第8話 けじめ
「どうだ、皆落ち着いてるか?」
「とりあえず大丈夫そうだよっ」
「皆さんタニアに戻ってもらいましたです」
「……、多分大丈夫……」
「デッカーも手伝ってくれたのか。悪いな」
「ううん……、私は大丈夫だったから」
どうやら歩、クレアロッテだけでなく、里香も周りのケアに協力していたようで、二一は感謝する。
「それで、これからどうするのでございます?」
ずっと二一の頭から動かないジャンマリアが二一に聞く。
「まぁ今回の件についてのけじめは必要だろ。ルフトに行くぞ」
「えっ……、でもラルフの人はまだ戦うには厳しいと思うけど……」
二一の発言に驚いていたのは里香だけ。他のメンバーは二一の真意がわかっていた。
「行くんだねっ。私達だけで……」
「ルナ様を悲しませたのは許せないです」
「私ももちろんでございます」
「俺も珍しく怒ってる。エドワードさんに違和感を感じながら、そのまま疑問を放置しちまって、ピッキーに面倒な思いをさせちまったからな。俺の思い通りにならないのが気に食わなくて仕方ない」
二一の表情は、基本的にヤル気のなさそうな顔か、悪巧みをしているときの笑顔のどちらかになるが、今の顔はどちらでもない。二一に珍しい怒りの表情である。
「私もついていきます……、お世話になったルナルデッタ様、私達を助けてくれた若松君に協力したいから……」
「いいのか? けっこう面倒な戦いになるぞ」
「それでも、今回のことは私も怒ってるから」
「分かった。でも面倒くさいから俺に迷惑をかけんなよ」
普段長い前髪に隠れる里香の大きな瞳に強い意思を感じた二一は彼女の提案を受け入れた。
「先輩、俺も協力させてください」
「プリンス、なんだその武器は」
里香だけでなく、和美も二一に参加を望んだ。和美の背中には、光を放つ長い槍と、少し短い鋭利な槍があった。
「俺はまだまだこの世界の力になれていません。今回はルフト国に生ける人間が少ないと聞いて、是非行こうと思ってはいましたけど今行っても先輩達の脚を引っ張るだけ。そう思いながら、トリア国の伝令に何人かと一緒に行ったところ、ゴートン様とマストー様は2人ともかなり悲しんでいましたが、トリアは忙しいので自分達含め兵士を出すことは難しいとのことでした。ですから、この武器を頂いてきました」
「じゃあそれは国宝のヴァイスシューペアか」
「はい、そしてもう1本は国宝こそ扱えませんが、槍使いとして精進を重ねてきたマストー様が大事にされていた槍です。俺はヴァイスシューペアに選んでもらうことができました。なので力になりたいんです」
「へぇ、トリア人でもないのに、プリンスがか」
『国宝の資格』
国宝が選ぶ人間は基本的にその国の国民。しかし、その国に利益をもたらすと武器が判断すれば、2人以上の適正者を出す。もちろんその武器そのものへの適正があることは前提ではある。
「確かヴァイスシューペアは魔物、亜人特効だったな。ドラゴン相手なら役立つか……。面倒なことにはすんなよ」
「はい!」
こうして、ルフトへ、二一、歩、クレアロッテ、ジャンマリア、和美、里香の6人が行くことになった。
「なるほど、成功が半分失敗が半分というところか」
「失敗した。まさかドロウンの使い手がいるとは思わなかった」
二一達の下から逃れてルフトに戻ったシマクニは、また姿を人間に戻してレンスのいる城にいた。
「いいさ、エドワードを倒すという当初の目標は達成できている。エドワードの親は優秀だが、エドワード以外には、平凡なのしかいない。後はあいつの問題だけだ」
「あいつとは……?」
「お前も対峙しただろう。若松二一だ。エドワードという存在を失って、ラルフは今活動的にはうごけない。ドルツとトリアは今は自分の国のことで手一杯だ。攻め時は今ではあるが、唯一の懸念があの召還者だ。いろいろ計画を邪魔されている。そしておそらく、まだ邪魔が入る可能性もある」
レンスにとって、悲願のラルフ獲得への重大なピースであるエドワードを殺すことに成功したのはかなり大きいことだった。現在、ラルフ国では国宝フラムリーブルを使えるのは、エドワードだけ。国宝が使えないだけで、ドラゴンへの対応は大きく遅れる。
通常ならこのままごたごたにまぎれてトリア侵攻がいいのだが、彼には唯一二一という懸念があった。
「むしろあいつなら……」
「申し上げます! ラルフ側からルフトに侵攻です! 人数はおそらく6人ですが、国宝が2つ、亜人の気配も2つあります!」
レンスが手をあてて考えていると、そのような報告が彼の耳に届く。
「なんと! わずか6人で!?」
「そんな無謀な話でもない。あの二一には、2500人を無力化させたという話もある」
「大丈夫なのですか?」
「勝機はあるが確実に勝てるわけではない。戦争とはそういうもの、常にイレギュラーがある。よくも悪くも、ここは私も本気を出す。あいつの準備はお前に任せる。勝てば約束どおり、ラルフを手に入れる計画に最後まで協力してもらう。私が負ければ、お前はここで滅びるなり魔王の元に戻るなり好きにしてくれ」
「……そなたは人間だが、考え方はとても私達に近い。なぜ人間ではなく、我々を信用する?」
「私が大事に思っているのは、ルフトの人間だけだ。貧しい生活を強いられる痩せた土地での生活ではなく、ラルフが欲しい。ラルフさえ手に入れば、その他の管理は人間がしていようが、魔物がしていようが同じだ。今の土地の管理は、人間が7割、魔物が2割、亜人が1割くらいだが、人間が2割になって、後は魔物が管理すればいい。何度でも言おう、私はルフトの人間を守りたいだけだ」
「分かりやすい。その信念に協力しよう。成功した際には魔王様にもあなたのことを伝えよう」
「これだルフト国の最初で最大で最後の国運をかけた戦いだ。楽しませてもらおう、二一」
レンスはいろいろな感情が伴った笑顔でそう言った。




