第十一話 ワタシは闇魔法少女、ブラックメシア
「お姉ちゃん!?」
待ってストップ、お姉ちゃんってなに。どうゆうこと。理解が追いつかない。えっ、尾崎さんって姉妹だったの。しかも尾崎さん妹なの。しっかり者で長女っぽいのに実は妹って、萌える。ひと粒で二度美味しい。
それでしかもなに、お姉ちゃんのこの格好。黒と白以外の色を知らないような漆黒のミニスカゴスロリ。透け感のあるレースのタイツに包まれた太ももが肉感的でエロい。お姉ちゃんは尻と太もも周りが太めなのにキュッと引き締まっているという、非常にナイスな肉付きをしている。胸部についてはあえて語るまい。
乳の妹と尻の姉。赤いきつねと緑のたぬき以上にそそられる。
そしてお姉ちゃんもたぶん魔法少女なのだろう。
だって魔法少女モードの尾崎さんが、顔を真っ赤にして腕の血管がパンパンに浮き上がるくらい力を入れて壁に押さえつけているんだもん。なんか不吉な感じの黒いオーラをまとっている大鎌といい、間違いない。
姉妹で魔法少女。ピンクとホワイトの王道魔法少女な妹と、シックな黒ゴスロリの姉って、尊すぎんだろ。二人ともフィギュアにして部屋に並べて飾りたい。ああ、3Dプリンタが欲しい、切実に。
「てえてえ…てえてえ…」
「寺島さん!地を這うような姿勢で写真なんか撮ってないで、その人たちを連れて早く逃げてください!」
おっといけない。本能に負けてローアングラーになっている場合じゃなかった。
床に倒れたヨシキが心配だし、他のヤンキーどもも逃さないと。尾崎さんがお姉ちゃんを押さえているうちに。
床に倒れたヨシキを助け起こそうとして首をかしげた。
「あれ、傷がない」
ヨシキは無傷で血も流れていない。てっきりあの大鎌にざっくり切られたと思っていたのに、どういうこと。まあとにかく、死んでなくてよかった。早く逃さないと。
「立て!立つんだヨシキ!」
たいていの男の子はこれで立ち上がれるはずなのにヨシキの反応がない。目は虚ろで焦点を結ばず、青白い顔からは生気みたいなものを感じられない。
まるでよくできたマネキンみたいに、なんの反応も示さない。
返事がない、ただのヨシキのようだ。
「そいつ、あいつに切られて魂が抜けたみたいになっちまったんだ!」
金髪ヘッドバンド男がヨシキの肩を支え、その反対側を茶髪ウルフカット女がわめきながら支えた。
「もうなんなの!わけわかんない!」
「いいから、早く逃げよう。うちらがここにいてもジャマなだけ」
やけに冷静な黒髪マッシュ、ピアスマシマシがヨシキを支える二人の背中を押して部屋から脱出した。あれ、あの黒髪マッシュ、どこかで見たような気が。
「はるか、離して。ワタシのジャマをしないで」
黒髪ワンレンボブのお姉ちゃん、淡々とした口調でフリルとレースマシマシのゴスロリって、萌える。無表情なのにリボンとフリル付きのカチューシャまで装備していて最高だ。
「魔法少女が一般人を襲うのを見過ごせません!」
「それならダイジョブ」
お姉ちゃんはニヤリと笑うと、無防備な尾崎さんの唇に口づけした。完全なるマウストゥマウス。奇妙な冒険をするマンガだったらズキュウウウン!って効果音が出てるくらいのガチキッス。
えっ、待って、尊すぎんだけど。姉妹で魔法少女でキスって、ヤバい、鼻がボルケーノしそう。
「なっ…!?お姉ちゃん、いったいなにを…」
動揺して手を離した尾崎さんを、お姉ちゃんが放った漆黒のオーラ的なものが吹き飛ばした。オーラは近くにあったテーブルを巻き込み、上に乗ってたポテトが宙を舞っているのがやけに芸術的だ。ポテト、カラオケボックスに舞う。
「がっ!」
尾崎さんは壁に叩きつけられ、倒れそうになるのを膝を立てて踏みとどまった。
立膝で ももの隙間 チラリズム 見やる布地は パンツかな
いや、そんなふざけた短歌を読んでいる場合じゃない。今はただ脳裏に焼き付けて、尾崎さんの救助が先だ。
「尾崎さん!」
尾崎さんに駆け寄って肩を支えると、お姉ちゃんはあたしたちを見下して髪をかき上げた。そして大鎌を振りかざして昔のRPGのボスキャラみたいなポーズを取り、堂々と名乗った。
「ワタシは闇魔法少女、ブラックメシア。この世界に静寂をもたらすもの」
いつの間にか漆黒のオーラ的なもので夜空みたいな背景を作って三日月を浮かばせている。まるで恥ずかしげもなく自己演出までするなんて。
「闇魔法少女、ブラックメシア…!こいつただものじゃないよ、尾崎さん…!」
あたしはゴクリとつばを飲み込み、尾崎さんは恥ずかしそうに顔を両手で覆い、小声で「お姉ちゃん…」とつぶやている。身内のこの姿、見ていられないのだろう。
もしもあたしに姉がいて、友だちの前でブラックメシアと名乗りだしたらこんな反応になるだろう。尾崎さんには同情を禁じ得ない。
でもそれはそれ、これはこれ。ブラックメシアは他人の姉だから、あたしにはいくらでも萌えられる。しかも顔が尾崎さんを冷たくした感じの無表情系美少女だし、姉妹でセット推しできる。
黒い救世主。なんてこったい、闇の魔法少女で、さらに名前がブラックメシアなんて、最高なお姉ちゃんじゃないか。
「フフッ。ワタシのスゴみが理解できるなんて、見どころがあるわね。ツーサイドアップガール」
「な、なんだと!?あたしの髪型をひと目見てツインテールじゃなくてツーサイドアップと見抜くなんて、なんたる慧眼!みんなツインテールって言うのに!」
ちなみにツインテールは両サイドの髪を全部結うので首周りがスッキリ見えるのが特徴。一方あたしのツーサイドアップは両サイドの髪を少しずつ結って残りは後ろに流すので、ツインテールとロングヘアのいいとこ取りみたいになるのが特徴。
どっちも好きでたまにツインテールにすることもあるけど、あたしはツーサイドアップの方が気に入っている。なぜなら前に尾崎さんがそっちのツインテールの方がかわいいって言ってくれたから。
「あっ、その髪型ツインテールじゃなかったんですね…。言ってくれればよかったのに…」
尾崎さんが変なところで落ち込んで、がっくり肩を落としている。
「まあまあ尾崎さん、ツーサイドアップもツインテールの一種みたいなもんだし間違いじゃないよ」
たぶん。
「気を遣わないでください…。どうせ私なんて、無知で無力で無価値な魔法少女なんです…」
「な、なに言ってるの尾崎さん。なんでそんな垂直落下で落ち込んでるの」
「私なんて友だちできないし、できても魔法少女やBLといった特殊な繋がりがあってやっとできた友だちですし、きっと脆く儚いんです。私が魔法少女じゃなくなったり、BLを卒業したりしたら友だちじゃなくなるんです。しょせん私は一人になる定めなんです。ああ、それならばかくなる上は」
手近に転がっていたマイクを拾い上げて、なぜか喉元に押し当てている。
「人生の絶頂であるここで喉をかっさばいて儚くなるのが、一番の幸福では…」
「尾崎さん落ち着いて!マイクじゃ喉をかっさばけないよ!」
「止めないでください寺島さん!どうせ私なんかマイクの使い方すら知らない女なんです!初カラオケだから!高二にもなって初カラオケだから!」
「大事なことでもないのに二回も言わないでよ」
「酷い寺島さん!私にとっては大事なことです!コンプレックスだったのに!もういい、死んでやる!」
「ほんとにどうしちゃったの尾崎さん!?」
「ククク…」
必死になって尾崎さんの手からマイクを奪おうともがいていると、ブラックメシアの低い笑い声が部屋に響いた。よほど注目を集めたかったのか、わざわざマイクを使って。
ちょっとハウリングしたのに眉をひそめてトントンってしている。
「あー、あー」
試しに声を出して再びハウらないか試している。やっちゃうよね。
「効いているようね。アタシの病み魔法、ブルーナイーヴが」
エコーのかかった声で勝ち誇るブラックメシアはなんとも気持ちよさそうだった。




