表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なかよしの設計図は作成中です。  作者: 鍵しっぽハンター
第五章 サルの森のさわがしい毎日 ―― 独り占めしたい気持ちと、手放す勇気

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/50

第七話 サルの森のものづくり祭り



ものづくり祭りは、チンパンジーが言い出した。


「みんなで何かを作る日を作りたい」


「何を作る?」とカニクイザルが聞いた。


「なんでもいい」


「なんでもいいのか」


「なんでもいい。作りたいものを作ればいい」


「それは祭りじゃなくて、各自が作るだけじゃないか」


「みんなで同じ日に作るから祭りだ」


カニクイザルはしばらく考えた。


「……それでいいか」


「それでいい」


そういうわけで、ものづくり祭りが開かれた。




チンパンジーは、新しい装置を作った。今度は距離と方向を調整できるようにした。三時間かかった。完成した瞬間に、カニクイザルに壊された。


「なんでだ」とチンパンジーが言った。


「割りたかった」とカニクイザルが言った。


「割るのは石だけにしろ」


「これも石でできてる部分がある」


「それ以外の部分が大事だ」


カニクイザルは少し考えた。「……もう一回作れるか」


「作れる」


「じゃあいい」


「よくない」


でもチンパンジーはまた作り始めた。次の試作品だ。


ニホンザルは温泉の周りに石を並べた。より快適に入れるように、縁を整えた。


整えながら、ふと思った。


「入る?」とテングザルに言った。


テングザルはしばらく驚いた顔をした。


「……いいのか」


「今日くらいは」


ふたりで温泉に入った。ゲラダヒヒも来た。ホエザルも来た。マンドリルも来た。気づいたら全員で入っていた。


ニホンザルは少し複雑な顔をしたが、出ていかなかった。


「今日限りだ」と言った。


「また今度も頼む」とテングザルが言った。


「今日限りだ」


「またそのうち」


「……考える」


ワタボウシタマリンの兄は弟のために小さな巣を作った。弟は完成した巣をすぐに解体した。


「なんでだ」


「もっと高い場所に作りたかった」


「高い場所は危ない」


「クモザルが手伝ってくれると言ってた」


「クモザルを使うな」


クモザルはすでに高い木のブランコの改良をしていた。尻尾で木に引っかかりながら、蔓の張り直しをしている。楽しそうだ。


ピグミーマーモセットは小さな木の欠片を積み上げていた。


「何?」とワタボウシタマリンの兄が聞いた。


「まだわからない」


「わからないで作ってるのか」


「作りながら決める」


「それは作り方か?」


「おれの作り方だ」




夕方になって、全員が集まった。それぞれが作ったものを持ってきた。


チンパンジーの装置(二号)、ニホンザルが整えた温泉の縁、ワタボウシタマリンの弟の巣(弟が解体した後のもの)、ゲラダヒヒの草の束、ピグミーマーモセットの木の欠片の積み上げ。


カニクイザルは何かを作ろうとしたが全部割ってしまったので、割った石の欠片を並べて「作品だ」と言った。だれも反論しなかった。


「今日はよかったな」とチンパンジーが言った。


「何がよかった」とニホンザルが言った。


「みんなで何か作った」


「おれは温泉の縁を整えただけだ」


「それも作ることだ」


ニホンザルは少し黙った。


「……そうか」


湯気が森の夕暮れの中に立ち上っていた。全員がそこに座って、それぞれの作ったものを見ていた。大したものは何もない。でも、みんなが何かを作った日だった。




夜、森が静かになった。


ピグミーマーモセットは自分が積み上げた木の欠片を見た。


積みながら、考えていたことがある。


扉のそばを、前に一度通ったことがある。そのとき、向こうから水の音がした。噴水の音だろうか。それとも別の何かだろうか。


押してみたら、ひらくかもしれない。


でもおきては「勝手に入らない」だ。


ピグミーマーモセットはしばらく木の欠片を見ていた。


積み上げた形は、何かに似ている。


扉に、似ている。


気のせいかもしれない。


空を見上げた。星が出ていた。


遠くで、カナリアの声がした。どこか遠くの、トリの枝道の方から。


ピグミーマーモセットはしばらく、その声を聞いていた。


それから、木の欠片をそっと一本だけ抜いた。積み上げたものが少し崩れた。でも、倒れなかった。


「……丈夫だな」


小さな声で言った。それが今夜の、ものづくりの最後の仕事だった。




その頃、犬の丘では――


柴犬が丘のてっぺんで、夜空を見ていた。


いつもの場所だ。


遠くで、何かが光っている気がした。でかい木の黒板がある広場の方向だ。光っているのか、月の光が当たっているだけなのか、よくわからない。


「……」


柴犬は何も言わなかった。


ただ、ずっと、その方向を見ていた。


しっぽが、ゆっくり揺れていた。


犬の丘も、猫の路地も、ウサギ草原も、トリの枝道も、サルの森も。


それぞれが、それぞれの毎日を過ごしている。


でかい木の黒板は、今日も真っ白だ。


扉は、今日も静かに立っている。


鍵は、かかっていない。


ずっと、かかっていない。


だれかが押す日を、ただ待っている。


その日は、もうすぐだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