第五話 猫がサルに、真似された 語り手:ノルウェジアン
木の上から見ていた。
広場の中を、チンパンジーが歩き回っている。石畳の模様を見たり、噴水の仕組みを確かめたり、でかい木の根の広がり方を調べたりしている。
わたしも高いところから観察するのは好きだ。
だから降りていった。
チンパンジーは、木の根の一本をのぞきこんでいた。
「何を見てる」とわたしが聞いた。
「根の深さを確かめてる。この木がどこまで根を張っているかが気になって」
「わかるの?」
「地面のやわらかさを触れば、だいたいわかる」
「へえ」
チンパンジーはわたしを見た。
「おまえは木に登るのが得意だろう」
「得意だ」
「根元から見ると、木はどう見える?」
わたしは根元を見た。
「……上に行くほど枝が増えていく。でも根元は一本だ。全部ここから始まってる」
「それが面白い」とチンパンジーが言った。「一本の幹が、こんなに広がる。枝も、根も」
「そうだな」
チンパンジーはわたしの動きを少し見ていた。
それから、同じように木の根をよじよじと登ろうとした。
チンパンジーは器用だから、木登りも得意だ。でもわたしの登り方と少し違う。
「……登り方を真似した」とわたしは言った。
「そうだ。足の使い方が違う。参考にしたかった」
「真似されるのは嫌じゃないが、なんか変な感じがした」
「変な感じ?」
「見られながら真似されると、なんか、じろじろ見られてる気がして」
「それは申し訳なかった」とチンパンジーが言った。「一言言うべきだった。「真似していいか」って」
「……そうだな。一言あれば変な感じはしなかった」
「覚えておく」
チンパンジーはまた木に前足をかけた。
「「真似していいか」」
「どうぞ」
チンパンジーはわたしの登り方をよく見て、同じように足を使った。少しぎこちなかったけど、登れた。
「……なるほど、こうか」
「うまいじゃないか」
「おまえのほうがずっとうまい」
「慣れの差だ」
木の枝から、ふたりで広場を見おろした。
石畳が広がっていて、噴水がある。でかい木の黒板に、だんだん字が増えてきている。
「いい景色だ」とチンパンジーが言った。
「うん」
「猫も木の上が好きか」
「好きだ。ひとりで考えるのに向いてる」
「今日はひとりじゃないが」
「今日は、それでいい」
チンパンジーは少し笑った。
ふたりでしばらく、木の上から広場を見ていた。
同じ高さから、同じ広場を見ている。
「また登っていいか」とチンパンジーが言った。
「どうぞ。ただし一言言ってから」
「わかった」
黒板に、ふたりが刻んだ。
ノルウェジアン:「木の上から見ると、広場は小さく見える。でも、そこにいると広い」
チンパンジー:「真似するときは一言聞く。覚えた」




