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なかよしの設計図は作成中です。  作者: 鍵しっぽハンター
第五章 サルの森のさわがしい毎日 ―― 独り占めしたい気持ちと、手放す勇気

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第六話 ピグミーマーモセットが一番前に立った日



ピグミーマーモセットは、アマゾン流域に生きる霊長類の中で世界最小の種だ。体重が百グラム程度で、手のひらに乗る大きさだ。木に鋭い爪を立ててはりつき、樹液を主食とする。小さいが動きが素早く、驚くほど敏捷だ。


サルの森でいちばん小さい。


でも、なぜかいつも一番前にいる。




その日の朝、森の端で何かがいた。


正確には、音がした。


葉がざわざわする音だ。でも風が吹いているわけじゃない。


ニホンザルが最初に気づいた。温泉から上がって、音のほうを見た。


葉の陰に、何かがいる。大きくはない。でも、確かにいる。


ニホンザルは後退りした。見えない相手はこわい。


チンパンジーが来た。


「何かいるのか」


「いる。葉の向こうに」


チンパンジーも止まった。


ホエザルが来た。


「どうした」と大きな声で言った。


葉がびくっとした。向こうの何かが、驚いたらしい。


「うるさい」とニホンザルが言った。


「静かにしてる」


「してない」


こそこそと、気づいたらサルの森の全員がそこに集まっていた。全員が葉の陰の「何か」を見ている。でも、だれも近づかない。


そのとき、ピグミーマーモセットが前に出た。


ちょこちょこと、小さな足で、葉の方へ向かっていく。


「待て」とニホンザルが言った。「危ないかもしれない」


「見てくる」とピグミーマーモセットが言った。


「小さいから何かあったら」


「小さいから素早い」


ピグミーマーモセットは葉に近づいた。葉をそっとかき分けた。


向こうに、小さなトカゲがいた。


ちいさくて、緑色で、目がまん丸だ。


ピグミーマーモセットを見て、固まっている。


ピグミーマーモセットも、少しだけ固まった。


それから言った。


「こんにちは」


トカゲはびくっとした。でも逃げなかった。


「……こんにちは」とトカゲが言った。小さな声で。


ピグミーマーモセットは振り返って、全員に言った。


「トカゲだ。こわくない」


全員がほっとした顔をした。


ニホンザルが「そうか」と言って、温泉の方へ戻っていった。チンパンジーがノートに何かを刻みはじめた。ホエザルが「よかった!!」と大声で言って、トカゲがまたびくっとした。


トカゲは岩陰の小道の子で、迷い込んできたらしかった。


ピグミーマーモセットはトカゲに、帰り道を教えた。道はよく知らなかったので、行ける方向まで一緒に歩いた。


「ありがとう」とトカゲが言った。


「どういたしまして」


「あの大きい集団の中で、最初に来てくれた」


「そうだな」


「怖くなかった?」


ピグミーマーモセットは少し考えた。


「怖かった」


「でも来た」


「来ないと、ずっと怖いままだから」


トカゲは少しだけ目を細めた。


「……なるほど」


ピグミーマーモセットはトカゲを見送った。小さな緑のトカゲが葉の中に消えていった。


森に戻ったとき、ワタボウシタマリンの兄が声をかけてきた。


「ピグミーマーモセット、よかったな」


「何が」


「一番前に行ったこと」


「みんなが行かなかったから」


「それだけじゃないと思う」


ピグミーマーモセットは少し首をかしげた。


「怖かったって言ってたじゃないか」とワタボウシタマリンの兄が言った。


「言った」


「でも行った。それが、すごいと思う」


ピグミーマーモセットはしばらく考えた。


「怖いのに行くのが、すごいのか」


「そうだと思う。少なくともおれにとっては」


「おれは毎回そうしてる」


「だからすごいんだよ」


ピグミーマーモセットは何も言わなかった。


でも、森の中をちょこちょこ歩く足が、少しだけ軽くなった気がした。


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