第六話 嵐の夜、全員が小屋にいた 語り手:ホーランドロップ
雨が来るとは思っていなかった。
昼過ぎまで晴れていた。空が少し暗くなってきたのは夕方で、それからあっという間だった。雨粒が落ちはじめて、あっという間に本降りになった。
わたしは広場にいた。走って小屋に向かった。
広場の端に避難小屋がある。急な雨のときのための場所だ。
小屋に入ると、すでに何匹かいた。
チワワ。バセットハウンド。シャム。スフィンクス。アンゴラ。コザクラインコ。ゲラダヒヒ。
全員、濡れながら走り込んできたらしくて、息を切らしていた。
わたしも入って、扉を閉めた。
雨音が強くなった。
小屋の中に、八匹。
犬が二匹。猫が二匹。ウサギが二匹。トリが一匹。サルが一匹。
最初は、全員が黙っていた。
小屋は狭い。体が触れそうな距離にいろんな種族がいる。どう接すればいいかわからなかった。
雨音だけがしていた。
アンゴラが体を揺らした。毛が揺れた。
「……ふわふわだ」とゲラダヒヒが小声で言った。
アンゴラが振り返った。
「え?」
「あの毛が、ふわふわだと思って」
「触ってみる?」
「……いいのか」
「どうぞ」
ゲラダヒヒがアンゴラの毛に触れた。しばらく黙って触っていた。
「……すごいな」
「よく言われる」
スフィンクスがそれを見ていた。
「わたしには毛がないから、羨ましいような気持ちになった」
「触る?」とアンゴラが言った。
「……いい?」
「いい」
スフィンクスがそっとアンゴラの毛に触れた。
「…………あたたかい」
「毛があると暖かいよね」
「うん。でも、スフィンクスも体が暖かい」とわたしは言った。「毛がない分、体温がそのまま伝わる感じがする」
「……そうかな」
「そうだよ。今、隣にいるとほんのり温かい」
スフィンクスは少し黙った。
「……それ、ありがたい。今日は少し寒い」
チワワが言った。
「おれも寒い。ちっちゃいから寒さに弱い」
「じゃあこっちに来たらいい」とシャムが言った。「わたしたち猫はみんなで固まると暖かい」
「猫と犬が固まっていいのか」
「今日は嵐だから、いい」
チワワは少し考えてから、シャムの隣に移動した。
コザクラインコが言った。
「……おれも、入れる?」
「どうぞ」
コザクラインコがシャムの反対側に来た。
気づいたら、小屋の中で全員がほんの少しずつ近くなっていた。
バセットハウンドがふんふんと鼻を動かした。
「いろんなにおいがする」
「そうだろうな」とゲラダヒヒが言った。「これだけ違う種族がいれば」
「でも、不思議と嫌なにおいじゃない」
「ほんとに?」
「うん。なんか、混ざってる感じがして……悪くない」
雨がまた強くなった。小屋の外で雷が鳴った。
アンゴラの毛が一瞬逆立った。
「大丈夫」とわたしは隣から言った。
「ちょっとびっくりしただけ」
「おれも」とチワワが言った。
「おれも」とコザクラインコが言った。
「おれは平気だ」とゲラダヒヒが言った。
「おれも平気だ」とバセットハウンドが言った。ただ、鼻をひくひくさせていた。
シャムが笑い出した。
「みんな「平気」って言いながら、全員少し縮こまってない?」
「縮こまってない」と全員が言った。
全員、少し縮こまっていた。
それがおかしくて、笑った。全員が笑った。
雨の中の小屋で、犬と猫とウサギとトリとサルが、一緒に笑っていた。
雨がやんだのは、夜になってからだった。
全員が小屋から出た。
地面が濡れていて、星が出ていた。雨上がりの空は澄んでいて、星がいつもより大きく見えた。
「同じ星だ」とスフィンクスが言った。
「え?」
「猫の路地でも、この星を見てた。どこからでも、同じ星が見えるんだな」
だれも何も言わなかった。でも全員が、少しの間、空を見上げていた。
その夜、全員が黒板に刻んだ。
わたし(ホーランドロップ):「嵐の夜に、いろんな子と同じ小屋にいた。暖かかった」
チワワ:「猫のそばにいたら暖かかった。悔しいが本当のことだ」
バセットハウンド:「いろんなにおいが混ざっていた。悪くなかった」
シャム:「みんな縮こまってたくせに「平気」って言ってた。おもしろかった」
スフィンクス:「同じ星が見えた」
アンゴラ:「雷でびっくりした。でもみんなにびっくりしたって言えた」
コザクラインコ:「ひとりじゃなかったから、怖くなかった」
ゲラダヒヒ:「アンゴラの毛はすごかった」
黒板が、その夜初めてのページ送りをした。
書き込みが十人分になったとき、黒板はするりとページがめくれて、木の幹の中にしまわれた。新しい白い黒板が現れた。
翌朝それに気づいたネザーランドドワーフは、ノートに刻んだ。「黒板:1枚目終了。2枚目開始。日付記録」。




