フランス南部マルセイユ近郊ミラマ陸軍基地
大統領官邸の命令を受けたフランス共和国陸軍によって、短距離弾道ミサイル〈プリュトン〉を搭載した2台の自走起立発射機が出動していた。2台目は予備であり、1台目が短距離弾道ミサイルの発射に問題が発生した場合に使用されることになっていた。自走起立発射機は、1台につき1発の核弾頭ミサイルを搭載しており、10キロトンまたは25キロトン相当のどちらかの核兵器を搭載している。
短距離弾道ミサイル〈プリュトン〉は、もともと敵対国へ警告のために投入される核戦力としての運用が想定され、攻撃を仕掛けた場合にどのような惨事が待ち受けているのかを知らしめ、攻撃を仕掛ける前の段階で敵対国に行動を思いとどめさせるためのものである。このため射程は短く、せいぜい隣国に飛ばすのが限界であった。
短距離弾道ミサイルの管制室では、スピーカーから緊急連絡「ピーピーピー」という音素が発せられた。音に続いてスピーカーから、パスコードを含んだメッセージが受信され、2人の士官が、受信したメッセージを一字一句逃さずに書き取った。その後に、お互いに見比べて書き取ったメッセージが正しいか確認すると、次に2人の士官が自分しか知らないパスコードをそれぞれ入力して引き出しを開けた。
引き出しの中に入っているのは7枚のカードである。
カードにはパスコードが書かれており、このパスコードと先に無線で受信したメッセージに含まれていたコードが一致すれば、短距離弾道ミサイルの発射指令が合法的に出されたということが確認できる。
指令を確認すると、すぐに手順通りに発射を進めた。発射手順に従い、「3、2、1……カギを回せ」で2人同時にカギを差し込み回転させ、その状態を5秒間保持する。
最後は、ダイヤル式カギでミサイル解除コードを入力すればミサイル発射の準備が整う。
すると「LAUNCH ENABLE」という緑のランプが点灯し、さらに「BATTERIES ACTIVATED」、「APS」と次々とランプが点灯し、ミサイルの発射準備が完了することになる。ここまでくると発射を解除する方法はない。
短距離弾道ミサイル〈プリュトン〉が発射されると「LIFT-OFF」というランプが点灯し、大量の煙と大音量の音を発しながらが、ルーアン上空に向かって突進していった。この後にできることは祈ることだけである。
奇しくも、爆心地となるルーアンは、百年戦争の救世主として知られる聖女ジャンヌ・ダルクが火刑に処された地であった。




