アムステルダム防衛線南西部要塞
アムステルダム防衛線の南西部要塞に配置された終末高高度防衛ミサイルの地上システムは、自走またはトレーラーによる移動式であり、10連装ミサイル発射機、Xバンドのフェーズドアレイレーダー(AN/TPY-2)、C4Iシステムからなる。Xバンドレーダーは1,000km以上の探知距離を持ち、飛来する弾道ミサイルの追跡・迎撃ミサイルの中間誘導も合わせて行なうことができる。
終末高高度防衛ミサイルのC4Iシステムは、射撃管制システムであり、扱われる情報は武器管制精度のものであり、個々の交戦担当者によって使用される。
弾道ミサイル、航空攻撃、ゲリラ・特殊部隊攻撃、大規模テロの計4種類の緊急情報が、オランダ王国の国防省から人工衛星を利用して送信され、配備された迎撃部隊などが専用のC4I受信機で受信する。情報を受信すると、警報音にて射撃管制官に緊急事態を通知するとともに、迎撃に必要な諸元情報が自動的にダウンロードされる。フェーズドアレイレーダーは目標の追尾を開始し、終末高高度防衛ミサイルを適切な迎撃ポイントに向けて発射する。
終末高高度防衛ミサイルの残弾数は厳密に管理され、ミサイルを格納する発射機は毎日点検されている。本来の発射時には必ず規定の手順を踏まなければならないし、射撃管制官は何度も何度も訓練で手順を繰り返してきた。しかし、今日の出来事は全く理解を超えていた。10連装ミサイル発射機の発射孔が開いたままになっているのが発見されたのである。発射命令を受けていないにもかかわらず、10連装ミサイル発射機から1発のミサイルが消えていたのである。
有事時に備えて常駐している射撃管制官は、理解を超えた出来事に唖然とするしかなかった。手元の射撃管制装置は、何事もなかったかのように、いつもの見慣れた平時の画面表示のままであった。
ミサイル発射機には1発が足りない。監視カメラに写っていたのは、終末高高度防衛ミサイルは噴射していないにもかかわらず、勝手に飛んで行ってしまったのである。それは、まるで釣られた魚のように、天の神様が終末高高度防衛ミサイルを天から引っ張りあげてしまったかのように、音もなく滑るように飛び出していったのである。遠ざかるにつれて空の中の小さな点となっていく終末高高度防衛ミサイルは、まさしく実弾なのである。
射撃管制官はただちに国防省に緊急事態を報告するとともに、終末高高度防衛ミサイルを追跡しようとしたが、フェーズドアレイレーダーに反応が無かった。残されている映像から予測されることは、高度が低すぎて所在がつかめないと思われた。
国防省にとっては、にわかに信じがたい報告であったが、航空管制レーダーにベームスター干拓地の低空を低速で未確認物体が飛行している報告が加わると、原因はともかく終末高高度防衛ミサイルが制御を失ったまま暴走していると結論されることとなった。人が住む地域への墜落を防ぐため、国防省はフライト終了システムを作動させる決定をくだした。それは終末高高度防衛ミサイルの自己破壊システム、つまり自爆システムのことである。




