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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第三章 アムステルダム
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オランダ北部マイケル湖

 ドラゴンの目撃報告は、瞬く間にオランダ全域に広がっていった。首都アムステルダム上空にも出現し、どこかに飛び去った巨大生物は、ワッデン海と北海に囲まれている無人島々のどこか、あるいは、ワッデン海に浮かぶテルスヘリング島、そして北ブラバント州のマリアペールに拡がる森林のどこかに潜んでいると思われた。あるいは、オランダに張りめぐらされた運河やマルケル湖やエイセル湖などの水中に潜んでいる可能性も考えられた。

 目撃報告から、最低でも30から40程度の巨大な爬虫類のような個体が出現したと判断された。本当に存在するのであれば、さらに群れを成しているのであれば、危険と考えるのが普通であった。オランダ政府は安全対策を講じないまま、万一に死傷者が出る事態を恐れた。怠慢と非難されかねないからである。したがって、その予想しうる脅威に応じて殲滅と捕獲の両作戦が検討され、オランダの軍隊である陸軍、空軍、さらには海軍がドラゴン探しに動員された。

 いずれにしても、軍は面目をかけて、大規模なローラー作戦をオランダ北部の陸海空で開始し、マルケル湖では海軍のホラント級掃海艇による湖上監視とソーナー探査が開始されることになった。

 とはいえ、いったいどんな生き物を探せば良いのか誰もわかっていなかった。目撃報告では一様に姿がドラゴンとなっており、そんなことを言われても、目撃者を除けば誰も本物のドラゴンなど見たことがないのである。おそらく外見や生態は爬虫類に近い大型の生物と思われた。爬虫類であるならば、水中に潜んでいた場合、30から40程度の個体数ともなれば、呼吸のために頻繁に湖面に顔を出すはずである。そうであれば、遮蔽物の無い湖上の監視だけでも発見することもできるはずである。

 さらに直接的に水中を探査する方法として、水中に向けて超音波を発射し、その反射波をとらえるソーナーが使用された。漁船などの魚群探知機は船の真下方向だけの探知しかできないが、海軍のソーナーは艇の周囲方向の物体を探すことができる。ソーナーを搭載したホラント級掃海艇が、まんべんなくマルケル湖上を走査することで、水中にドラゴンがいれば、その姿をレーダー映像のようにとらえることができるはずである。

 探索を開始したホラント級掃海艇のソーナーの水平表示モード画面には、画面周辺に大きな太い円が表示されていた。探知角と深度の関係から、海底が反応しているに過ぎなく問題ではなかった。自艇の前方、12時から1時方向に大きく反応しているが、小さな影が重なり合うように映し出されているため、魚群の通常の反応であり、これも問題ではなかった。このような単調になりがちなソーナー探査が続くのみで、時間だけが流れていった。

 ホラント級掃海艇の水兵の誰もが、ドラゴンはマルケル湖には潜んでいないに違いないと思い始めていた。予定していた一日分の探査域の終わりが近づき、そろそろ引き上げようと準備を始めていると、前方から見慣れた魚群の反応が現れるさまが、ソーナーによって映し出された。その魚群は次第に膨れ上がり、横にも広がり、今までとは明らかにに桁違いの大きな反応となって、艇の下を通り抜けようとしていた。他の魚群も次々と現れ、狂ったような速さで、やはり艇の下を通り抜けようとしていた。魚がなにかから逃げようとしている。誰しもが、そのように思った。

 異変は水上でも現れ始めた。空気がざわついているとでもいうのであろうか、そんな感触を受けた。それを裏付けるかのように、湖上で翼を休めていた海鳥も、けたたましく鳴き始めると、この場から逃れようとして一斉に飛び立ったのである。

 ソーナーの画面に、水中に巨大ななにかが存在することをはっきりととらえた。水兵が急いで湖底探査用の水中カメラを潜らせるが、湖底にて巨大な生物と思われる一部を映し出した直後に、水中カメラは破壊されてしまった。

 ソーナーの画面から巨大な反応が消えると、マルケル湖は再び静けさを取り戻すことができたが、水兵たちに未知なるものへの恐怖を植え付けていった。


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