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なかよしの設計図は作成中です。  作者: 鍵しっぽハンター
第五章 サルの森のさわがしい毎日 ―― 独り占めしたい気持ちと、手放す勇気

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第一話 ニホンザルと温泉独占問題

サルの森は今日も、うるさい。 でも、それがこの森の普通だ。 ただし温泉だけは、静かだ。 ニホンザルがそう決めているから。




サルの森について


サルの森は、木が多くて空が狭い。


見上げると枝が折り重なっていて、その隙間から空がのぞいている。地面は木の根と落ち葉で覆われていて、踏むたびにがさがさ音がする。どこかで常に何かの音がしている。枝が揺れる音、何かが落ちる音、だれかが叫ぶ声。


森の奥に温泉がある。


岩の間から湯が湧いていて、湯気がもわもわと上がっている。冬は特に気持ちいい。この温泉を、ニホンザルは「自分のもの」だと思っている。根拠はない。でも思っている。


発明工房もある。チンパンジーが作った場所で、道具や装置が並んでいる。本人は「工房」と呼んでいるが、外から見ると壊れかけたものが積み上がっている場所に見える。本人は「試作品の保管庫」と言っている。


高い木のブランコは、クモザルのホームグラウンドだ。地面から見上げてもよく見えない高さに、蔓を絡めたブランコがある。


ここに暮らすサルは、十匹だ。




ニホンザルは今日も、温泉に入っていた。


ひとりで。


肩まで湯の中に沈んで、目を細めている。湯気がもわもわと上がって、岩の表面を湿らせて、落ち葉のにおいと混ざる。冬の朝の森の空気が、温泉の熱で少しやわらかくなる。




ニホンザルは、日本に生きるサルだ。世界で最も北に生息するサルとして知られていて、雪の中でも平気で暮らせる。温泉に入る習慣を持つことで有名で、寒い季節になると温泉につかって温まる。赤い顔と、短い尾が特徴だ。群れの中でのランク意識が強く、自分の縄張りには敏感だ。




「入っていい?」


声がした。テングザルだ。温泉のそばに立っている。


「……ダメだ」とニホンザルは言った。


「なんで」


「今日は気分じゃない」


「気分で決めるのか」


「そうだ」


テングザルは少し考えた。


「きのうも気分じゃなかった」


「そうだった」


「一昨日も」


「そうだった」


「つまり、おれが入ろうとするときはいつも気分じゃない?」


「そういうことだ」


テングザルはため息をついて、森の別の場所へ向かった。




夕方、ゲラダヒヒが温泉のそばを通った。


ゲラダヒヒは、エチオピアの高原地帯に生きるサルだ。草だけを食べる霊長類として知られていて、草の品質にこだわりが強い。落ち着いた性格で、滅多に騒がない。


「温泉、いつもひとりだな」とゲラダヒヒが言った。


「そうだ」


「入りたい子、多いと思うけど」


「それは知ってる」


「知ってて、ひとりで入ってる?」


「そうだ。好きだから、ひとりで感じたい」


「なるほど」とゲラダヒヒは言って、また歩きはじめた。


「それだけか」とニホンザルが言った。


「あとは自分で考えろ」


ゲラダヒヒは行ってしまった。


ニホンザルは湯の中で、少しだけ考えた。


好きな場所はひとりで感じたい。その気持ちは本物だ。でも「みんなが入りたいのを知っている」のも、本当だ。


「……うるさいな」


だれもいない温泉で、ひとりごとを言った。湯気が静かに上がった。




翌朝、ニホンザルが温泉へ来ると、テングザルがすでにいた。


「……いつ来た」


「夜明け前」


「早すぎる」


「早く起きたから」


ニホンザルは温泉を見た。テングザルが入っている。


「出ろ」


「嫌だ」


「ここはおれのだ」


「どこにそう書いてある」


「……書いてない」


「なら共有だ」


ニホンザルはしばらく立っていた。テングザルは知らん顔で湯に浸かっていた。


「……入るぞ」


「どうぞ」


ニホンザルは温泉に入った。端と端に分かれて、ふたりで黙って入った。


しばらく経って、テングザルが言った。


「あったかいな」


「……そうだ」


「ひとりより、ふたりのほうが」


「……どっちも同じだ」


「本当に?」


ニホンザルは何も言わなかった。


答えを言わなかったけど、その日は温泉から出るのが、いつもより少し遅かった。


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