第九話 けっきょく魔法少女ってなんなん?
Q.1 あなたの初体験は?
「えっ、初体験って、寺島さん。あなたなにを聞いているんですか。あっ、初めて魔法少女になったときのことですか。もう、紛らわしい聞き方しないでください。えっ、なにを想像したんだって、寺島さん!あなた最低です!」
いかがわしいビデオのインタビューをマネしたら怒られてしまった。ソファに座った尾崎さんはあたしの構えたビデオカメラの前で顔を真っ赤にしている。
「ええー、なんでも答えてくれるって言ってたじゃん」
せっかくパパからビデオカメラ借りてきたのになあ。このあとも3サイズとか性感帯とか好みのシチュエーションとか、いろいろ聞いてみたかったのに。
場所はラブのつくホテル、ではなくカラオケ店。他の人に聞かれてはその人の記憶を消さねばならなくなってしまうから、万一の事態を考えて二人きりになれる密室。それなら愛を育むホテルのほうが機密性が高いように思えたが、「不潔です!あなたはヘンタイですか!」と怒られてしまった。
ついでにおっぱい測定もできて一石二鳥と思ったのに、それも却下されてしまった。尾崎さんのなんでもはなんでもじゃなかった。尾崎倫理委員会にかけて、承認されたもののみが許可されるディストピアだった。
「なんでもってそういうことじゃありません!魔法少女関連の質問には答える、って意味です!」
「ちぇー」
と不満げに口を尖らせてみたが、あたしはけっこうほこほこした気持ちだった。
だってねえ。あたしと同じく八尺様と尾崎さんの正体を目撃した愛実の記憶は容赦なく消し去ったのに、あたしのは残してくれているし。
実は尾崎さんってあたしが思ってるより、あたしのことが好きなのかもしれない。そう思うとなんでもがなんでもじゃなくても、かわいくてしかたない。むしろ許可されたときのエロさが増すと思うと、長い前戯の途中にいるように感じられる。
「このお、焦らすね。焦らし上手だね、尾崎さん」
「なにが!?」
「あっ、ううん、なんでもない」
おっといけねえ、心の声が漏れてしまった。今は魔法少女について根掘り葉掘り聞かなきゃ。
「まあ、おふざけはこのくらいにして、ちゃんと聞かせてよ」
「ふざけてたのは寺島さんだけです」
ほほを膨らませてぷいっと横を向いた。なんだろう尾崎さん。八尺様騒動から素直に感情を見せてくれてる気がする。へへっ、嬉しいじゃないの。
「まあまあ尾崎さん。ほら、尾崎さんの大好きなプロテインだよ」
駅前の激安カラオケ店マッスルシンガーにある誰が頼むか謎のメニュー、プロテインプレート。尾崎さんが目を輝かせたので注文してみた。ゆで卵、ブロッコリー、鶏ささみの盛り合わせに塩がついただけの誰得ヘルシープロテインメニュー。
まさか尾崎さん需要があるとは思わなかった。思い返してみると尾崎さんのお弁当にはいつもゆで卵とブロッコリーと鶏肉を使ったメインが入っていてプロテイン豊富だ。さすが脳筋魔法少女。
「もう、そんなんじゃごまかせないですからね」
と言いつつ親鳥から餌をもらうひなどりみたいに、あたしの手から鶏ささみを食べている。かわいい。この子を巣立ちまで見守りたい。
「で、けっきょく魔法少女ってなんなん?」
「むちゃくちゃざっくりした聞き方ですね」
野菜ジュースをこくこく飲んで尾崎さんが困った顔をした。
「三行で」
「三行!?ええと、
魔法少女は魔法を使って魔物と戦います!
とっても強いです!
それからえっと、かわいいです!」
自分でかわいいと言って照れている。なんだよ、かわいいじゃねえかよ。
「なるほどなるほど。それでは魔法とはなんですか?幼女口調で答えてください」
「幼女!?……んとねえー、魔法っていうのはねえ、マナっていう未知の粒子にお願いしてねえ、ズバーンドギャーンってすっごい魔法が使えて魔物なんかイチコロなの!あとねえ、魔法少女のドレスもマナから出来てて、そのおかげで身体能力もはちゃめちゃに強化されるんだお!だからちょっとくらいの怪我してもへっちゃらなの!えーとそれから、魔法少女はねえ、マナを感知することができてビビッと魔物を見つけられうのだ!」
尾崎さん、がんばって舌っ足らずな話し方をしてくれている。意外とノリが良くてちょっと引く。
「ふむふむ、それでは魔物とはなんですか?ツンデレ口調で答えてください」
「ツンデレかあ…。もう、仕方ないわね。無知なあんたのために教えてあげるから、耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。と言ってもね、魔物についてはほとんどのことがわかっていないのよね。わかってるのは魔物もマナから形成されてること、この世に顕現するには蓄えたマナが閾値を超えなければならないこと、マナを溜め込んだ核があってそれを破壊しなければ再生してしまうこと、心霊スポットとか事故現場とかそういうところに出現しやすいってこと、対処できるのは魔法少女だけってこと、くらいなものね」
あっ、こっちのほうがしっくりくるな。よしよし、これでいこう。
「へえー、じゃあ八尺様みたいな姿になってた理由とかはわからないの?」
ネットでまことしやかに囁かれている都市伝説の姿を取っていたのはなぜか、実はけっこう気になっていた。だってそうゆうオカルト的なのってワクワクするじゃん。
「ああ、それは集合的無意識が原因だって言われてるわね」
「集合的無意識って確か、ユングが言ってたやつ?」
前にやってたゲームに出てきたな。オタクはゲームやマンガから無駄知識を得ていく。
人類は意識の奥深くに存在する集合的無意識と呼ばれるものを共有していて、それが世界各地で類似した神話や昔ばなしが見つかる原因だ、みたいなやつ。人類みんなが共有しているイメージの宝庫、古今東西の化け物大図鑑、みたいな感じなのかな。
「へえー、あんたにしてはよく知ってるじゃない。まあ、どうせゲームで得た知識でしょうけど」
図星を指されてぐうの音も出ない。
「集合的無意識の中には原型と呼ばれているものがあって、原型をモデルにした魔物が生まれることが稀にあるの。この前の八尺様みたいに有名な都市伝説や妖怪、あるいは悪魔や西洋の怪物が魔物の原型に選ばれることが多いみたいね。みんなに共通の恐怖の象徴、みたいな感じで選ばれているのだと思うんだけど。その手の魔物はたいていデタラメな姿をした魔物よりも強い力を持っててやっかいなのよねえ」
「確かに、八尺様は手強かったもんね…」
思い出すだけでゾッとする。もしも火事場のエロ力が出なければ、あたしも尾崎さんもおだぶつだった。尾崎さんの乳に助けられた。大きいは正義だ。
「まあね。あれはあんたに助けられたわ。こ、これでも感謝してるんだからねっ!」
「尾崎さん…」
ちゃんと真面目にツンデレしてくれる尾崎さん、エモい。




