第5話 竜人族と鳥人族
「さて、じゃあ話をしてもらおうかな」
3体の鳥人族は二一の雷の攻撃を受けて、立てなくなった状態で拘束されていた。
「くそっ。すぐに仲間が来るからな。いい気になれるのも今のうち……」
「それは別にいいが、お前らの味方はほかに誰が来るんだ?」
「……」
「ん? なんで沈黙するんだ?」
「それについては私が説明いたしましょう」
「ピッキー?」
普通の質問に対して鳥人族が沈黙したので、二一が首をかしげると、ルナルデッタが声をかけてきた。
「鳥人族は200年前の戦争のときに、魚人族と並んで魔物の味方をしてと言われています。なので、静粛がかなりはっきりしていたそうです。なので、マーク森林以外ではほとんど姿を見せません」
「……、ああ、姫様のいう通りだ……、仲間なんてほとんどいない……」
「じゃあさっき逃げた1人は……」
「そうだ。あいつは俺たちの中でかなり若い。羽を飛ばす攻撃ができるのは俺たち3体だけだ。あの攻撃はちゃんと羽が生えそろった大人の鳥人族じゃないとあれはできない。そして、近距離で戦ったら、あんたらには俺たちは勝ち目がないだろうな」
「なるほどな」
「頼む。俺たちを殺さないでくれ。俺たちがいなくなったら、あいつらを守ってやれなくなる」
鳥人族は3体とも命乞いを始めた。
「いや、こっちの姫様本気で殺そうとしてきて、それは虫がいいだろまぁ、ピッキーがいいなら殺さないが」
そして二一がルナルデッタのほうを一瞥する。
「い、いえ。私もあまり無益な殺生は行いたくないので……、でも1つだけ……。カトリーネは無事なのですか?」
「そ、そうです。お姉ちゃんは?」
ルナルデッタは先に森に入っていたカトリーネのことを心配し、それにクレアロッテも同調した。
「も、申し訳ない。だが、軟禁をしているだけで、拘束や危害を加えてはいません。すぐにお返しすることをお約束します」
「な、ならよかったです。ではすぐに」
「ピッキー待て」
ルナルデッタが安心のあまり話を切り上げようとしたのだが、それに二一がストップをかける。
「二一様?」
「ちょっと世間をいい風に見すぎだ。まぁ別にそれだからこそ、理想を語れるんだし、悪いとは思わない。そこらへんは周りがやればいいことだからな。ここまでの話は本当に信じる根拠になりうるのか? 全部こいつらが勝手に言ってることだろ。この後だまし討ちを受ける可能性があるじゃないか」
二一の発言に、ルナルデッタ、歩、クレアロッテがはっとした表情になり、特に無反応だったのはジャンマリアだけだった。
「そ、そのようなことはいたしません」
「お前らはしないだろう。まだ拘束も解いてないしな。だが、この後こっちの姫があんたらの代表に会いに行くという話がある。そのときに、襲われない保証はあるのか?」
「私たちを拘束したままで構いません」
「お前らごと襲ってくる可能性は?」
「二一様、そちらについては大丈夫です。亜人は同族で仲間を殺害することはありません」
「そうなのか?」
『亜人の仲間意識について』
人間は人間を殺害する。戦争だけでなく、損得勘定や感情だけでも殺し、しかもそれすらとがめられないこともある。だが、亜人は亜人に対して少なくとも殺意を持って殺すことはない。もちろん感情はあるので、戦争や争いを行い、結果的に殺してしまうことはあっても意識的にはない。殺意を持って殺すことがあれば、それは亜人からの迫害を受けることになる。特に亜人の中でも、同族の亜人ではそれがさらに顕著になる。
「なるほど。つまり、あんたらを盾にしとけば、仲間が殺しにかかってくることはないということか」
まいどおなじみ情報通を利用してルナルデッタの発言の裏を取り、一応は信用する。
「はい」
「それで、話を本題に戻すが、あんたらの代表には会えるのか?」
「え、えーとですね……」
「なんだ?」
話をもとの要件に戻して鳥人族に提案するが、いまいち容量の得ない返事が返ってくる。
「二一ちゃん、ちょっと落ち着いてっ。ここのトップの人は竜人族なんだよっ。きっと怖いんだよっ」
「い、いえそこまで怖いわけでは……」
「でもお強いと聞いてますけどです?」
「は、はい。この森が人間に荒らされないのも、フレードリク様のおかげです」
「フレードリク?」
二一ははじめて出てきた名前に首をかしげた。
