第七話 サルの森のものづくり祭り
ものづくり祭りは、チンパンジーが言い出した。
「みんなで何かを作る日を作りたい」
「何を作る?」とカニクイザルが聞いた。
「なんでもいい」
「なんでもいいのか」
「なんでもいい。作りたいものを作ればいい」
「それは祭りじゃなくて、各自が作るだけじゃないか」
「みんなで同じ日に作るから祭りだ」
カニクイザルはしばらく考えた。
「……それでいいか」
「それでいい」
そういうわけで、ものづくり祭りが開かれた。
チンパンジーは、新しい装置を作った。今度は距離と方向を調整できるようにした。三時間かかった。完成した瞬間に、カニクイザルに壊された。
「なんでだ」とチンパンジーが言った。
「割りたかった」とカニクイザルが言った。
「割るのは石だけにしろ」
「これも石でできてる部分がある」
「それ以外の部分が大事だ」
カニクイザルは少し考えた。「……もう一回作れるか」
「作れる」
「じゃあいい」
「よくない」
でもチンパンジーはまた作り始めた。次の試作品だ。
ニホンザルは温泉の周りに石を並べた。より快適に入れるように、縁を整えた。
整えながら、ふと思った。
「入る?」とテングザルに言った。
テングザルはしばらく驚いた顔をした。
「……いいのか」
「今日くらいは」
ふたりで温泉に入った。ゲラダヒヒも来た。ホエザルも来た。マンドリルも来た。気づいたら全員で入っていた。
ニホンザルは少し複雑な顔をしたが、出ていかなかった。
「今日限りだ」と言った。
「また今度も頼む」とテングザルが言った。
「今日限りだ」
「またそのうち」
「……考える」
ワタボウシタマリンの兄は弟のために小さな巣を作った。弟は完成した巣をすぐに解体した。
「なんでだ」
「もっと高い場所に作りたかった」
「高い場所は危ない」
「クモザルが手伝ってくれると言ってた」
「クモザルを使うな」
クモザルはすでに高い木のブランコの改良をしていた。尻尾で木に引っかかりながら、蔓の張り直しをしている。楽しそうだ。
ピグミーマーモセットは小さな木の欠片を積み上げていた。
「何?」とワタボウシタマリンの兄が聞いた。
「まだわからない」
「わからないで作ってるのか」
「作りながら決める」
「それは作り方か?」
「おれの作り方だ」
夕方になって、全員が集まった。それぞれが作ったものを持ってきた。
チンパンジーの装置(二号)、ニホンザルが整えた温泉の縁、ワタボウシタマリンの弟の巣(弟が解体した後のもの)、ゲラダヒヒの草の束、ピグミーマーモセットの木の欠片の積み上げ。
カニクイザルは何かを作ろうとしたが全部割ってしまったので、割った石の欠片を並べて「作品だ」と言った。だれも反論しなかった。
「今日はよかったな」とチンパンジーが言った。
「何がよかった」とニホンザルが言った。
「みんなで何か作った」
「おれは温泉の縁を整えただけだ」
「それも作ることだ」
ニホンザルは少し黙った。
「……そうか」
湯気が森の夕暮れの中に立ち上っていた。全員がそこに座って、それぞれの作ったものを見ていた。大したものは何もない。でも、みんなが何かを作った日だった。
夜、森が静かになった。
ピグミーマーモセットは自分が積み上げた木の欠片を見た。
積みながら、考えていたことがある。
扉のそばを、前に一度通ったことがある。そのとき、向こうから水の音がした。噴水の音だろうか。それとも別の何かだろうか。
押してみたら、ひらくかもしれない。
でもおきては「勝手に入らない」だ。
ピグミーマーモセットはしばらく木の欠片を見ていた。
積み上げた形は、何かに似ている。
扉に、似ている。
気のせいかもしれない。
空を見上げた。星が出ていた。
遠くで、カナリアの声がした。どこか遠くの、トリの枝道の方から。
ピグミーマーモセットはしばらく、その声を聞いていた。
それから、木の欠片をそっと一本だけ抜いた。積み上げたものが少し崩れた。でも、倒れなかった。
「……丈夫だな」
小さな声で言った。それが今夜の、ものづくりの最後の仕事だった。
その頃、犬の丘では――
柴犬が丘のてっぺんで、夜空を見ていた。
いつもの場所だ。
遠くで、何かが光っている気がした。でかい木の黒板がある広場の方向だ。光っているのか、月の光が当たっているだけなのか、よくわからない。
「……」
柴犬は何も言わなかった。
ただ、ずっと、その方向を見ていた。
しっぽが、ゆっくり揺れていた。
犬の丘も、猫の路地も、ウサギ草原も、トリの枝道も、サルの森も。
それぞれが、それぞれの毎日を過ごしている。
でかい木の黒板は、今日も真っ白だ。
扉は、今日も静かに立っている。
鍵は、かかっていない。
ずっと、かかっていない。
だれかが押す日を、ただ待っている。
その日は、もうすぐだ。




