第三話 マンドリルのかおのひみつ
マンドリルは、中央アフリカに生きる霊長類の中で最も大きい地上性のサルだ。オスの顔は青・赤・黄と鮮やかな色に彩られている。この色は健康状態や興奮度によって変化する。派手な顔は威嚇や求愛に使われるが、同時にとても目立つ。
マンドリルはそれが気になっている。
その朝、マンドリルは池の水面に顔を映していた。
青と赤と黄色が、水の中に映っている。
静かな池だ。風がないから、水面がほとんど揺れない。揺れない分、顔がくっきりと映る。青い線と赤い面と黄色い縁が、そのまま映る。
「……今日も派手だ」
「派手だな」とホエザルが通りがかって言った。
ホエザルは、中南米の熱帯雨林に生きるサルだ。陸上の動物の中で最も大きな声を出すといわれていて、その声は数キロ先まで届く。本人が一番困っている。
「わかってる」
「かっこいいと思うけど」とホエザルが言った。かなり大きい声で。
「そういう問題じゃない。見られる。どこにいても顔が目立つから、すぐ見つかる。たまには隠れたい」
「おれも似たことがある」
「声か」
「うん。静かにしたいときに声が大きすぎる。内緒話ができない」
マンドリルは水面を見た。
「……じゃあ、お互いそういう体か」
「そうかもしれない」
「慣れるものか」
「慣れはしない」とホエザルは言った。「ただ、しかたないとは思ってる。生まれつきだから」
「しかたない、か」
「うん。でも」とホエザルはすこし声を落とした。それでもかなり大きかった。「おれの声で、森のみんなが朝に起きるだろ。あれ、おれにしかできないことだとは思う。みんな迷惑そうだけど」
マンドリルは少し笑った。
「……それはそうだな」
「マンドリルの顔も、同じじゃないか。目立つから、みんなが覚えてる。よく見つけてもらえる」
マンドリルは水面を見た。青と赤と黄色の顔が映っている。
「……目立つことと、すぐ見つけてもらえることは、同じことか」
「同じことだと思う」
マンドリルはしばらく黙っていた。それから、水面から顔を上げた。
「……まあ、そういうことにしておく」
「それでいい」とホエザルが言った。かなり大きな声で。
マンドリルは苦笑いした。
「静かにしろ」
「してる」
「してない」
「してる」
この会話がかなり遠くまで聞こえていたが、ふたりは気づかなかった。




