第四話 コールダックが畑を掘り始めた(また)
コールダックは、枝道の外れの地面を掘っていた。
くちばしでとんとんと。
「また掘ってる」とニワトリが通りかかって言った。
「掘ってない。調査してる」
ニワトリは、世界中で最も広く飼われている鳥だ。赤いとさかと、垂れた肉垂が特徴で、オスは夜明けに鳴く。農業や食と深い関わりがあり、朝の訪れを告げる存在として長い歴史を持つ。几帳面で規律を大切にする。自分が鳴かなければ朝が来ないと信じていて、その信念を一度も曲げたことがない。毎朝全員に怒られる。やめない。
「調査と掘るのは同じだろ」とニワトリが言った。
「違う。土の状態を確認してる」
「なんのために」
「ここに畑を作れるかどうかを確認してる」
「また畑の話か」
「また、じゃない。継続してる」
ニワトリはコールダックのそばにしゃがんで、地面を見た。
「土、どうだ」
「悪くない。少し乾いてるけど、水をやれば使える。午後から日が当たるから、葉ものより根菜が向いてる」
「なるほど」
「植えるならまず根菜だ。それから葉ものは別の場所に」
「おれも畑、一回やってみたかった」
コールダックが顔を上げた。
「本当か」
「ニワトリって農業と関わりが深いから。朝を告げて、みんなを起こして、畑仕事が始まる。そういうつながりが好きだ」
「知らなかった」
「聞かれたことがなかったから」
コールダックはしばらく地面を見た。それから言った。
「一緒にやるか」
「いいのか」
「土を掘るだけじゃ畑にならない。種をまいて、水をやって、育てるところまでやらないといけない。人手はいる」
「なら手伝う」
「ただし許可が必要だ」
「だれに」
「だれに聞けばいいか、まだ考えてる」
ニワトリは少し笑った。
「ネザーランドドワーフはきまり帳を持ってる。あいつに聞けばわかるかもしれない」
「ウサギ草原の子か」
「そうだ」
コールダックはくちばしで地面をもう一度ついた。この土は絶対に畑になる。
「……申請書を作る」
「申請書?」
「許可をもらうなら、書面を出したほうが確実だ」
ニワトリは目を細めた。
「おまえもけっこう几帳面だな」
「農業は計画的にやらないと失敗する」
「そうか」とニワトリが言った。「じゃあおれが早起きして、朝のうちに土の状態を確認しておく。その時間は枝道にだれもいないから、じっくり見られる」
「毎朝鳴いてるだろ」
「鳴いた後は少し時間がある」
コールダックは少し間を置いた。
「……鳴くのやめたら、みんなもっとゆっくり眠れるんじゃないか」
「やめない」
「なんで」
「おれが鳴かないと朝が来ないから」
「……本気で思ってるの」
「思ってる」
コールダックはしばらく黙って、それから「そうか」と言った。
本気で信じているものに対して、何かを言うのは難しい。
その夜、コールダックは申請書の下書きを作った。くちばしで丁寧に土の上に字を刻んで、形を確認してから清書した。
「枝道外れ、東側地面三平方メートル、農地として使用許可申請。用途:野菜の栽培。管理責任者:コールダック、ニワトリ」。
丁寧に刻めた。
明日、ウサギ草原に届ける予定だ。




