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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第二章 フェアリーリング
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ベームスター干拓地フェアリーリング周辺

 フェアリーの不思議な力によって、棒立ちという不自然な格好で飛来した終末高高度防衛ミサイルは、カラスの大群に接近するとただちに噴射を開始し、威嚇を始めた。ミサイルの噴射は、高度があがらないようになにかの力によって強制的に低空に押しとどめられて、カラスの群れをとらえていた。立場が逆転したカラスの群れは一斉に逃げ出すこととなった。

 そこまではよかった。次に噴射が向けられたその生き物は、体型的に素早く逃げることができないために、逃げることではなく耐久性を高めて生き延びることを選択した。

 その生き物は地球でいうところの菌体の生き物であり、危機に対して切り札をもっていた。自己の生命の危機に陥った時、芽胞により極めて耐久性の高い細胞構造を形成することができるのである。栄養や温度などの環境が悪い状態に置かれたり、毒性を示す化合物と接触したりすると、細胞内部に芽胞を形成する。このとき、自身の遺伝子が複製されてその片方は芽胞の中に分配される。芽胞は極めて高い耐久性を持っており、さらに環境が悪化して通常の細胞が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能なのである。

 燃料が底を尽いて噴射が止まるのが先か、それとも、芽胞の外皮を割って内部の遺伝子を破壊するのが先か、フェアリーとその生物のどちらも引けない戦いとなった。

 終末高高度防衛ミサイルの燃料は約10分~20分であり、この戦いには十分に勝機があるように思えた。そう勝てるはずであった。芽胞の外皮は薄い、噴射による燃焼温度3000度の熱により外皮の外側は、既に致死的な温度に達していた。勝利は見え始めていた。芽胞の内部にも高温の熱が伝わろうとしていた。このまま芽胞の内部の組織さえも高熱により焼き尽くすかに見えた。

 あともう少しで焼き殺せるところまで追い込んだ時、ミサイルが突然に破裂した。あまりの突然の出来事に、ミサイルはフェアリーの制御を離れ、回転しながら空中分解を始め、部品を四方にぶちまけてしまった。

 その生き物の芽胞の外皮は真っ赤になりながらも、かろうじて熱に耐えていた。中の遺伝子を守り切っていたのである。

 菌体の通常の状態は、栄養型、増殖型と呼ばれることに対して、芽胞の状態は耐久型、休眠型と呼ばれる。芽胞の状態は、新たに分裂することはできず、その代謝も限られている。しかし、生き残った芽胞は、再びその細菌の増殖に適した環境に置かれると、芽胞は発芽して、通常の増殖・代謝機能を有する菌体に戻ることになる。これは、その生き物が再び危険な状態に戻ることを意味した。

 不幸はそれだけに収まらなかった。終末高高度防衛ミサイルのフライト終了システムによる自爆は、破片を飛び散らせ、その破片のひとつがサラ・ケイに激突し、強打していた。その衝撃は小さな子どもにとって致命傷であり、彼女はその場でぐったりと倒れた。


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