「現在マーク森林を収めている竜人族の名前です。私も姿を見たことはありませんが」
「先代はマーカスという名前の竜人族が納めていたのでございますが、変わられたのでございますね」
「はい、フレードリク様は50年ほどこの森を守られています。竜となればとてつもない巨体で、戦闘力はずば抜けております。それに加えて、通常の状態でも索敵能力までもっていまして、私たちがあなた方や魔物の気配を察することができたのも、フレードリク様のおかげです」
「でもそいつと話せば話が早いだろ。ピッキー、会えば話せるよな」
「は、はい。それはもちろんですが」
「じゃあ会えるか?」
「えーとですね、会えるかといえばですが……、それでもですね……」
「御託はいい。細かい理由もいい。結論を聞いてるんだ。会えるのか? 会えないのか?」
「ちなみに会えないと言ったらどうなります」
「質問に答えないな……。会えないなら会えるまで毎日来るだけだ」
「やっぱりそうだよねっ」
結果的に選択肢を与えない二一の聞き方は実にいやらしい。明確に会うことはできないと言われれば、二一もここまでは言わないのだろうが、いまいち答えが濁されているので、こういう聞き方になる。
二一に納得をさせたければ、100が0の答えを出さねばならない。おぼろげな返答は許されない。
その聞き方にいつも通りの二一を感じて、歩は笑顔になり、慣れてきたのかほかの3人も特に表情を崩さない。
「……、そうですね……、こちらが襲い掛かった立場ですし、もめごとになってこの比較的安全な森で過ごせなくなるのも困ります。最近騒がしくなってますし、1回話の必要はあるでしょう、わかりました。私たちも同伴するという条件で、会っていただけますか?」
「まぁ、話がちゃんと通じるやつがいたほうが俺たちもやりやすいからそれはいい」
「暗いですけど大丈夫ですか?」
「それはこっちがライト使えるやつがいるからいい。ただピッキー、歩けるか?」
「は……はい……」
「もう1回聞くぞ。正直に言ってくれ。歩けるか?」
「……申し訳ないです。1歩も歩けないです」
もともと森を長く歩いてきて、やや疲れ気味だったのに、魔物に襲われたり、鳥人族の襲来を受けて完全に疲れ切っていた。
「この辺りは実際に魔物は出るのか?」
二一としては、やや時間帯が遅いことを考えると、キャンプをしてもよかったのだが、魔物がいるのならリスクは避けたいと考えた。
「それはあなたたちのほうがご存じなのでは?」
「ん? なんでだ」
「え?」
いまいち会話がかみ合わない感じに二一は不信感を覚えた。
「ですが、最近森に魔物がすごく多くなってるんですよ。ですから、人間がこの森に魔物を追いやったから数が多くなったと聞いてますが……」
「ピッキー?」
どう考えても二一の知っている知識とは違うので、ルナルデッタに顔を向けるが、彼女は首をかしげるばかりだった。
「ちょっとそのあたりも話す必要があるな。とにかく魔物が出るなら、あまり長居もしないほうがいい。案内してくれるか」
「了解しました。そこまで遠くはありませんが、私たちは夜は目が聞きませんので、ライトだけお願いできますか?」
「わかった。おい」
「はいっ」
声をかけられると、歩がすぐにライトを発動させて、暗がりの視界を明るくさせる。
「はい、では……」
「ルナ様はどうするんですかです?」
「まぁ俺が手を貸してやるよ。ほれ」
「え?」
「えっ」
「え、です」
「ほほぉでございます」
なんと二一がルナルデッタを持ち上げたのである、いわゆるお姫様抱っこである。
それに対して、ルナルデッタ、歩、クレアロッテが驚きの声をあげ、ジャンマリアだけ笑顔になっている。
「どうした?」
「あの、えーとですね。ちょっとこれは申し訳ないというか……、恥ずかしいといいますか……」
「じゃあ後ろにおぶるか? だが、一応嫁入り前だし、あまり触れすぎないほうがいいだろ」
もちろん二一に他意はない。ルナルデッタが歩けない。だが、ここを離れたほうがいい。ならば運ぶ、じゃあ誰が、となれば、自分だお思っただけである。
「そういう問題ではなく……」
「文句がないなら言うな。俺がいいって言ってるんだから静かにしてろ」
「は、はい……」
明確な反論条件がないルナルデッタは、歩とクレアロッテからのいろんな感情がこもった視線を受けながら顔をうつむかせていた。




