第七話 トリの枝道の歌合戦
「歌合戦をやろう」と言い出したのは、セキセイインコだった。
「ルールは?」とキンカチョウが聞いた。
「歌う。それだけ」
「審査は?」
「しない。ただ歌う」
「それは歌合戦なのか」
「楽しいから歌合戦だ」
そういうわけで、歌合戦が開かれた。
夕方の枝道に、全員が集まった。歌ステージに一匹ずつ上がって、歌う。それだけだ。
セキセイインコが最初に上がって、歌いながら話した。何を言っているかよくわからなかったけど、元気だった。
コンゴウインコは歌ではなく、羽を広げて見せた。「これも表現だ」と言った。だれも反論しなかった。
オカメインコは小さな声で短い歌を歌った。冠羽がずっとぴんと立っていた。歌い終わったとき、冠羽が急に横に広がった。
「今の冠羽は?」とセキセイインコが聞いた。
「恥ずかしいのか嬉しいのか、両方」とオカメインコが言った。
ハトは「歌を知らない」と言ったが、「帰巣本能についての即興詩」を読んだ。韻を踏もうとした形跡があった。うまくいっていない箇所が多かった。本人は気にしていなかった。
コザクラインコはセキセイインコのそばから離れたくなかったが、セキセイインコが「行っておいで」と言ったので、ステージに上がった。小さな声で、まっすぐ歌った。歌い終わって「よかったよ」とセキセイインコが言った。コザクラインコの羽がふくらんだ。
キンカチョウはステージには上がらず、全員の様子を記録した。「個人的には上がりたくない」と言った。だれも無理強いしなかった。
キバタンはものすごい声で歌った。音程は関係なかった。でも全力だった。歌い終わったとき、自分で泣いた。感動したらしい。
コールダックは「農業の歌」を歌った。「種をまいて、水をやって、育てる」という内容だった。シンプルだったが、ニワトリが「いい歌だ」と言った。
ニワトリはステージに上がって、いつもの朝の鳴き声を出した。
全員が少し目を覚ます感じがした。
「朝じゃないのに朝の感じがする」とコザクラインコが言った。
「朝は気合だ」とニワトリが言った。
「哲学だ」とキバタンが言った。
そして最後に、カナリアが上がった。
枝道が静かになった。
カナリアは少しだけ空を見た。夕暮れが始まっていて、空が橙色と青の間の色になっていた。
歌い始めた。
最初の音が出た瞬間から、空気が変わった。
コンゴウインコは羽の手入れを止めた。ハトは上を向いた。コザクラインコはセキセイインコの羽に顔を埋めた。キンカチョウは記録するのを忘れた。
キバタンは泣いた。今日もまた、止まらなかった。
歌が終わった。
しばらく、だれも何も言わなかった。
「……いい声だ」とヨウムがようやく言った。
「うん」とオカメインコが言った。冠羽がゆっくり揺れている。
カナリアはステージから降りた。
「泣かせてしまった」と小さく言った。
「泣きたかったから泣いた」とキバタンが泣きながら言った。
「そういうものか」
「そういうもの!!」
カナリアは少しだけ、羽を膨らませた。
夜になって、みんながそれぞれの枝に戻った。
キンカチョウだけが残って、観察ノートの木の前にいた。
今日の記録を刻む。
歌合戦のこと、それぞれの歌のこと、キバタンが泣いたこと、カナリアの声のこと。くちばしで、ひとつひとつ丁寧に。
刻いていて、ふと思った。
今日の記録を、将来だれかが読むかもしれない。別のエリアの子が読むかもしれない。
「その日の夕暮れ、カナリアが歌った。空が橙色と青の間の色をしていた」。
そう刻んだ。
それから、足あとのことも刻んだ。
「共用エリアの地面に、複数の足あとが残っているという。ヨウムから聞いた。いつか確かめに行く必要があるかもしれない」。
ノートを閉じた。空を見た。
星が出ていた。
どこか遠くで、草が揺れる音がした。ウサギ草原の方向だろうか。
そこでも今頃、だれかが空を見上げているかもしれない。
その頃、サルの森では――
ニホンザルが温泉の縁に腰をおろして、湯気の向こうを見ていた。
遠くから、かすかに声が聞こえた。
歌、だろうか。
「……うるさい」
ひとりごとを言った。
でも、温泉から出ようとはしなかった。
湯気に包まれながら、もう少しだけ聞いていた。




