5.僕と猫と月と首輪
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
秋の冷たい風に起こされた僕は、くしゃみを一つしてから慌ててスマホを取り出す。
スマホの液晶には(相変わらず通知は来ていなかったが)先程より少し進んだ時間が表示されていて。
寒空で日を跨がなかった事を幸いと思うか、寒空で風邪ひきそうな事実を悔やむべきか。なんにしろ早く家に帰らないと…と、僕はベンチから立ち上がった。
否。立ちあがろうとした。
「ニャア!」
目の前をでっかいナニカが横切ったせいで、僕はふらついてベンチに尻餅をつく羽目になる。
そいつは、僕の前を通ってから少し先で立ち止まると「ブニャァ」。また、太々しく鳴いた。
どうやら黒猫、しかも血統の良さそうな毛並みと赤い首輪をした飼い猫のようだった。月の下の黄色い瞳が爛々と僕を見つめている。
「きみ、なんでこんな所に…ていうか、飼われてるならこんな時間にお家にいないと心配されるんじゃ…」
僕が前傾姿勢になって「おいで」と呼ぶと、猫は承知したとばかりに擦り寄ってきた。
僕は犬派だが、意外にかわいい。
モフモフとして綿毛みたいな触り心地に、愛くるしい瞳が僕を捉える。猫派になりそう。
会社の辛さも忘れてしまいそうな…極上の毛並みだ。片耳に切れ目があり、「三日月みたいだな」なんて思いながらモフを堪能させてもらっていると、黒猫はもう一声「ニャア!」と鳴いた。
…かわいい。僕はお礼にと、カバンから水筒を取り出すと蓋を水受けにして目の前に置いてやる。とぽぽと注がれる水を眺めてから、ヤツは徐に近づき…そして、ものすごい勢いで舐め始めた。
「喉、かわいてたんだなぁ…やっぱりお家帰ったほうがいいんじゃないの?」
話しかけると、こちらを向いて、こてんっと首を傾げてくる。水がついた鼻をひと舐め。
…僕は今日から猫派になろうと決めた。
ここからは、僕が水を飲む猫をまじまじ見つめるだけの『絶対領域(幸せ空間)』が展開されるのだが…割愛。
そして、まじまじと見ていたお陰で首輪の一部が微かに光っていることに気づく。
すっかり警戒を解いた猫を抱きながら確認すると、
「ルナ…住所、東京都…」
どうやら首輪に名前と住所が刻印されていたらしい。ルナちゃんっていうのか。三日月だけに。
とりあえず書いてあった住所を調べてみる。
G◯◯gleマップ君はすごい有能で、一瞬で場所が表示…
「いや、すぐそこじゃーん」
公園に1人。僕のツッコミが寒空に響き渡った。




