第二十八話 さあ今こそ顕現せよ!宵闇の女王!
「汝 宵闇を統べる女王 夜の帷をもたらし世界を漆黒の闇に閉ざすもの 流れ出る鮮血は汝への供物 奏でられる慟哭は汝への讃美歌 赤き月の祝福を受け 現し世に顕現せよ 偉大なる夜の支配者よ」
「か、カッコいい…意味はよくわかんないけどカッコいい!」
ダンタリオンがドヤ顔で詠唱を終えると、グリモワールが禍々しい光に包まれてその形状を変化させた。赤黒く煌めく、凶星のような禍々しいオーブに。
ダンタリオンはブラックメシアにゆったりと歩み寄り、オーブをその身体に埋め込んだ。
「なっ!?」
「いったいなにを!?」
ソフトボールくらいの大きさのオーブはなんの抵抗もなく、沼地に沈み込むかのようにズブズブとブラックメシアの背中に飲み込まれていく。
「くうぅ…!あっ…はあっ…!」
ブラックメシアは頬を紅潮させて、どこか官能的な声を上げながらオーブを受け入れていく。
オーブが飲み込まれていくごとに周囲の闇が濃密になり、空気が重く淀んでいく。それに呼応し、天に座した赤い月は歓喜するかのようにその艶やかさを増している。
「いけない!」
尾崎さんが悲鳴のような声を上げて力を振り絞った。二の腕が引き締まり、僧帽筋が唸りを上げて踏みしめた地面がクレーター状に沈み込んでいく。
ついに大鎌の柄が折れ、ブラックメシアの顔面に鈍器ステッキが届く。
「残念。遅かったわね、はるか」
あわや顔面スプラッターの再来かと思われたその刹那。オーブは完全にブラックメシアと一体化し、ドロリと粘質な闇の膜が彼女を覆い隠した。
必殺の鈍器ステッキは闇の膜にのめり込んで、トランポリンのようにボヨンと弾き返されてしまう。
「くっ!」
尾崎さんは土煙を上げながら飛び退り、ブラックメシアを覆う闇の膜を険しい眼差しで睨みつけた。闇の膜は楕円形の繭のような形を作り、その表面には血管みたいに赤い筋が走り脈打っている。
「ジャッジメントボティプレス!」
八尺様を倒した必殺魔法、ジャッジメントボティプレス。
雲間から歓声が響き渡り、あの伝説の覆面レスラーが降ってくる。暗雲を吹き飛ばしながら猛烈な勢いで闇の繭目掛けて迫る、圧倒的な質量を誇る筋肉。
しかし闇の繭は、自身よりも遥かに巨大なレスラーが衝突するも微動だにしない。それどころか、つつくと胞子を撒き散らすキノコみたいに濃密な黒い霧が吹き出して渦を巻き、無情にもレスラーを吸い込んでいく。
渦の中心に座する闇の繭に向かって、その巨体が蟻地獄に落ちるアリのようになすすべもなく沈んでいく。
「ああっ!ミルマスカラス!」
尾崎さんの悲痛な声も虚しく、伝説の覆面レスラーは親指を立てながら闇の繭へと吸い込まれてしまった。
闇の繭は思わぬ獲物に歓喜するかのように、ドクドクと不気味に血管を脈打たせている。
「カカカ!わざわざ生贄を捧げてくれるとは重畳!さあ今こそ顕現せよ!宵闇の女王!」
ダンタリオンが勝ち誇った声で叫ぶと、闇の繭にピシリと亀裂が入った。亀裂は縦横無尽に広がり目も眩むような漆黒の輝きに満ち、踏ん張っていないと吹き飛ばされそうなくらいの凄まじい衝撃波を放つ。
そして割れた繭の中から姿を現す、宵闇の女王の美しき姿。
「吸血鬼…?」
襟がやたらと尖った特徴的なマントに身を包んだその立ち姿は、ゲームやアニメで見たことのある吸血鬼のようだった。
堂々たる立ち姿は威厳に満ちて、ブラックメシアの周囲には溢れ出すマナの余波なのか、紫電がバチバチと弾けている。マントの裾は陽炎のようにゆらめき、足元を覆う黒い霧と一体化しているように見える。
さっきまでとはまるで雰囲気が違い、ただその場に立っているだけでも圧倒されて足が震えてくる。只者ではない感が肌にビシビシと伝わってくる。
「尾崎さん、強敵だよこいつ!」
「ええ、わかっています、寺島さん」
尾崎さんは鈍器ステッキをハンマーモードに切り替えて、油断なく構えていた。さすが尾崎さん、判断が早い。ポニーテールが風圧で揺れているのがイカすぜ。
「さあ踊りましょう、はるか。宵闇の女王の力、とくと味あわせてあげる!」
カッコいいセリフとともにブラックメシアがマントをバサッと開くと、コウモリの羽のようにブワッと横に大きく広がった。
そして露わになる、ブラックメシア宵闇の女王モードのその全容。
「えっ…女王って、そうゆう女王様…?」
身にまとっているものは光沢のあるボンテージ風の衣装で、夜道でコートをガバッと開く変態みたいに白い肌が露出しまくっている。
まず絶壁の胸周りは見えてはならない部分以外ほぼ肌色。悪魔の爪のようなデザインの飾りで上から下に向けてガシッと鷲掴みにするように上半球が覆われている。下半球はほぼ丸見え。サイズが足らず決して球形をなしてはいないが、説明しやすいので便宜上そう呼ばせてもらう。
お腹周りは網目状の素材で覆われ、紅い淫紋みたいなのがおへそ周りに描かれているのが透けて見えている。脇の下から脇腹にかけてエナメル質な紐が靴紐みたいに交差して通り、骨盤のところでキュッとリボン結びになっている。スケスケ素材も淫紋もエナメル紐も痴女感が強い。痴女三段活用だ。
腰回りにはガーターベルトのようなものがついている。光沢のあるハイヒールのブーツは膝辺りまでの長さで上部はレース状になっており、ガーターベルトのようなものとエナメル紐で繋がっている。真っ白な太ももに黒光りする紐が食い込んでいるのは控えめに言って煽情的。
いつもはミニスカに隠れている部分は際どい角度のハイレグになっており、後ろはたぶんほぼ尻だ。間違いなくVの字に食い込んでいる。だけど今のあたしの角度からは見えない。悔しいのう、悔しいのう。
首元にはリボンのようなレースが連なる、真紅のバラがついたチョーカーが巻かれている。それが唯一残るゴスロリ要素だ。
「お姉ちゃん…」
尾崎さんは意気込むブラックメシアを前にして顔を赤らめ、手で顔を覆っている。
「その、もうちょっと、隠して…」
実の姉の夜の世界の女王様みたいな格好なんて、見ていられないのだろう。だけど指の隙間からチラチラと見ているのを、私は見逃さなかった。なぜなら尾崎さんはむっつりだから、必ずそうすると信じていた。
見ながら、うわあとか、そんなに出しちゃうの、とか吐息のような声でつぶやいている。じっくりと観察したくとも、実の姉だからそんなことはできないのだろう。欲望よりも恥が勝る。
だけどブラックメシアはあたしにとっては他人の姉。なので堂々と鑑賞して、欲望の赴くままに撮影だってできる。
「ブラックメシア!隠す必要なんてないぞ!ポーズと目線お願いします!」
「ポーズって、こうかしら…?」
胸を強調するポーズにそうじゃねえんだよなと思ったものの、気分を良くさせるためにおだてた。
「いいよいいよ!すっごくキレイ!とっても妖艶でまさに宵闇の女王様!」
「ふっ、ふふ、ぐふふふふ、悪い気はしないわね」
ブラックメシアは見られて悦ぶタイプなのか、ノリノリでポーズを取ってくれている。そんなあたしたちを尾崎さんとダンタリオンは、八百長試合と知りながら格闘技を見ている観客のような冷めた眼差しで見ていた。
だけどそんな呆れた視線ごときで、ヒートアップするあたしたちを止められない。
「じゃあ後ろを向いておしりを突き出して、顔だけ振り向いてみようか!」
「えっ…。こ、こうかしら…?」
「す、素晴らしい…!」
言われた通りのポーズを素直に取ってくれるブラックメシア。白い頬はほのかに赤く染まり、照れくさそうな横顔がそそられる。
そして何よりも、黒いエナメル質のボンテージがV字に食い込んだ白桃のようなおしりがたまらない。ボリューム感はありつつも引き締まっていて、パンと張りがあるのが見ているだけでわかる。思わずパアンと叩きたくなってしまう、芸術品のようなおしりだ。
文句なしの曲線を描くその美尻の右半球に、ぽつんとほくろがあるのがたまらない。画竜は点睛を欠かなかった。スケベの神さまはおしりにエロほくろを付け忘れなかった。
「最高だ…!あんた最高だよブラックメシア…!」
「ふふふ、あなたこそツーサイドアップガール。よもや新しい扉が開けてしまうところだったわ」
固い握手を交わして尾崎さんの隣に戻ると、ぼそりと言われた。
「写真、あとで私にも送ってください…」
「オッケー!」
よかった、てっきり死ぬほど怒られるか、問答無用でハンマーで圧殺されるかと思ってた。尾崎さんがむっつりでほんとうによかった。
「ふふっ、ダンタリオン。ワタシにはモデルの才能があるかもしれないわ。あんな腐れカラオケ店なんて見限って応募してみようかしら」
「敵に撮影会なんぞされて何を浮かれておるのじゃ、痴れ者め。なんのためにグリモワールを貸してやったのか、忘れるでないぞ」
「ええ、もちろんわかっているわ」
ニヤリと笑い、ブラックメシアは腕を突き出して手のひらを上に向けた。すると川を流れる血の水が意思を持ったかのように手のひらへと集まり球体に変化する。ブラックメシアの周りに無数の血の玉が浮かび、それらすべてが再び真紅の魔槍へと姿を変えた。
「さあ、仕切り直しよ!ピースメイカーハルカ!」
「仕切り直しにもほどがあります!」
尾崎さんの突っ込みを聞き流し、ブラックメシアは手に握った槍を投擲した。




