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意識が浮上する感覚に、ゆっくりと目を開けた。
パチパチと瞬きをしてから、ガバッと勢いよく上半身を動かして起き上がる。
「ここ……どこ?」
いいえ、ここがどこかはわかっている。ただ、状況が理解できないだけだ。だって、ここは私が生まれ育ったソワイエ伯爵家の屋敷。この部屋は私が嫁ぐまで使っていた私室。見覚えのある家具や調度品。
そして、鏡に映った私の姿……これは……。
「若返っている? いいえ、それよりも体も元に戻っている。肌や唇が荒れてないし、髪も艶々だわ」
ペタペタと手で触っても感触がある……では、死んだあとに幽霊になったわけじゃないわね。
私は改めて、グルリと自分の部屋を見回す。
「あの部屋とは違うわね」
狭くて暗い部屋。王宮の一室でありながら物置部屋ともいっていいあの部屋。隙間風が吹き、虫やネズミが入り、饐えた匂いのしたあの部屋。女性らしい身だしなみを整えるものもなく、固くて小さな寝台があるだけの部屋。
鏡に映る若い私が着ている夜着や、机の上にある小説の題名、深い緑色のリボンを見て、あの死んだときから五年から六年ぐらい前に戻っているとわかった。
「ねえ、知っていて? あなた、数年後には王太子妃になるのよ」
王国騎士団団長の娘で十六歳の伯爵令嬢が、第一王子と婚約し結婚後、第一王子は立太子される。
……なのに、私は惨めな生活で苦渋を舐めた。
「でも、死んだはずよね、私。夢でも見ているのかしら?」
第一王子との結婚は当初から、いいえ婚約時代から破綻していた。王子の生母である王妃からも嫌われ、王宮の使用人たちからは虐められた。本人もたかが伯爵家の地味な令嬢はお気に召さなかったのか、とことん無視してくれたっけ。
「なんであんな目に遭わないといけなかったのかしら?」
分不相応な婚姻だったとは思っている。それでも、死ぬまで虐め抜くなんて非道過ぎる。そのときの私には、何かあったときに声を上げてくれる家族がいなかったとしても……。
「待って! いま、いつなの? もしかして……」
理由はわからないが、私が死んで時を戻して生き返ったとしたならば、ソワイエ家の悲劇を止めることができるかもしれない。
「そうよ。まずはお父様の任務を延期、いいえ中止してもらって。兄にはしばらく騎士団の仕事を休んでもらう。いっそのこと領地に閉じ込めてしまえばいいわ。お母様もあの男が近づけないように……」
鏡に向かってぶつぶつと呟いていると、廊下がバタバタと騒がしくなった。
コンコン。
誰か来たわ。入室の許可を出す前に、あわあわと焦りつつベッドへと潜り込めば、扉は許しも得ずにバタンと開いた。
「お嬢様ーっ! 大変です、旦那様が……旦那様がーっ!」
泣き叫びながら部屋に入ってきた母付きのメイドがその場に座りこむ。
まさか……今日があの日だったの?




