第四話 ニューファンドランドが拾ったもの
朝の練習が終わって、水から上がろうとしたとき、プールの底で何かが光った。
ちいさな光だった。でも確かに、底のほうでちかちかしていた。
ニューファンドランドは一度もぐって、大きな手でさぐった。指に、何かが当たった。
ニューファンドランドは、カナダ生まれの超大型犬だ。体重が七十キログラム近くになることもある。黒いどっしりした毛並みで、ひとめ見ると大きくて怖そうに見える。でも性格は犬の丘でいちばん穏やかかもしれない。水かきまでついていて泳ぎがとても得意で、溺れた相手を助ける水難救助犬として昔から活躍してきた。困ったことがあるとみんながなんとなくここへ来るのは、たぶんそういう理由だ。
引き上げてみると、丸くてつるつるした小さな石だった。
手のひらより小さい。表面がなめらかで、光の角度によって虹色に見える。
「……きれいだな」
だれもいないプールの端で、ひとりごとを言った。
だれのものかわからない。どこから来たのかも。落とし物ボックスは広場の向こう側にある。広場に入るのはおきてに引っかかりそうだった。とりあえず、においの図書館のそばに置いておいた。
それだけのことだった。
夕方、においの図書館を点検していたバセットハウンドが、石を見つけた。
バセットハウンドは、フランス生まれの中型犬だ。地面すれすれまで垂れた長い耳と、短い足が特徴だ。のんびりしていてよく昼寝をしているが、鼻だけは別格で、においで地図を描くことができる。嬉しいときより悲しいときのほうが、何となく気づくことが多い。本人は気づいていない。
一かぎぎした。
「……海のにおいがする」
ふんふん、もう一度。
「それから、深いところの水のにおい。それから……知らないにおいだ。ここじゃない、どこか遠くの」
ここじゃないどこか。
それが何を意味するのか、バセットハウンドにはわからなかった。ただ、そういうにおいがした。石をそっと戻して、においの図書館の地図に小さく書き足した。
「プールの底より。海のにおいの石。どこから来たかは不明」
それからゆっくりした足取りで帰った。
その夜、ニューファンドランドはプールの端に耳を当ててみた。
何も聞こえない。
でも、水がすこし動いている気がした。気のせいかもしれない。水のにおいは、ここのプールとすこし違う気がした。潮のにおいが、うっすらする。
「……どこにつながってるんだろう」
大きな空を見上げた。星が出始めていた。
答えはなかった。でも、なんとなく、悪い気はしなかった。




