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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第六章 ダンケルクの夜
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フランス北部オー=ド=フランス地域圏ブレ=デューン

 瓦礫と化した街は、焼け跡の残り火の熱が残り、パチパチと建物が焼ける音や、建物が崩れる音が響いていた。それ以外は、妙に静まりかえっていた。

 夜になると、火災から逃げるように小動物が街から去っていくところを見かけることがあった。セリア・ケイもネズミの群れを見かけたが、それは自分たち避難民が向かうダンケルクの方向であったことに、単なる偶然なのかもしれないが、えも言われぬ不安を感じた。その思いはネズミの鳴き声と明らかに違う「シゥーッ、シゥーッ」という聞き慣れない唸り声が聞こえて来たことで、さらに強い違和感になっていった。ところがすぐに聞こえなくなってしまったために、怪我人のことで頭がいっぱいであった彼女は、他の避難民たちと同様に、頭の中から不吉な予兆はすぐに忘れ去ってしまった。

 お互いに励ましあいながら、一晩中歩き続けると、行楽地として有名なブレ=デューンに到連した。目的地のダンケルクから12.9KMの地点であり、ダンケルク港まで目と鼻のさきである。ブレ=デューンの砂丘には、破壊された対空陣地があったが、兵隊はドラゴンのブレスで全滅したようであった。焼かれたままの死体がそのまま残され、真に生き地獄同然の光景であった。

 海岸に出れば避難民を収容している船団が見えるに違いない。小さな男の子が重症であることを船団に伝えることができれば、男の子は助かるかもしれない。そんな意見が出ると、避難民たちは、わざわざ回り道をして海岸に向かうことにした。

 無人の観光案内所を通り過ぎると、目の前に北海が飛び込んできた。周囲は暗闇に閉ざされていて、まだ海上には何も見えなかったが、海岸には船の残骸などが漂着し、まるで台風一過で見られるような大量の漂流物が流れ着いたようなありさまであった。イギリス海峡を横断する避難民を乗せた船団は、ドラゴンの格好の攻撃目標となっていたのである。それらの船の残骸であった。

 自分たちを元気づけるつもりで海岸に出たが、逆に間に合わなかったのではないかと不安になってしまった。この予想外の事態にさすがに精魂力尽き、皆がその場に座り込んでしまった。

 明け方が近づくにつれて次第に薄明りになると、周囲がうっすらと見えるようになり、海面上には霧が立ち込めていることがわかった。霧は風によって流されつつあったが、海上一帯を覆っているようであった。だから、何も見えていないのかもしれない。避難民たちは最後の希望を託して、再び歩き始めた。

 海岸沿いに移動しながらも、薄くなった霧の隙間に船の姿を求めていると、やっとのことで一隻の船を見つけることができた。たった一隻? 船団は? 不安ながらも、さらに注視すると、霧の合間に他の船も見えるようになってきた。その数は、次第に多くなり、大小さまざまな船が入り混じって、ダンケルクの海を覆うように無数の船が海上に浮かんでいた。

 間に合ったのである。海上に多くの船が集まっているのが見えた。もはや安全地帯に到着したのと同然に思えた。このまま船に乗ることができれば、ドラゴンのいないグレートブリテン島へ逃げきれることができるはずである。


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