第十話 みんなで落とし物を探した日 語り手:シンガプーラ
落とし物ボックスに、わけのわからないものが入っていた。
広場の端に、木でできた小さな箱がある。落とし物を入れておく箱で、「これ誰の?」と刻んだ板が貼ってある。ネザーランドドワーフが設置した。
その箱を開けたら、中にいくつかものが入っていた。
石が一個。羽が一本。草の束。貝殻。それから、読めない字が刻まれた小さな石の板。
「だれの?」
おれは広場にいた子たちに聞いて回った。
ホーランドロップ、レックス。ヨウム、コールダック。チンパンジー。ボーダーコリー、グレイハウンド。ベンガル。
みんなに見せたが、「自分のじゃない」と言う。
「石はどう見てもふつうの石だ」とグレイハウンドが言った。
「どこにでもある石だ」とボーダーコリーが言った。
「羽はどの種類だ」とヨウムが長々と説明を始めた。コールダックが「わかんなかった」と要約した。
「草の束はナキウサギっぽい」とホーランドロップが言った。でもナキウサギに見せたら「自分のじゃない」と言った。
「貝殻は……」とチンパンジーが貝殻をしげしげと見た。「川か海の貝だ。ここの近くで採れるものじゃない」
「どこから?」
「わからない」
「石の板の字、読める子いる?」とおれは言った。
全員が石の板を見た。だれも読めなかった。
「古い字だ」とヨウムが言った。「あるいは違う種族の文字か」
「どこから来たんだ」
「……わからない」
少しの間、みんなが黙った。
「何かから来たものだ」とボーダーコリーが言った。「ここ以外の場所から」
「ここ以外の場所って」
「わからない。でもここに置かれているということは、だれかが意図的に入れた」
「なんで」
「届けたかったんじゃないか」
全員でもう一度、落とし物ボックスの中身を見た。石、羽、草の束、貝殻、石の板。
そのとき、バセットハウンドがすっと近づいてきた。
貝殻に鼻を近づけた。
ふんふん、と。もう一度。
「……海のにおいがする」
「海?」とレックスが聞いた。
「うん。それから、深いところの水のにおい。それから……知らないにおいだ。ここじゃない、どこか遠くの」
「ここじゃない、どこか遠く」
「うん。でも、嫌なにおいじゃない。穏やかなにおいだ」
バセットハウンドは石の板にも鼻を近づけた。
「……これも同じにおいがする。貝殻と同じ場所から来たものだ」
全員が黙った。
ゆっくり考えた。
「来年の春に、もう一回確認しよう」とレックスが言った。
「なんで春」
「春になると、何かが動き出す気がする。特に根拠はないが」
「それは根拠にならない」とボーダーコリーが言った。
「でも何かが動き出す気がする、っていうのはわかる」とホーランドロップが言った。
「そういうことにしておこう」とおれは言った。
ものは全部、また落とし物ボックスに戻した。
全員がそれぞれ黒板に刻んだ。
ヨウム:「落とし物ボックスに不明なものがあった。詳細は聞きに来ること」
コールダック:「貝殻があった。川か海から来たものかもしれない」
チンパンジー:「読めない字の石の板があった。解読できなかった。来年また試みる」
ボーダーコリー:「何かを届けようとした者がいる。だれなのかはわかっていない」
グレイハウンド:「難しい話の間、昼寝していた。よく眠れた」
ベンガル:「謎は謎のままでいいこともある」
ホーランドロップ:「春になると何かが動き出す気がする」
レックス:「触り心地のいい草の束が入っていた。だれのだろう」
シンガプーラ(わたし):「これを入れた子は、ここのことを知っていたはずだ」
その夜、バセットハウンドは広場の端に立って、もう一度空気をかいだ。
貝殻のにおいは、地面のほうから来ていた気がする。上からではなく、下から。
「……下か」
ひとりごとを言った。
地面の下に、何かがいるのかもしれない。
でもバセットハウンドは急がない。においはまだここにある。いつかわかる。
ゆっくりした足取りで、昼寝の場所へ向かった。




