第九話 バセットハウンドとナキウサギ、においと備蓄 語り手:ナキウサギ
備蓄が、においで見つかった話をしよう。
去年の秋のことだ。備蓄小屋の奥に、腐りかけた草があった。気づいたのは、おれじゃなかった。
その日の夕方、広場のそばを歩いていたら、バセットハウンドがいた。
広場の地面のにおいをかいでいた。
「何のにおい?」とおれは聞いた。
「草のにおいがする。ここから少し北の方向」とバセットハウンドは顔を上げずに言った。「ウサギ草原の方向だな。草が少し腐りかけている」
「え」
「備蓄小屋の草じゃないか。この時期、奥のほうに溜め込んだ草は空気が回りにくくて腐ることがある」
おれは急いでウサギ草原に戻った。
備蓄小屋の奥を確認した。確かに、奥の隅の草束が少し変な色になっていた。まだひどくはないが、そのままにしていたら全体に広がっていた。
急いで出して、空気にさらした。間に合った。
広場へ戻って、バセットハウンドに言った。
「ありがとう。おかげで助かった」
バセットハウンドは耳をゆらした。
「気づいてよかった」
「どのくらい遠くからわかるの」
「今日は風が南から来てたから、ウサギ草原の方向のにおいが流れてきた。ちょうどよかった」
「何キロ先まではわかる?」
「条件によるが……今日みたいな風なら、三キロくらいは」
「三キロ」
「鼻はそういうものだ」
おれはバセットハウンドを見た。垂れた長い耳と、低い体と、丸い目がある。のんびりしていて、よく寝る。
でもこのとき、バセットハウンドの鼻が備蓄小屋を救ったのは本当だ。
「すごいな」
「別に」とバセットハウンドは言った。「においがしたから確認しただけだ。役に立つかどうかはわからなかった」
「役に立った」
「よかった」
バセットハウンドはまた地面のにおいをかぎはじめた。今度は何のにおいをかいでいるのかは知らない。
おれはしばらく、そのそばに座っていた。
「また来てもいいか」とおれは言った。
「広場に?」
「そう。あなたとまた話したい」
バセットハウンドはゆっくり顔を上げた。
「話すというより、においをかいでるだけのことが多いが」
「それでもいい。おれも備蓄の話をするだけかもしれない」
「それでいい」
黒板に、ふたりが刻んだ。
バセットハウンド:「においで草の腐りかけを見つけた。役に立った」
ナキウサギ:「鼻に助けてもらった。ありがたかった」
翌日から、バセットハウンドは広場に来るたびにあたりのにおいを確かめるようになった。
気づいたこと、変わったこと、遠くから届いてくるにおいを、においの図書館に書き加えていく。
広場が、バセットハウンドの「においの図書館の分館」みたいになっていった。




