第9話 竜の魔物
「さぁお前達。ここが正念場だ。今現状、ラルフに協力する国は無い。エドワードがいないから、国宝での攻撃も受けない。ただ、今から戦う6人は、ただの6人とあなどるな。あのうちの2人は2人で2500人を倒したこともある。そして、タニア国の王女の側近の立場で、戦闘力でずば抜ける亜人、攻撃能力は無いが、私の銃でもびくともしない鉄壁の亜人、そして先の2人には劣るが、召還者が2人いる。事実上1人で1000人以上を相手にできると考えていい。戦略としては、狐の亜人は無視していい。後のメンバーを攻め込め。空から攻撃しろ。あせるな! 持久戦でも我々が有利だ。そして、最終兵器の準備もある。とにかく焦らず時間をかけて攻め込め」
「「「おー!」」」
レンスの呼びかけで自慢のドラゴン部隊が約20000。貧しい国であるルフトでは、人口はそこそこいても、戦いに参加できる人間は限られる。これがこの国の最大戦力であった。
20000のドラゴン部隊が空を埋め尽くす圧巻の光景に、ルフトの国民も意気があがっていった。
「これはさすがにえぐいな」
二一達はルフトの北にいたが、ドラゴンが飛んでくる光景は既に見えていた。
「戦略はさきほど先輩がお話されたとおりでいいんですね」
「ああ、デッカーとプリンスがいるなら、それは生かそう。水の特性と国宝の能力も見ておきたいしな」
「ドラゴンが来たよっ!」
遠くだったドラゴン部隊が視界に入る。
「ドラゴン自体に直接的な攻撃力は無い。だから、この作戦が1番いいだろう。デッカー!」
「はい!」
二一の指示で、里香が得意の水魔法を発動する。
強力な水鉄砲だが、素早いドラゴンには当たることは無い。
カチン!
しかしその水鉄砲が無くなる前に、氷漬けになって水柱となる。
二一の氷技で水を一瞬で凍らせる。
その後も連続で里香が水鉄砲を放ち、大量の氷柱ができる。
「よし、頼むぞ、プリンスに耳折れ」
「了解です!」
「任せてください!」
クレアロッテと和美が得意の速さと身のこなしを生かして、不規則に並ぶ氷柱を足場に、上空にいるドラゴンに近づいた。
「うりゃああ!」
槍の使い手として、熱心に練習を積み続けた和美。その彼に、国宝の槍、しかも魔物への特効が強い国宝であれば、その威力はドラゴンにかなり有効である。しかも、人間に対しての効果がほぼないため、和美も躊躇なく攻め込むことができる。
「私も怒っていますです!」
速度に自信のあるドラゴンだが、それでもクレアロッテの速さには劣る。
その利点である空中を生かせなくては、自身での攻撃力がないドラゴンでは速度、攻撃力に秀でるクレアロッテに何もすることができない。
次々とドラゴンは墜落していく。
そして、何とかダメージを与えても、地上から歩と回復技を会得した里香が、回復技、防御技を2人にかけて援護する。
加えて、二一も地上より鳥人族との戦いで、電気技、氷技が空を飛ぶ相手に有利なことがわかっていたので、投擲武器や拳銃を使ってドラゴンの反撃を封じる。
大量にいたドラゴンは致命傷を負って墜落し、そうなれば、乗っている人間は格好の餌食になる。
数の利点があっても、そもそも近づくこともできないほど単純な戦力の差があった。
「レンス様! このままでは」
「わかっている。ふふん、なるほどさすがだ。多少強くても数の利で押し切れると思っていたが、トリアの国宝があるのは予想外だった。あの槍は確かにドラゴン部隊に不利すぎる。加えて、あの水使いにしろ、猫人族にしろやっかいだ。これはあの手を使うしかないな」
「あれとは……、あれを使われるつもりで……」
「使わないに越したことはないが、使わねば我々は負ける。それだけだ。準備にかかる。お前はドラゴン部隊に一旦撤退を明命じよ」
「はっ」
「二一、これを制することは貴様でも不可能なはずだ」
レンスは部下が去った後1人で不気味な笑顔を浮かべてはいたが、いつもの余裕は少しなりを潜めていた。
まさにこれが最後の手段であることをそれは物語っていた。
「ふぅ……、ドラゴン部隊が引いて行きますね」
ちょうどその頃、撤退の指示を受けたドラゴン部隊が下がっていくのを見て、和美が一息入れる。
「みんなっ! 回復するよ」
歩がかなり動いていた和美をクレアロッテを回復させ、それに里香も協力する。
「いかがでしょうね。ご主人様」
「まずは物量作戦でこっちの動きを見たんだろう。統率は取れてたが、こっちの動きを見ている感じだったからな」
「ですが先輩。代わりの作戦などあるんでしょうか? 確か聞いた話では、ルフト地方では魔法使いがほぼ育たないと聞いています。と、なると、あまりひねった作戦は使えないのでは」
和美が二一にたずねる。二一もそれは知っていたので、次のレンスの手があまり読めなかった。
「…………、あのレンスが何も考えていないはずがない」
「!? に、ニ一さん! いいですかです!?」
するとクレアロッテが目を見開いて、二一に話しかけた。普段折れている耳がわずかに持ち上がっていた。
「どうした耳折れ」
「これはとんでもない危機がきますです!」
「!、 お前の危険予知スキルか」
クレアロッテには危険予知のスキルがあり、どのようなことが起こるかは具体的に分からないが、自分にとって危険であることが起これば、それを判断することができる。
「はいですっ。でもこれは私の感じた危険予知でもっとも危険な気を感じますです。オオバチの群れに会ったときよりも、エドワード様の偽者が出てきたときよりも危険な空気です!」
「全員気を引き締めとけよ」
クレアロッテの助言で、二一が皆に指示をする。
「み、皆あれ!」
里香が真っ先に気づき、目線を空に向けた。
「あ、あれはドラゴンだ! で、でも。な、なんだあの大きさは……」
彼らの視界に入ってきたのは先ほどまで戦っていたドラゴンであった。
ただ、明らかに違うことがいくつかあった。
まず大きさが圧倒的に違う。
人間を乗せていたドラゴンの大きさは、4mほど。確かに大きいといえば大きい。しかし、そのドラゴンの大きさは、20mはあった。しかも、爬虫類に羽が生えたいわゆる翼竜ではなく、全身が蛇のような見た目をしていた。
「グォォォォ!」
「まじか、火吐くのかよ」
しかも直接的な攻撃技を持っていなかった今までのドラゴンと違い、雄たけびと共に炎を吐いていた。劣っているのはその巨体ゆえの速度の遅さのみだった。
「仕方ないな……、俺が様子を見ながら動きを見る。プチ狐とデッカーだけついてこい」
「先輩! まさか死ぬつもりですか!?」
「プリンス、それは違う。勝つための手段だ。あいつには情報がない。俺が陽動しながら、遠距離攻撃のできるデッカーに援護を頼む。お前らは、あのでかいドラゴン以外に何か動きがあったら、そっちを見ておいて欲しい。何もないなら、ドラゴンの動きを見て、何か情報を見つけてくれ」
「二一ちゃんが言うなら、それを信じるだけだよっ」
「はいです。ですが決して無理はしないでくださいです」
「俺は全員もとの世界に帰す。俺がその約束を自分で破るわけが無い」
「先輩……、はい! 俺もできる限りのことをします」
こうして、巨大なドラゴンとの戦いが始まることになった。




