第八話 スフィンクスとショロイツクインツレ、はじめて話した日 語り手:スフィンクス
エリアが違う。だから、会ったことがなかった。
でも、似ていると思っていた。毛がない、ということが。
広場でひとりでいたとき、ショロイツクインツレが来た。
見たことがある。遠くから見たことが、何度かある。
近くで見ると、肌の色がわたしと少し違う。わたしはしわしわとした感じで、ショロイツクインツレはなめらかだ。でも、毛がないのは同じだ。
ショロイツクインツレは、メキシコ生まれの犬だ。古代アステカ文明の時代から人間とともに生きてきた、歴史ある珍しい犬だ。最大の特徴は、ほとんど毛がないこと。肌がそのまま見えている。体温がとても高く、そばにいるとほんのり温かい。「天然カイロ」と呼ばれることがあるが、本人はちょっと複雑な顔をする。
「スフィンクスか」とショロイツクインツレが言った。
「そう。あなたがショロイツクインツレ」
「そうだ」
ふたりで少し黙った。
「……毛がない」とわたしは言った。
「毛がない」とショロイツクインツレも言った。
「気になる?」
「気になる」
「わたしも気になる」
「どのくらい気になる」
「触られるとき、少しだけ」とわたしは言った。「ふわふわじゃないから、相手がびっくりする。最初だけだけど」
「触られると?」
「おれも同じだ。触るとあったかいから、「あ」という顔をされる」
「「あ」ってどういう「あ」?」
「驚いた「あ」。あったかいとは思っていなかった「あ」。そのあとは「すごい」と言われることが多い」
わたしも同じだった。
「……同じだ」
「おれたちは似てるな」
「会ったことがなかったのに」
「エリアが違うから」
しばらく、ふたりで噴水を見ていた。
「毛がないことを、どう思ってる」とショロイツクインツレが聞いた。
「複雑」とわたしは正直に言った。「他の子のふわふわを見ると、少し羨ましくなる。でも、体温が伝わりやすくて、それはいいことだと言われる」
「おれも複雑だ。冬はきつい。でも、ハスキーと並ぶと、おれが少し暖かくて、あいつが少し涼しくて、ちょうどいいらしい」
「ちょうどいい」
「うん。ふたりにとって、ちょうどいい。それを知ってから、少し楽になった」
わたしはショロイツクインツレを見た。
似てる。でも、違う。毛がないという共通点はあるが、エリアも、体の感じも、冷たいのが好きか暖かいのが好きかも、ちゃんと違う。
「……エリアが違っても、話せるんだな」
「話せた」とショロイツクインツレが言った。
「また来る?」
「来る。ここは来やすい」
「そうだな。どのエリアでもない」
「どのエリアでもない場所が、ちょうどいい」
ふたりで黒板に刻んだ。
スフィンクス:「エリアが違っても、同じ悩みを持つ子がいた」
ショロイツクインツレ:「体温が高いのは、役に立つことがある」




