アムステルダム
オランダでは埋葬場所となる墓地が不足しているという事情があり、墓地は期間限定で貸し出されるという事情がある。いずれ他の場所に移されることになるため、日本と同様にオランダでも火葬が主流となっている。通常は他界した5日後に葬儀をすることが多く、その間に招待状を送り、参列者を募るのである。しかしながら、セリア・ケイは、たったひとりで妹の葬儀を進めてしまっていた。
両親の名前が刻まれた墓のとなりに妹の名前が追加され、彼女はひとりぼっちになってしまった。心の中にぽっかりと空いた虚無感に溺れ、考えることはサラのことばかりであった。やるせない気持ちに何をするのも億劫となり、家族にもたれかかる様にして背中を墓にあずけ、座り込んでしまった。もちろん、墓の硬さが背中に痛く感じられるだけであった。
ここに立ち並ぶ墓は、生者のためのものではない。死者のためのものであり、肉体が消滅した後も残り続けるのは、単なる生きた証でしかない。両親も、妹も、今は肉体が消滅し、単なる生きた証でしかない墓に姿を変えてしまったことが、悔しいくらいに悲しかった。
彼女にとって、妹は大切な宝物であった。成長していくのが、とても嬉しかった。にもかかわらず、今の彼女に残されたのは、サラの写真と思い出の日々だけである。サラの写真を愛おしそうに触れていた。すでに存在しない故人の肉体に触れ、言葉を交わすかのように――。その触れあいにより、すでに存在しない家族の肉体に触れることができるような気がした。家族全員が揃っていた昔が懐かしかった。家族の肉体が消滅した後も、いっしょにいたいという気持ちにもかかわらず、自分だけがこちらにいるという例えようのない虚無感が何度も襲ってきていた。彼女は心の中に大きく空いた虚無感に疲れ果ててしまった。
「どうしてこんなことになってしまったの?」
うなだれて、足元をみながら自問自答していた。一粒の雫が落ちて地面に染みをつくると、さらに幾つもの染みが続いた。
「どうしてこんなことになってしまったの?」
虚しい独り言が再び絞り出された。
妹が出来たことを母親に教えられた時、天にものぼるくらい最高にうれしかったことを子供心に覚えていた。小さく、可愛く、とても元気のいい赤ちゃんだった。緊張と喜びの中で、妹を初めて抱いた時の感触を昨日のように覚えていた。でも、すぐに大声で泣きだして、どうしていいのかわからなくて困らせるれたことも、今でもとても懐かしく思い出された。それでも、姉である自分の顔を見て、とても嬉しそうに笑っていたものである。大きな瞳に自分が写っていると、それが時々小さな鏡のようにも思えた。それからの人生は、いつも妹といっしょで、妹の成長がとてもうれしかった。
それが、先日のベームスター干拓地ドラゴン事件の日に、いともたやすく引き裂かれ、二度と戻れない旅立ちによって永遠に別れることになってしまった。あの笑顔もない、あの愛らしいおしゃべりもない、もうこの世には神も何もないと、寂しくて涙が止まらなかった。何をすればよいのかわからず、ただただ毎日泣き続けていた。一目会いたくて、あの声がもう一度聞きたくて、毎日泣き続けていた。
「もう、嫌だな、人が死ぬのを見たくない」
ケイは家族にお別れを告げると、妹の生きた証から立ち去った。




