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第二十五話 ワタシが選び取ったのは、闇魔法少女というイバラの道…

 とてもではないが果たし合いを申し込む雰囲気ではないので、ブラックメシアの汚部屋をお掃除することになった。身内だったらちょっとほっとけないもんね、これは。

 尾崎さんは威勢よく壊してしまった玄関扉を魔法で修復して制服姿に戻っている。ぷりぷり怒りながら、流しに溜まった食器類を手際よく洗っている。家庭的な尾崎さんもいい。

 あたしが石油王だったら家政婦に雇ってメイド服を着せたい。そしてあわよくば、夜のご奉仕もしていただきたい。

 お姉ちゃんは尾崎さんのそばでキッチンのゴミをまとめている。でも分別がテキトウすぎて尾崎さんに怒られまくっている。

 ちなみにあたしは居室の方のゴミを片付けている。ときどき下着が出てくるのが役得だ。お姉ちゃんは黒や紫や赤のけっこう派手めなのを好んでいる。

 ほくほくとしていたら、寄せて上げるバストアップブラや、『一週間で効果抜群!バストアップ術!』という本を見つけてほんのり切ない気持ちになった。尾崎さんの目が届かないところにしまっておいてあげよう。武士の情けだ。

 だっちゃは興味津々と言った様子で部屋を闊歩し、いろんなゴミのにおいを嗅いでは楽しそうに「臭いにゃあ」と笑っている。魔人の感性はわからない。


「もう、お姉ちゃん。どうすればこんなに洗い物やゴミが溜まるんですか」


「時の流れには誰も勝てない。はるか、あなたは風や波に削られて、形を変える岩にも同じことが言える?」


「部屋が汚れるのは当然の自然的な変化ではありません。こまめに掃除をしてごみ捨てをちゃんとしていれば元の形を保てます」


「ふっ、会わないうちにすっかり口が達者になったわね。さすがワタシの妹」


 額に手をあててカッコつけてるけど完ぺきに論破されている。たぶんお姉ちゃんの辞書に敗北の二文字はない。あと反省の二文字も。


「あっ。もう、お姉ちゃんそれ分別違う。ペットボトルはプラごみじゃなくて資源ごみです。あとキャップとラベルも外してください」


「あら、灰にしてしまえば全部同じことでしょう」


「昭和脳ですか、あなたは。リサイクルってものがあるでしょう。まさか段ボールもちぎって燃えるごみに捨ててるんじゃないでしょうね」


 資源を大切にする魔法少女、ピースメイカーハルカ。


「あら、あれは冬場に地面に敷いたり体にかけるとあたたかくて便利なのよ。捨てるなんてとんでもない。あれはまさしく神器よ」


 えっ、なにそのしみじみとした言い方。まさかホームレスお姉ちゃんだったころがあるのか。魔法少女になると宣言して家を出て路頭に迷い、ホームレスに転落。書籍化やドラマ化ができそうだ。


「えっ、お姉ちゃん専任の魔法少女として働くために家を出たんですよね?それなら衣食住はしっかりサポートしてくれるはずですけど」


 なにその至れり尽くせりな待遇。羨ましい。いいなあ、あたしも高校出たら魔法少女に、ってなぜか不採用だったなちくしょう。


「ええ、それはもちろんよくしてもらったわ。あのころは本当に生活しやすかったし、明日食べるものを心配する必要もなかった…衣食住が保証されるって、何よりもありがたいことだったのね…」


 すっごく遠い目をしている。今の食生活が荒れているのは、そこら中に散らばったスーパーの半額弁当の空箱やカップ麺のゴミでわかる。


「だけどはるか、あなたは忘れたの。ワタシが選び取ったのは、闇魔法少女というイバラの道…」


 ペットボトルのラベルを剥いでキャップを外しながら、お姉ちゃんはニヒルに笑った。


「あっ、ちゃんと分別できてる。えらい」


「ふっ、ツーサイドアップガール。ワタシにかかれば分別なんてお手の物よ」


 ペットボトルの分別がてきたのを褒めてあげただけで、お姉ちゃんは犬なら盛大に尻尾を振っていそうなくらいゴキゲンな顔をしている。かわいい。


「闇魔法少女…」


 洗い物を終えた尾崎さんはつぶやき、自前のハンカチで手を拭いている。黄ばんだハンドタオルもかかってはいたが、それで手を拭く気にはなれないのだろう。この家にあるもの全ての衛生状態が信用できないのはよくわかる。


「お姉ちゃん、闇魔法少女っていったいなんなんですか?いくら資料をあたっても出てこないし、知っている人もいなくて…」


「それは当然よ、はるか」


 お姉ちゃんはぴろぴろと広げていた紙なのかプラごみなのか判断に困る包装紙をてきとうに燃えるごみの袋に捨てて、手で右目を押さえる中二病ポーズを取った。


「闇魔法少女の創始者は何を隠そう、このワタシなのだから」


「あっ、なんだ。お姉ちゃんが勝手に名乗っているだけなんですね」


 答えを聞いた途端に興味をなくしたようで、尾崎さんは床をホウキで掃き始めた。掃除機なんていう文明の利器は、お姉ちゃんの部屋にはなかった。


「えっ、なにそのお母さんの作るカルピスみたいに薄い反応。せっかくパイオニアが目の前にいるのだから、いろいろ質問したらいいじゃない。はるか、わからないことを聞かないのは現代っ子の明確な短所よ」


「仕事でわからないことがあっても聞いてこなかったって店長さんが言ってたよ、お姉ちゃん」


「ぐぬぬ…」


 うなりながら四つん這いになって床を叩いている。ぐぬぬって言って悔しがる人を初めて見た。さすが尾崎さんのお姉ちゃんだ。

 尾崎さんは聞く耳もたずな感じだし、せっかくだしあたしがいろいろと聞いてみよう。


「はいはーい、質問質問。闇魔法少女って魔法少女と何が違うの?」


 キラキラと目を輝かせてお姉ちゃんがこっちに這い寄ってきた。人との関わりに飢えた獣みたいでちょっとかわいそうだ。


「うふふ、そんなに気になるの、ツーサイドアップガール。そうよね、きっと気になって夜も眠れないのね、かわいそうに」


「いや、そこまでではない」


 という言葉はもう聞こえていないみたいで、お姉ちゃんは床に落ちていた孫の手を拾ってステッキみたいに振るった。

 やっぱり話してみるとおもしろいな、このひと。


「人間はね、神様と契約を結ぶことでマナを扱えるようになるの」


「ちょっとお姉ちゃん!それは部外者には話しちゃいけない機密事項でしょう!」


「フフフ、はるか。それは魔法少女たちのルール。闇魔法少女のワタシには関係のないことよ。ワタシは話したいときに、話したい相手に、話したいことを自由に話すわ。何者にも縛られずに、ね。それにここまで巻き込んでおいて、今さら部外者呼ばわりはツーサイドアップガールがカワイソウよ」


「そうだよ尾崎さん。あたしは尾崎さんや魔法少女のこともっと知りたいよ」


「むぅ…」


 尾崎さんは不機嫌そうにうなって腕組みした。ヘソを曲げる尾崎さんもかわいい。


「さて、話が逸れてしまったわねツーサイドアップガール。神様と契約を結んで、マナを扱えるようになった人間が魔法少女。各国に支部があって、日本支部ではアマテラスと契約を結んで魔法少女になるのが一般的ね」


「えっ、そんなレンタルワイファイみたいな感じなの?」


 というか神様って実在したんだ。まあ、だっちゃみたいな言葉を話す魔人だっているんだし、神様がいても不思議ではないのかもしれない。


「それは言い得て妙ね。人間単体ではマナにアクセスできないけど、神様という仲介機を通してマナを使えるようにしてくれてる、と考えていいかも。神通力で全国各地、どんなに遠く離れていてもアクセスし放題」


「へえー。あれ、じゃああたしが魔法少女不採用だった理由ってもしかして、アマテラスに気に入られなかったとか、そういう感じなの?」


 尾崎さんは気まずい顔をして目を逸らした。


「アマテラス様はその、あんまり陽気で声の大きい人間を好まないたちなので…」


「あっ、へえ…」


 適正とかではなくてそんな理由だったのか、へえ。まあ、いいけど。いや、しばらく引きずるなこれ。好き嫌いで弾かれたって、けっこうショックだ。なんだよ、太陽神のくせして陰湿な。


「アマテラス様と契約を結ぶのがこの国の一般的な魔法少女。だけどお姉ちゃんは今、アマテラス様と契約を解除された状態になっている。それなのにお姉ちゃんは、マナを扱えている」


 さっきまでの話と矛盾する事実を指摘し、尾崎さんはお姉ちゃんに鋭い視線を向けた。


「ずっと疑問でした。お姉ちゃん。あなたは今、いったい何と契約を結んでいるのですか?」


 お姉ちゃんが影のある笑みを浮かべると、ふいにだっちゃが大きな声を上げた。


「にゃにゃっ!この押入れなんか怪しいにゃあ!マナのかほりがプンプンするにゃあ!」


 スパーンと猫の手で器用にふすまを開けると、狭い押し入れの中で幼女が眠っていた。

 段ボールを床に敷いて、段ボールをお布団のように体にかけて、金髪幼女がすやすやと寝息を立てていた。

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