オランダ王国首相官邸
世界の関心は、全世界を覆う厚い雲とともに発生した宇宙インフラ喪失問題に集まっていた。GPS衛星、通信衛星、さらに気象衛星などの軌道上に存在するありとあらゆる衛星との通信が突然に途絶えたことは、人類の活動基盤に非常に大きな影を落としていた。
この世界的な異変の原因としては、各段に強い太陽フレアが発生し、その巨大な太陽風に耐えられなかった人工衛星が大量に消失するに至ったという説がもっとも有力とされた。全世界が厚い雲で覆われている現状では宇宙の観測方法が制限され、明確に否定されることもなかった。さらに著名な研究所によるコンピュータシュミレーションにより、可能性としてはありえることが示されたために、その説はお墨付きを得る結果となり、勝手に一人歩きを始めることとなった。挙句の果てには、巨大な太陽風の影響は最大10年間続くという尾ひれ羽ひれまで付け加えられた。
しかしながら、そのような各段に強い太陽フレアにもかかわらず、厚い雲に覆われる前にその前兆を観測していた天文台は全世界にひとつもなかった。さらに、地球に降り注ぐ宇宙放射線すら観測されなくなった事実が判明すると、誰にも何が起きているのか説明ができなくなってしまった。とにかく奇妙なことが地球全体を覆っているとしか言いようがなかった。
このような情勢の中、ハーグにあるオランダ王国首相官邸はベームスター干拓地で発生した事故に関して公式発表を行った。一連の宇宙インフラ喪失問題の影響で、終末高高度防衛ミサイル発射管制システムに異常が発生し、想定外の情報によって誤ったコマンドが実行されたものであるとされた。現実問題として終末高高度防衛ミサイル1発が飛んで行ったのであるから、オランダの政府や国防省は責任の回避に躍起となっていたが、そんな心配は無用であった。ドラゴンの目撃映像が各種のメディアを通して国内はもとより世界へ拡散するにつれて、徐々に世界の関心がこちらに集まったからである。
本来は終末高高度防衛ミサイル爆発事故であるはずなのに、コティングリー妖精事件に次ぐ、ベームスター干拓地ドラゴン事件の方が全世界に知られるようになっていったのである。しかしながら、フェアリーリングから紛れ込み、フェアリーが身を挺して排除しようとした危険な生き物の存在を認知しているものは誰もいなかった。




