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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第八章 ルーアンにおける戦い
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フランス西部ノルマンディー地域圏ルーアン

 防衛計画の第二段階の目的は、ドラゴンやヴイーヴルの群れの敵性来攻性生物をパリに向かわせないために、北方のノルマンディー地域研圏に誘引するのが目的である。

 アミアンの街において敵性来攻性生物と接敵後、ル・アーヴルの港湾施設から上陸した部隊は、攻撃しては後退するという行動を繰り返し、多くの損害を出しながらも、ルーアンの西10KMまで敵性来攻性生物を誘引することに成功していた。

 ここに至って、敵性来攻性生物を包囲殲滅するべく、ルーアンの北方に整列した砲兵部隊が、先制攻撃を開始した。攻撃は2段とし、まず多連装ロケット弾を含む野砲によるロングレンジ斉射で一方的な先制奇襲を実施する。ロケット弾は遠くからでもロケット噴射が軌跡として見えるため、ドラゴンを発射位置へおびき寄せる効果があると考えられた。

 ドラゴンの誘引が成功したことを確認できると。次の段階となる。曳光弾による直接射撃で、包囲の罠の中へ誘い込むのである。曳光弾は発光体を内蔵した特殊な弾丸であり、飛んでいく間に発光することで軌跡がわかるようになっている。もともとは 射手に弾道を示し、軌跡を知ることで射撃中に方向を修正するためのものであるが、ドラゴンの敵意をこちらに向けさせるため、あえて使用するのである。

 ルーアンがあるノルマンディー地域圏は都市近郊にありがちな住宅街であったが、今やそれは見かけだけであった。敵性来攻生物の多種多様な生き物が住宅街に潜み、敵を狙って物陰に身を潜めていた。ルーアンは、生態系的にはジャングルと化し、ゲリラ的に多国籍軍の兵士が襲われる事態が発生していた。その数が次第に増え始めると、ドラゴンとの決戦前からルーアン一帯に潜む敵性来攻生物の掃討に労力を割かなければならなくなっていた。

 戦闘は戦いのインフレーションとも言うべき状態となっていた。ワーテルローラインの戦いの結果から、導入されたホローポイント弾は、確実に火力アップに貢献していたが、さらなる血の臭いに敵も味方も極限まで興奮が煽られ、戦いはさらに熾烈を極めることとなった。1体をワンショットで倒せたとしても、敵は集団で襲ってくるのである。目の前の敵をすべて倒せなければ、その後に起きることは明らかであった。それは地獄絵図を地獄絵図で塗りなおすという救いがたい状況に陥った。

 問題はそれだけではなかった。ルーアン一帯に真正粘菌ルシファーが広がっており、敵性来攻生物が殺戮したあちらこちらの死体の内部で成長し、苗床が生まれつつあった。さらに苗床どうしをつなぐように菌糸が伸び、大地を覆い尽くそうとしていた。

 これは皮肉にも、ある意味では作戦が成功し、敵の誘引に成功していることにほかならない。もっとも、夜のルシファー感染者からの攻撃は、想定外であるが……。多国籍軍はドラゴンを包囲するはずであったが、実際には不気味なルシファー感染者に多国籍軍が包囲されていると言ったほうが実情にあっていた。

 とある兵士が皮膚に異常を覚えていた。異常を感じるその部位の肉が破壊されて潰瘍が生じていた。気が付かず放置していたために潰瘍は大きくなり、他の細菌が繁殖していたため悪臭を放っていた。その兵士は自分がルシファーに感染していたことに始めて気づいた。

 兵士は不思議にも死の恐怖を感じなかった。むしろ、頭がすっきりして気分が爽快であった。そこで不思議なことに気づいた。振り向かなくても360度の全方向が見えているのである。

 目がどうなっているのか不思議に思って、腕を顔に近づけた時、異変に気づいた。自分の頭がないのである。とっくに死んでいたのである。

 ルシファーに感染し、人間としてとっくに死んでいたのか? それともヴイーヴルの顎で頭をかみ砕かれて死んだのか? どちらであるか、わからなくなっていた。その兵士にはそんなことを考えることさえできなくなっていた。 

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