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父の伯従父、ドミニク・マレシャル子爵。
私とは面識がないと思うが、父からもその名前を聞いたことがないと思う。祖父の従弟であるドミニク様は、長子ではなかったので爵位は継げず、ソワイエ家の男子として騎士になることもなく、商家の家へ婿入りした。
そして、恐ろしい手腕で商家を大きくすると、隣国の戦争での武器売買や食料の補充、医薬品の提供など、後方支援で大きく名を売った。その後、王都で流行り病が蔓延すると、他国の薬草から薬を作り治療にあたった。その功績で子爵位へと駆けあがったらしい。
まさに、豪傑。
「この人だったら、ボドワンと競っても勝てるかもしれない」
ただ、一族の中でも血の濃さに拘ったり、武門の家としての誇りを訴えてくる人がいるだろう。……なにか、ボドワンの瑕疵を見つけられないかな?
「ねぇ、アドバン。ソワイエ家の護衛……いいえ、兄の部下の人に連絡ができないかしら? 頼みたいことがあるのだけど」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
私は母の背中を少し撫でたあと、ドミニク・マレシャル子爵宛てにもう一通手紙を書いた。
そして、父と兄の新しい情報もないままに一族会議まであと二日と迫った。
来客を控えて、ひっそりと暗い帳に包まれたようなソワイエ伯爵邸。
使用人すらも使わない裏木戸がこっそりと開くと、そこから数名の男たちが屋敷へと招かれた。
「ようこそ、マレシャル子爵様。ソワイエ伯爵家のクラリスでございます」
目立たない色の粗末な外套で身を隠すように現れたのは、ドミニク・マレシャル子爵とその子息だ。子爵は祖父の従弟で、年も亡くなった祖父ぐらいかと思えば、まだ壮年の年頃にも見える容貌で生気に満ちている。
ドカッと粗雑な動作でソファーに座ると、値踏みする眼で私と母を見た。
「それで、わざわざ会議前に呼びつけたのは何用だ?」
元貴族子息というよりも、平民からのたたき上げの商人というのが正しい態度で、私と母は互いの顔を見合わせた。
「申し訳ございません。実はソワイエ家の当主についてご相談したく……」
母は恐る恐る、父からの手紙をテーブルの上にのせ、マレシャル子爵へと滑らせる。
「……。ふむ、ダヴィトがここまで私を高く評価していたとは知らなんだ」
「えっと……初めてお会いします、ドミニク……おじさま?」
なんと呼んでいいのかわからず、首を傾げて声をかけると、マレシャル子爵は人懐っこい笑顔で返してくれた。
「初めてではないな。嬢ちゃんが生まれたとき、祝いに立ち寄ったことがある」
「まあ……」
さすがに赤子のときの記憶はないけれど、ドミニクおじさまは人が変わったかのようにニコニコとして、紅茶のカップに手を伸ばす。
「父さん。奥様とクラリス嬢が驚いているよ」
ソファーの後ろに立ったマレシャル子爵子息エミールがツンツンとドミニクおじさまの肩をつつく。
「いや、あの呼び出しの手紙では何用が検討がつかなくてな、すまんすまん」
「いえ。それで、私と母はソワイエ伯爵位をドミニクおじさまに継いでほしいと思っていて……」
「ボドワンがいるだろう? オルタンスは……あの子の子どもは娘ばかりだったか……」
顎に手をやるドミニクおじさまに、私と母がコクリと肯定するように頷く。
「はい。このままですと、父の弟であるボドワン叔父様が有力です。ボドワン叔父様には息子のガストンがおりますし」
私の従兄であるガストンは、父親と同様臆病で矮小な人物だ。兄には媚び諂うくせに、女である私には横柄な態度を取る。大嫌いな人物である。
「では、この老いぼれを担ぎあげなくてもいいだろう?」
揶揄う口調だが、ドミニクおじさまの眼はこちらを値踏みする色が消えていない。
私は無言で数枚の書類をそっと差し出した。
「これは?」
「ボドワンがソワイエ伯爵家に相応しくない証拠です」
アドバンに指示し、兄の部下の騎士たちにボドワンの身辺を調べさせた。当然、前の時間で奴の悪行が耳に入っていたから起こせた行動だ。
「違法賭博に、愛人が数名。たぶん、婿入りした家のお金を流用している。若しくは宝飾品や絵画を裏で売り払っているかもしれません」
罪としては小さいかもしれないが、伯爵家、それも王家に忠誠を誓うソワイエ家の当主としては失格だ。
「よく調べたな。しかも……ジョルジュの部下を頼ったのか? ソワイエ家の者を使わなかったのか……ふむ、では私からも、いいものを見せてやろう」
ドミニクおじさまが差し出した数枚の書類は……これは、一族会議に出席する者たちの裏切りの証拠?
「まさか、当主になるために賄賂を?」
「ボドワンは、何が何でもソワイエ伯爵になりたいようだな。どうしても、欲しいものでもあるのか……」
チラリと二人の視線が母に注がれ、母は自分の手で両肩を抱き震えた。
「奪わせるものですかっ! ソワイエ家も、何もかも! 会議で賄賂のことを明らかにして糾弾してやる」
ガタンと勢いよく立ち上がる私に、ドミニクおじさまは呆れたようなため息を零した。




