6.僕と猫と月と妄想
「ど、どうしよう…」
僕は悩んでいる。
かれこれ10分くらい。
猫を抱きながら。
建物自体が、新しく建てられたばかりなのだろうか。階段も廊下も鉄錆一つないアパートの一画で、僕はドアを睨みつけている。住民のフリをして玄関まで侵入してしまったはいいものの、回れ右をしたい欲求と戦っているからだ。
これで、インターホンを押して刺青のお兄ちゃんなんて出てきた暁には、僕は間違いなく押したことを後悔するだろう。
でも、そのお兄ちゃんが大の猫好きで、この毛艶の良い猫ちゃんが見つからずに枕を濡らす夜を過ごしている可能性もある。
ソファに寝転ぶお兄ちゃん。テレビをつけて酒缶を開ける。ふと、何気なく、いつものように猫を撫でようとして、手は空を切る。目線の先に、望んだ姿はない。
ルナ…どこにいっちゃったんだ…。いつも、俺とテレビを見てくれるのはお前だけだったのに。
お前がいないこんな世界なんか…
「…………ダメだ!!!!」
僕は、勢いのまま、えいっとボタンを押す。
まだ見ぬ刺青のお兄ちゃんの為に…!
「ピーンポーン」
廊下に間抜けなチャイムが鳴り響く。
僕のバクバクな心臓とは対照的に、腕の中のルナはあくびをしている。呑気なヤツだ。
永遠とも思える数秒の後、
遠くからとたとたと走ってくる音が聞こえる。
どこかで聞いたような。思い出せない。
「…ガチャ。」
………ドアが開く!




