第1話 二一の異変
「二一様、ありがとうございました。これでエドワード様の望む未来へ一歩進むことができそうです」
「ああ」
「アレン国のシーパ様が協力を表明してくださっていますから、国宝の問題も解決しましたね」
「ああ」
「二一様はこの後は?」
「少しタニアにいさせてもらう」
「! そうですか! ゆっくりしていってくださいね」
「ああ、じゃあちょっとフレードリクさんのところに行くから」
「あ、はい……」
「……ピッキーは大丈夫か?」
「あ、はい。きにしていただいてありがとうございます。まだ気持ちの整理がつかないところはありますが、ラルフとルフトの再建に私も動く必要がありますから、悲しんでもいられません。それよりも二一様、大丈夫ですか?」
「何だ? 俺がどうかしたか?」
「少しお顔の色がすぐれておりませんし、声もどこか元気ではないような……」
「気のせいだ。俺はとにかく、フレードリクさんに会いに行ってくるから」
「はい、どうかお気をつけて」
ルナルデッタは、二一の様子に少し違和感を感じつつも、それ以上は追及しなかった。
「あら? 歩様に、ロッテちゃん? 2人はついていってないの?」
二一がいないのに、歩とクレアロッテがいることに、ルナルデッタは驚いていた。
「はいです。二一さんがジャンマリアさまだけを連れて行きましたです……」
クレアロッテはへんにゃりとしていた。元々耳が折れていてへんにゃりしているので、少しわかりにくいが。
「二一ちゃんがあの顔をしたときは1人にしてあげたほうがいいからねっ」
落ち込んでいるクレアロッテに比べて、歩はいつもどおりである。
「歩様、二一様は何か調子が悪いのでしょうか?」
「私も心配です。やはりレンス王を倒して首を取ったことを気にされているのではないですかです」
「二一様がとどめをさされたのは聞いております。ですが……」
「うん、二一ちゃんはここまで人間を手にかけたのは初めてだねっ」
二一は大きな戦いでも、人間は1度も殺していない。今回のレンスを手にかけたのが初めてだったのである。
「二一様はそれを気に病まれているのですか」
「二一ちゃんがこういう感じになることはそこまで珍しいことじゃないんだけどねっ。二一ちゃんはああ見えて、慣れてないことには結構落ち込んだりすることもあるんだよっ」
「え? 二一様がですか?」
ルナルデッタは驚いた。やや失礼だが、二一は基本的にいい意味でも悪い意味でもマイペースで、常に自分を持っていて、あまり気持ちの上下がするタイプではないと思っていたからである。
「昔から人そういうところ人に見せないし、高校生になってからは、大体こなせるようになったから、皆しらないけどねっ。二一ちゃんの強さはどこまでいっても、経験と情報と理にかなってるかどうかだからね。いわゆるアドリブ的な能力はそこまで高くないんだよっ。辛ければ落ち込むこともあるけど、それは人には見せないっていうのが、二一ちゃんだから。そういう状態になったら、私は知ってても、それを無視してあげるのが、大事なんだよっ。だから、ルナさんもロッテちゃんも二一ちゃんに何も聞かないであげてねっ」
歩は二一との付き合いは長い。だからこそ、あえて言葉にせずとも二一の状態を察することができる。というより、おせっかいな割には、こういう絶妙な距離感が二一との長い付き合いを維持できた理由でもある。
「おお、二一殿。よく来てくれましたな。サリアンの件非常に感謝しておりますぞ」
竜人族の住む森に二一は来ていた。フレードリクは娘のサリアンを見つけてくれた二一に非常に感謝していて、自分たちの住処に呼んでいた。
「二一さん、以前は人間というだけで襲ってしまい、申し訳なかった。うちの姫様を見つけてもらったことに感謝している」
前回森に来た時に敵対していた鳥人族も、今回は好意的に二一を受け入れている。
「ずいぶんと態度が軟化してるな。俺はあの竜を見つけただけで、実際にはほとんどフレードリクさんが戦っただけだぞ」
「いや、まず私たちではルフトに行くことはできなかった。実際に戦ったのが、フレードリク様ではあっても、フレードリク様のテレパスを受けれる信頼を得たのは二一さんであり、ルフトに挑んだのもあなただ。謙遜されることはない。サリアン様は我々のお姫様なんだ。とてもかわいらしくて、鳥人族の私たちにも積極的に話しかけてくれる優しい子なんだ」
「お転婆って聞いてたが?」
「竜人族にしてはってことだ。通常竜人族はおとなしくて、戦闘を好まないからな。おっ、噂をすれば」
鳥人族との会話をしていると、少し小柄な少女が現れた。
タニア地方特有の薄い緑色の髪を長めのストレートにしていて、少し強気な感じがする大きなツリ目、見た目は10歳くらいの少女だった。
「サリアン、お礼をまだ言っていないだろう」
「ぷいっ」
フレードリクが促すが、サリアンは首を横に振ってしまった。
「こら。仮にもお前の恩人なんだぞ。その態度はなんだ」
「ばーかばーか。別に助けてって言ってないし」
「おい、あれが鳥人族に積極的に話しかけてくれる優しい子か?」
「あの感じがいいんだ。ツンツンしてて、素直じゃないところが」
「それは鳥人族の習性かよ……」
二一はちょっと引いていた。
「すまぬな」
「いや、別にいいさ……。はぁ……」
二一は少し嘆息した。
「……、二一殿。何かございましたかな?」
「別にたいしたことじゃない。俺の中で消化することだ」
「……ご主人様。ここには人は居りませぬ。話すだけでもいいのではないのでございませんか?」
ずっとのんびりしていたジャンマリアが二一に話しかけた。
「……、フレードリクさんとプチ狐だけならまぁ……」
「わかった。よし、お前ら下がっておれ」
そして、その場にフレードリクと二一とジャンマリアだけになった。




