第六話 ヨウムの話が長すぎる問題、カナリアが解決する
ヨウムは、中央アフリカに生きる大型のインコだ。灰色の体に赤い尾羽が特徴で、「鳥のアインシュタイン」と呼ばれることもある。語彙が豊かで、文脈を理解して言葉を使う。物知りで、少し偉そう。でも本当はさみしがりだ。説明が長い。
その日の昼、ヨウムが枝道のみんなを集めた。
「今日は面白いことを知ったので、共有する」
全員が集まった。
「動物の足あとには種族ごとに特徴があって、それを読み解くことで、だれがどこを通ったかを記録できる。これを「足跡学」という。まず足の指の数について説明するが、鳥類は基本的に四本指で……」
セキセイインコが枝の上で左右に揺れはじめた。
「……足指の形は三種類あって、前向きが三本で後ろが一本の「三前一後型」が一般的で……」
コザクラインコがセキセイインコにそっとくっついた。
「……一方で猛禽類は……」
キバタンの冠羽が完全に下がった。
「……この足跡学を応用すると、共用エリアの地面に残った足あとから、そこを通った種族がわかる可能性がある。つまり、扉の向こうに何が……」
「ちょっといい?」
カナリアが言った。
全員がカナリアを見た。
「なんだ」とヨウムが言った。少し意外そうだ。
「今の話、一言でいうと、足あとを見ると誰が来たかわかる、ってこと?」
「……そういうことだが、前提となる知識として足指の構造から……」
「それは後で聞く。まず一番大事なことだけ言ってくれる?」
ヨウムは黙った。
一番大事なこと。
「……共用エリアの地面に、いろんな足あとが残っていた。種類が違う。ということは、扉の向こうへ行ったことがある子が、複数いる可能性がある」
「それ、最初に言えばよかった」
「前提が必要だと思って……」
「みんな今の一言で、ちゃんと聞く顔になったよ」
ヨウムは全員を見た。
確かに、さっきまでよそ見をしていた子たちが、今は前を向いている。
「……そうか」
「詳しい話は、興味がある子が聞けばいい。全員に最初から全部言わなくても」
「……そういうものか」
「そういうものだと思う。ヨウムの話はおもしろいから、もったいない」
「もったいない?」
「最初に長いと、聞いてもらえない。でも一番大事なことを最初に言えば、もっと聞いてもらえる」
ヨウムは少し黙った。
それから言った。
「……それは知らなかった」
「うん」
「勉強になった」
「うん」
セキセイインコが「カナリアすごい」と小さく言った。キンカチョウが日誌に記録した。「カナリア:ヨウムの話を要約。全員が聞く態勢になった」。
ヨウムはしばらく考えてから、もう一度全員に向かって言った。
「共用エリアに複数の足あとがある。だれが行ったかはわからないが、扉の向こうを知っている子が、ここの中に何匹かいる可能性がある。以上だ」
「それだけ?」とコンゴウインコが言った。
「詳細が聞きたい者は、後で来るといい」
キバタンが羽を広げた。
「行く! 詳しく聞きたい!」
ヨウムは少し驚いた顔をした。それからゆっくり頷いた。
「……わかった。待ってる」
その夜、ヨウムとキバタンは観察ノートの木のそばで話し込んでいた。
ヨウムの話は長かったけど、キバタンは全部聞いた。泣いたり笑ったりしながら。
ヨウムは、だれかがちゃんと聞いてくれることが、思っていたより嬉しかった。




