的地につくまでの方便だったのでは?
「パーティーといっても二人きりですが」
ヘレンが補足した瞬間、群がっていた探索者たちのヘイトが俺に向いた。
年季が入った探索者たちなので肉体的には俺より年上も多い。
俺は怖いお兄さんたちに、がつんごつんと小突かれた。ヘレンが人気者だ。
「おいおい、にいちゃん何やってくれちゃってんの?」
何もやってないが。
ヘレンが、にこりと探索者たちに微笑んだ。
「ギンさんは私より強いですよ。怒らせないで」
「嘘だろ」
探索者の一人が信じられないといった声を上げた。
「嘘だよ」俺は答えた。「俺がヘレンに勝てるとしたら腕相撲ぐらいだ」
「マジか。【馬鹿力士】を力で負かすなんて普通に無理だろう。にいちゃん探索者職業何よ?」
「【支援魔法士】」
一瞬きょとんとした探索者たちが一斉に大笑いした。俺が冗談を言ったと思ったのだろう。あえて否定はしない。
ヘレンがむっとした顔を見せたが何か口を開く前に目線で黙らせた。せっかくの再会の場を気まずくすることもないだろう。
ギルド職員も俺の判断を察したらしい。
「じゃあ行こうか」と俺たちを促し歩きだした。俺とヘレンも後をついていく。
俺たちは二階に上がった。王都の探索者ギルドでもギルドマスターの部屋は二階だった。
まず職員がノックをして一人でギルドマスターの執務室に入りすぐ出てきた。ヘレンが来た旨をギルドマスターに伝えてくれたのだろう。
持ち場へ戻る職員と入れ替わりにヘレンに続いて俺も部屋へ入った。
長い金髪の如何にも優男といった見た目のエルフ男性が部屋の中ほどに立って俺たち、というかヘレンを待っていた。丸い縁取りの眼鏡をかけている。彼がギルマスなのだろう。
エルフだけあって年齢不詳だ。人間的には二十代の見た目だが絶対に違うはずだ。
「また会えて嬉しいよ。元気そうだ」
ギルマスとヘレンはハグをした。
「こちらは?」とギルマスは俺を見た。
「私のパーティーのリーダー、ギンさんです」
ギルマスは少し驚いたように目を見開いた。俺みたいな人間がヘレンのいるパーティーのリーダーとは思えなかったのだろう。まったく同感だ。
「ギルドマスターのヴィセリオンだ」
ヴィセリオンが俺に右手を差し出した。どこか俺を値踏みするような目をしていた。気持ちは分かる。
俺はヴィセリオンの手を握った。めきっと握りつぶしてから「『骨折り』のギンだ」とか言ってみたい衝動に駆られたがさすがに自重した。
ヴィセリオンから仕掛けてくることもない。お互いに普通の握手だ。
「【支援魔法士】のギンだ。これから世話になる」
ヴィセリオンが弾かれたようにがばっとヘレンに顔を向けた。【支援魔法士】がよほど予想外だったのか、口にこそ出さなかったが明らかに目で真実かヘレンに問うていた。
「現在Cランク。ケイトリンのお墨付きです」
ヘレンはケイトリンからヴィセリオンに宛てた手紙を差し出した。
「Aランク探索者候補ですよ」




