第9話 変身
「兄上、申し訳なかった。反省して兄上をこれからはフォローしていく」
ゴートンがトリアの平和のため、救出後に、二一達を引き連れてカイザーメンゼルに乗り込んだが、マストーからの反撃はなく、あっさり城を開放した。
「そうか……、しかしなぜあのようなことを……」
ゴートンはマストーにたずねる。
「1人の男にたぶらかされたのだ。私はまるで自分を見失っていたようだった。確かに兄上に対してコンプレックスはあった。しかし、それでも私もトリアの人間だ。兄上に勝ちたいとは思っていても、兄上を幽閉したら、トリアのためにならぬことは理解している」
「そのたぶらかした男とは?」
「恐ろしい姿をした魔物が変身していたのだ……」
(変身ねぇ……)
二一は後ろで話を聞きながら、変身という新しい単語が気になり情報通を使った。
『変身』
一般に広まっているものは、魔法によるものだが、魔物は独自の変身方法がある。ただし、これができる魔物はかなり上位の魔物といわれている。相手の体に入り込んで姿をのっとる形になるため、変身というよりは、精神掌握に近い。
(情報少ないな、だが、分かることもある)
二一の情報通は、あくまでも世間の認識を知識として得るものなので、事実を知ることはできない。なので、変身そのものの効果を知ることはできないが、魔物の中でも変身ができる存在が高位であることはりかいできた。
つまり、マストーの話が本当だとすれば、二一がこれまで戦ってきたジンエンやクサブエクラスの相手とも考えられた。
「兄上、折り入って2人で話したいことがある。是非お願いできるか」
「ああ、もちろんだ、それじゃあ皆はここで待機していてくれ」
そして、マストーとゴートンは別室に行った。
「さて、今後のことだが、私がうまくとりなしていこうと思う。一定のけじめは必要だろうが、マストーのことを好いている国民もいることはいるのだ」
ゴートンはマストーに背を向けて、彼の今後について語る。
「……兄上……、申し訳ない……、しかし、自分のしてしまったことを考えると……」
そう言って、マストーが俯く。
「気にするな。兄弟じゃないか……」
「兄上……、では、私の言うことを聞いてください……」
マストーの目がにごり、ゴートンの目を見る。
マストーはクトカの変身である。クトカは洗脳術をゴートンにかけた。
(これでしばらく大人しくして、落ち着いたら一気に制圧してしまおう)
クトカはゴートンの目を見て、自分の言うことを何でも聞くように洗脳した。これで、彼の思惑は成功するはずだった。
「皆、迷惑をかけてすまない。どんな罰でも受ける」
マストー(クトカ)が頭を下げながら、ゴートンとともに皆がいる場所に戻る。
「それではとりあえずこれをつけてくれ」
ゴートンが何か札のようなものをマストーに貼り付ける。
「これはなんです兄う……、ぐぁぁ?」
すると札が光り始めて、マストーが苦しみ始める。
そして、マストー自身が光ったと思うと、マストーと爬虫類の魔物、クトカに別れた。
「こいつは……、四天王のクトカ! まさかこんな大物が!」
ゴートンが叫び、他の兵士達もざわつきはじめた。
なぜ彼らがクトカの変身を見破れたのか。それは少し時間をさかのぼる。
「ゴートン殿! ご無事で!」
トリアから無事にゴートンを逃がし、二一はドルツに戻ってきていた。
ドルツから一部ゴートンを慕う兵士も逃げてきていて、トリア人も多くいたので、彼らはゴートンの生還を喜んだ。
「皆、迷惑をかけてすまない。私がもっとうまく立ち回っていれば……」
「何をいうのです! ゴートン様ほどよくやられていた方はいません!」
「後は私がけじめをつけねば……、マストーを止める!」
「無理なさらないでください! そのようなぼろぼろなお姿で」
ゴートンは手荒い扱いはされていなかったが、何日も狭い牢屋に入れられていたのだ。体の衰弱は避けられない。
歩や里香が回復魔法をかけているが、直接的なダメージは回復できても、精神的な疲弊にはやはり時間がかかる。
「それでも、1日でも早く解決しないと、……トリアの平和が……」
「あのー、ちょっとよろしいですかです?」
クレアロッテが話をしている中に参加して来た。
「どうした折れ耳?」
「二一さんから私もいろいろ話を聞いていましたです。確かトリアには魔物や亜人は基本的にいないはずですよねです?」
「俺はそう聞いているが……、ゴートンさん、そうですよね」
「……、ああ、まだ私の力が及ばないから……、一部にわずかに亜人がいる可能性はあるが、少なくともカイザーメンゼルにはいないはずだ」
「そのはずですよねです」
クレアロッテが首をかしげる。
「それが何かあるのか?」
「はい、カイザーメンゼルの城から、かなり強い魔物の匂いがしましたです。違和感程度ではないですのです」
「……まじか?」
「はい、私は人間と亜人の匂いは分かりますです。でもそのどちらでもない違和感がありましたです」
「まさか……、カイザーメンゼルに魔物が? しかもそれがマストーと何か関係しているとしたら?」
ゴートンがクレアロッテの発言を受けて、驚いて声をあげる。
「もしよければ、この札を持っていって構わないが」
ランドルフが何か札を渡す。
「これはなんだ?」
「人間以外のものがつけると、その魔法効果が解ける札じゃ。最近完成したドルツのものじゃ。人間には絶対に害がないから、そのマストー殿につけてみればよい」
「ランドルフ殿!」
「このようなことがあった以上、今後トリアとの関係はより強固にしていかねばならんからな」
「感謝します」
ゴートンはマストーから札を預かり、感謝した。
「なるほどな、じゃあ作戦は、マストーのところに行って、札を張れるようにすればいいわけだな」
二一が納得して、首を振る。
「万が一がないことを祈るだけだ」
このようなやりとりがあり、自然にクトカの正体をあばくこととなった。




